3-3
辿り着いたのは、小さな町の寂れた宿屋。本来なら一国の女王を泊められるような場所ではないが、ここはしかたがない。ともかく彼女が寝てしまう前に無事宿がとれてよかった。ケイは隣のベッドに横たわろうとしているユカリィの様子を眺めながら、ほっと胸を撫でおろす。
「では休む」
「ああ」
ユカリィが挨拶もそこそこに瞳を閉ざすと、ほどなくして全身が光輝き、三体の『伝説のロア』が現れた。翡翠色の巻き毛、黄金色の瞳、向日葵の形を模した黄色いドレス。どれを取っても五歳の頃初めて会ったユカリィ女王そのもので、ケイは心底憮然とした。せっかく塞ごうと必死になっている傷口に、やっとできたかさぶたを無理やりはがされた気分である。ケイは、どうにかしてくれよ、と叫びたい気持ちを抑え、
「どうも」
と軽く手を挙げた。ベッドの脇では肉体、理性、想像の三体が一様にこちらを見つめている。一体はぼんやりと、一体は淡々と、残りの一体は少しだけ憂いを帯びた表情をしていた。
「眠らないのか?」
口調からしてユーリと見られる少女が、淡々とした瞳で問うてきた。
「まだやることがあるんですよ」
頭を小さくかたむけながら荷物の前に座りこむと、ユーリの横にいた少女が小さく微笑む。恐らくアーナだろう。
「お手入れですの?」
「ええ」
答えつつ、袋の中から数本のロスタルム棒と、クレスチェと呼ばれるペンチのようなはさみ型を取りだした。




