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「時にフルニエ侯、侯は『碧仮面』のことを御存知でしょうか?」
尋ねるケイに、フルニエ侯がうむ、と重々しく頷く。
「噂には聞き及んでおる。何でも碧い仮面を被り、釦師ばかりを狙う神出鬼没の殺戮者だとか」
ケイはフルニエ侯の言葉に頷き返し、意識して声を張りあげた。
「実は過日、彼の者が私どもの前に現れまして」
「なんと」
「フルニエスに来るように、との招待を受けたのでございます」
「ほう、わが領地へ、と?」
ケイはひたとフルニエ侯の双眸を見据え、その反応をうかがいながら言葉を紡ぐ。フルニエ侯がわずかに目を細め、ほんの少しだけ視線を上向けた。ケイはその様子を見て、そうはいくか、とフルニエ侯の視線を追いかける。
「何かお心当たりは御座いませんでしょうか?」
尋ねるケイの言葉に、フルニエ侯の視線がふと虚空で留まった。必要に追いかけてくる視線に辟易したのか。それともこちらの思い違いなのかは定かではないが、ケイに視線を合わせてくると、瞬きもせずはっきりとした口調で答えてくる。
「いや、何も」
「ほんの些細な事柄でも構いませぬが……」
言葉の真意を測ろうと視線を投げかけるケイに、フルニエ侯が首を左右に振った。
「相すみませぬ。心にかかることは何も思い当たりませぬな。お役に立てず申し訳ない」
眉根を寄せて答えてくるフルニエ侯の瞳からは、深い同情の色しか見つけられない。
「いえ、お気になさらないでください。少しばかり確認いたしたかったのみにございますので」
密かに落胆しながら頭を振ると、そこへ先刻の侍女、ルナが同じ服装の少女をつれて戻ってきた。




