3-12
「あれれ? この人しってる。この前のわるい人だね」
無邪気に問うルーに、呼吸を整えながら碧仮面が小さく頷く。
「そうだ」
「ころしちゃっていい?」
「だめだ」
小首を傾げるルーに、碧仮面が短く答える。ルーは露骨に顔を膨らませ、不服を露わにした。
「ぶう」
碧仮面はルーの抗議を無視し、予断なくケイたちに視線を送りながら、短く言い捨てる。
「退くぞ」
「はあい」
元気よく手を挙げるルーとは対照的に、碧仮面はゆっくりとケイたちと間合いをとっていく。
「忘れるな」
仮面の奥の瞳が妖しく輝き、碧仮面が低くうなった。
「いずれ時が来たなら、その時は間違いなくお前を殺す」
「ばいばあい」
碧仮面は、手を振るルーをボタンに戻して飛び退ると、森の奥へ消えた。ケイは完全に気配が消えたことを確認してから、緊張を解く。ふいにまばゆい光が起こり、振り向くと元の姿に戻ったユカリィがいた。
「大丈夫か」
ユカリィがケイの腕を見ながら問う。ケイは頷き、かすっただけだ、と答えた。
「それよりどうする。やっぱり君は帰った方が良くないか?」
「いや、まだだ。奴の言った『主』とやらが何者なのかがわからなければ、どこにいても同じだ」
ケイは諦めを滲ませつつ、それでもやはり尋ねてみる。
「罠だとわかっていても、か?」
「言ったはずだ。私にはやるべきことがあるんだ」
短く言って歩きだすユカリィ。ケイは両手を後頭部で組みながら、空を見あげた。雲一つない水色の世界。果てのない様は、これから起こりうる諸々《もろもろ》を映し出しているようだ。
「忘れてないさ」
ケイは視線を戻し、ユカリィの後ろ姿を眺めぼやいた。
「忘れたかったことは確かだけどね」




