3-18
ユミの部屋は中央の階段から東側の棟にあった。ケイは前を行くイアンたちが立ち止まるのを見て、その視線の行方を追うように扉を見やる。ディアがこちらに小さくお辞儀をし、扉を開けようとドアノブに手をかけた。だが、開かない。どうやら鍵がかかっているようだった。ディアがドアノブから手を離し、扉の向こう側にいるはずの主に向かって声をかける。
「お嬢さま。王都よりお越しの釦師さま方をお連れいたしました」
不安げな表情でイアンを振り返った彼女は、イアンから了承を得た後、躊躇いがちにノックを試みた。
「お嬢さま、釦師さまが女王陛下からのお言葉を拝命していらっしゃるそうでございます。鍵を開けてはくださいませんか?」
だが、伺いをたてる声も虚しく、扉の向こうからは何の返答もない。やはり、嫌な予感がする。ここは無理やりにでも扉を開けるべきだろうか。
ケイは唇を小さく噛みあれこれ思案を巡らせる。すると、そんなこちらを横目にユカリィが前へ進みでて、膝を折った。
「お初にお目にかかります、ユミ様。テルモアの釦師、リチャード・ルイスと申す者にございます。御目文字すること叶わず大変遺憾なことではございますが、どうかユミ様の姉君、ユカリィ女王より拝命して参りました御言葉だけでも、しばし御拝聴いただきたくお願い申し上げます」
ユカリィは扉に向かいまっすぐ視線をあげると、大きく息を吸って言い放つ。
「『親愛なる我が妹、ユミよ』」
真摯な眼差しで扉を見つめながら、ユカリィは朗々と言葉を紡いだ。
「『私が不甲斐ないばかりに長きに渡り不遇を強いてきたこと、心より申し訳なく思っている。だが、私は決意した』」
その様子は泰然として、堂々たる風体を醸し出してはいたものの、握り締められた拳が微かに震えているのをケイは見逃さなかった。普段の淡々とした態度の奥に潜む女王の苦悩を改めて思い知り、胸の奥底に暗く重たいものが広がっていく。ユカリィの言葉は続いていた。
「『苦難の時はもう終わる。これからは姉の私が必ずお前の力になり支えていくと誓おう。だから一度でいい。顔を見せてくれ』」
伝言と言うにはいささか熱がこもりすぎている気がする。ケイは一瞬ひやりとして後方の二人へ視線を走らせた。




