3-8
翌朝、日の出とともに起きだして、軽い朝食の後二人は宿をでた。
白い息を吐きだしながら、高く透き通るように照らす日差しの下、街道を抜け森へと入る。辺りはまもなく鬱蒼とした木々に覆われた。微かな木漏れ日がたまにケイの瞳へと眩しく降りそそぐ。ケイは、前方を軽やかな足どりで進むユカリィを複雑な思いで眺めやった。
旅慣れていない身体だ。昨日の疲れが、残っていないはずはない。
(なぜ、そこまでして)
ケイは重い溜め息をつき、己の浅茶色い頭髪をくしゃりと掴んだ。
太陽の力を統べる者、己が守るべき運命にある存在。女王を守りたい。それは本心だ。離れていたい、と思う心と同等の重さで、彼女の心の安寧を深く願っている。それが幼き日に、彼女と交わした約束だから。
(けど……)
ユカリィを守るということは、ケイが『王の匠』となることにほかならない。だが、ケイにはまだ、その決心がつかなかった。
(どっちつかずは身を滅ぼすって、昔父さんが言ってたっけな……)
実際にはどっちつかずどころか、逃げ出してしまった自分である。今更「守る」だなんて、おこがまし過ぎて思うことさえ恥ずかしい。
ケイは首を強く左右に振る。そうすることで、開きかけた思い出や整理不能のガラクタな思いに、無理やり蓋をした。
「どうした?」
掛けられた声に瞠目する。前を見ると、立ち止まり怪訝な面持ちでこちらを見つめているユカリィと目が合った。
「いや、別に」
芸のない返答だと苦りつつ、ケイはとっさにかぶりを振る。
「そうか」
何を納得したのか、ユカリィは言葉短かに小さく頷いた。おもむろに踵を返し、歩きだす。それは、どんな小さな疑問さえ振り払い忘れ去ろうとするような、どこか嘆きにも似た動作で。
(やっぱり)
どうしても、放ってはおけない。運命だからとか、そういう複雑なことはまだはっきりと意識できてはいないけれど。
ユカリィを守る。少なくとも、今この時は。
細い背中の後を追いながら、ケイは理屈ではない胸のざわめきを無視して問いかけた。




