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王の匠  作者: 朝川 椛
フルニエス
39/101

3-11

「今のお前が私に勝てるとでも?」

「負ける気がしないんだ」


 ケイは肩をすくめ答える。


「特に、憎しみで瞳を曇らせたヤツにはね」


 小さく鼻を鳴らすケイに、碧仮面が沈黙する。

ケイは押し黙る碧仮面へ無造作に近寄ると、腰に手をやり皮肉を込めて右の口角を上げた。


「殺したいんだろう、俺を。どこかで会ったことがあったか? 同族で俺みたく半端なヤツが他にいた記憶はないんだけどな」

「黙れ!」


 怒気を露わに碧仮面が長針ニードルを投げつけてくる。ケイは投げつけられた長針をかわしざまにたたきつけ、ユカリィたちの前に立った。たたきつけられた長針は、地面に着く直前で碧仮面に金糸ごと巻きとられる。碧いローブで覆われた細い肩が、小さく揺れていた。


(焦っているのか?)


 肩で息をする碧仮面を見て、ケイは目を瞠る。先日遭遇した際に感じられていた余裕が、今は若干薄れていた。


(何故だ?)


 だが、そんなケイの驚きなど意に返さず、碧仮面が叫ぶ。


「お前に分かるものか! 何も知らずぬくぬくとぬるい幸せを享受きょうじゅしてきたお前なんかに、私がそれまでどんな思いで生きてきたかなど!」

「そりゃまあ、不幸だったと胸を張って言うつもりはないけど」


 眉を顰めて答えつつ、瞬時に長針を放つ。たたき落そうとする碧仮面の腕に、一瞬早く金糸が巻きついた。


「ぬくぬくと暮らしていたつもりもないかな」


 答えながら戻ってきた長針を強く引いて動きを封じ、ケイは碧仮面へとにじり寄った。


「くっ!」


 抗う碧仮面を羽交い絞めにし、顔を上向かせる。頭の布を強く引きながら、ケイは静かに問いかけた。


「何故そんなにも俺が憎いんだ?」

「自分の胸に聞いてみるんだな!」


 言うが早いか、碧仮面が袖に隠していた碧いロスタルムを小さく弾く。


「ケイ!」


 アーナの声に反応し、ケイはとっさに後ろへ飛んだ。腕が切り裂かれ、血が噴きだす。ケイは痛む腕を押さえながら宙を睨んだ。視線の先には碧仮面の合図で現れたルーが、楽しげに微笑んでいた。

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