3-11
「今のお前が私に勝てるとでも?」
「負ける気がしないんだ」
ケイは肩をすくめ答える。
「特に、憎しみで瞳を曇らせたヤツにはね」
小さく鼻を鳴らすケイに、碧仮面が沈黙する。
ケイは押し黙る碧仮面へ無造作に近寄ると、腰に手をやり皮肉を込めて右の口角を上げた。
「殺したいんだろう、俺を。どこかで会ったことがあったか? 同族で俺みたく半端なヤツが他にいた記憶はないんだけどな」
「黙れ!」
怒気を露わに碧仮面が長針を投げつけてくる。ケイは投げつけられた長針をかわしざまにたたきつけ、ユカリィたちの前に立った。たたきつけられた長針は、地面に着く直前で碧仮面に金糸ごと巻きとられる。碧いローブで覆われた細い肩が、小さく揺れていた。
(焦っているのか?)
肩で息をする碧仮面を見て、ケイは目を瞠る。先日遭遇した際に感じられていた余裕が、今は若干薄れていた。
(何故だ?)
だが、そんなケイの驚きなど意に返さず、碧仮面が叫ぶ。
「お前に分かるものか! 何も知らずぬくぬくとぬるい幸せを享受してきたお前なんかに、私がそれまでどんな思いで生きてきたかなど!」
「そりゃまあ、不幸だったと胸を張って言うつもりはないけど」
眉を顰めて答えつつ、瞬時に長針を放つ。たたき落そうとする碧仮面の腕に、一瞬早く金糸が巻きついた。
「ぬくぬくと暮らしていたつもりもないかな」
答えながら戻ってきた長針を強く引いて動きを封じ、ケイは碧仮面へとにじり寄った。
「くっ!」
抗う碧仮面を羽交い絞めにし、顔を上向かせる。頭の布を強く引きながら、ケイは静かに問いかけた。
「何故そんなにも俺が憎いんだ?」
「自分の胸に聞いてみるんだな!」
言うが早いか、碧仮面が袖に隠していた碧いロスタルムを小さく弾く。
「ケイ!」
アーナの声に反応し、ケイはとっさに後ろへ飛んだ。腕が切り裂かれ、血が噴きだす。ケイは痛む腕を押さえながら宙を睨んだ。視線の先には碧仮面の合図で現れたルーが、楽しげに微笑んでいた。




