3-9
「なあ」
「なんだ」
「フルニエ侯がマルソーニの血統だというのは本当なのか?」
躊躇いがちに尋ねた言葉に、ユカリィがあっさり頷いた。
「ああ、傍流ではあるが確かにそうだ。私の祖父の代から我が国によく仕えてくれた忠臣の一人でもある。加えてアランドは勤勉で、広い見識を持った器の大きな人物と聞いている。他の廷臣たちからの信頼も厚く、父上もその知識力を買って、我が国の懐刀でもある西の都の領主に任じたんだ。まあ、すべてカイトから聞いたことだから確かなことかは何とも言えないが」
そこでユカリィが言葉を切り、腕を組んでこちらを見やる。
「マルソーニの血統だと、何か問題でもあるのか?」
「伝承にある通りなら、彼らの祖先であるメリル・マルソーニと八十島明は二人で秘密裏に研究を重ね、独自の技術を開発していたことになる。その成果が『血の蕾(ブラッディ・ボターナ)』だ。当時彼らにはそれを操る自信があったようでもある。ということは、だ。二人の間に出来た子供が、その血と一緒に技術を受け継いだか探り当てたってことも十分考えられるだろう? それはつまり、俺たち『レイラリアの民』とあまり変わらない性質を持ってるってことだ」
「それは、具体的にいうとどんなものなんだ?」
「そうだなあ。たとえば、夜眠らなくてもいい、とかかな」
肩をすくめながら答えるケイに、ユカリィが、なるほど、と呟いた。ケイは思案顔のユカリィにちらりと視線をやりながら、さり気なさを装い尋ねる。
「君、エリオット公の言うことも信じてないんだな」
「そうではない。ただ……」
ユカリィが小さく唇を噛み言葉を切るのを、ケイは見守った。やがて組んでいた腕を解いたユカリィが、何かをふっきるように息を吐く。
「実際に会ってみなければ真実は分からないだろう? 毎日顔をつき合わせていたって本音の見えないことだらけなのだから」
「そりゃまあ、道理だけどさ」
答えながら顎に手をあてケイは黙考した。
どちらにしても、今はこれ以上追及しても無駄だろう。ケイはそう即座に判断して、次の言葉を待っているらしいユカリィに笑いかけた。
「要するにあれだ」
「何だ」
「悩めるお年頃ってやつなんじゃないか?」
ケイは大仰に人差し指を立て軽口をたたくと、ユカリィが押し黙った。ケイは少しだけ焦って、ユカリィの顔を覗きこむ。
「怒ったか?」
「いや。でも」
ユカリィは首を横に振り、前方を向いたまま軽く眉根を寄せた。
「ケイに言われる筋合いではない気がするな」
「まったくだな」
ケイはユカリィの言葉に心から頷き、ユカリィを見やる。と、突如ユカリィが立ち止まり、じっと虚空を見据えた。




