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王の匠  作者: 朝川 椛
疑惑と旅立ちと
28/101

2-15

 エトランディス城を後にしたケイは、早々に旅支度をして街の正門へとやってきた。石造りのアーチを抜けると、白い日差しが目に入る。先には黄土色の草原と小高い丘。細い街道を歩きだすと、少し行った樹の木陰に人影を見つけた。通りすがりに確認して、ケイは溜め息をおとす。佇んでいたのは黒髪の少年だった。浅緑色のサーキュラーケープを身に纏い、腰にはレイピアを提げている。ケイは一瞬、見なかったふりをして通りすぎてしまおうかと考えたが、結局立ちどまり少年を見据えた。


「戻ってください」

「よく気づいたな」


 少年は無造作に黒髪をわし掴みながら、こちらへとやってきた。浮きあがった黒髪から現れたのは、豊かな長い翡翠色の巻き毛。ケイは驚き、素っ頓狂すっとんきょうな声をあげた。


「切ったんじゃなかったんですか!」

「あれはかつらだ。そんな馬鹿なことをするわけないだろう。これは王家の象徴だからな」


 翡翠色の髪を一房掴んでみせながら、女王ユカリィは淡々とした口調で語った。


「一体どうやってここまで……。というより、そこまでして行きたいですか」

「当たり前だ。私にはやるべきことがある」


 女王は頷き、


「それに、ここまで連れてきたのはジョージだぞ」


 ケイを一瞥して軽やかな足どりで街道を歩きだす。


(祖父さんのやつ)


 ケイは痛みだしたこめかみを、人差し指で押さえた。何とかこの世間知らずの我が儘女王を、城へ帰す手立てはないものか。自らの乏しい経験から知恵を引きだそうと試みるが、当然のことながら良いアイデアなど浮かばない。先に歩き始めていた女王が、不思議そうに振り返った。


「行かないのか」

「一緒にはね」


 ケイは肩をすくめ、皮肉たっぷりに口元を歪ませる。女王はそうか、とあっさり納得し、


「ならば一人で行く」


 歩きだしてしまう。ケイは慌てて追いかけ女王の前に回りこんだ。


「止めても無駄だってことですか」


 女王は無言でうつむき、手にしていた鬘をぐっと握りしめた。


「女王」


 ケイはできるだけ優しい声音を意識して問う。女王は弾かれたように顔をあげ、こちらの顔をじっと見据えた。


「女王はやめてくれ。私はユカリィだ」


 女王は唇を噛みしめ視線を逸らさず言い切ると、荒々しく鬘をかぶりだす。ケイは頭を掻きむしりたい衝動を振り払い、天を仰いだ。こうと決めたら梃子でも動かないこの姿勢。剛毅ごうき、と言えば聞こえはいいが、実際やっていることはめちゃくちゃである。これでは認めるしか道がないではないか。ケイは本日何度目かの盛大な溜め息をおとし、苦笑した。


「承知いたしました」


 自らの負けを認め、うやうやしく頭をさげる。


「礼はいい。敬語もやめてほしい。私はケイより年下だ」


 漏れでた翡翠色の髪を鬘に入れこみながら、女王は元の淡々とした表情で、こちらを見つめてきた。


「はいはい」


 ケイは頷いて歩きだす。隣に一つ年下の女王が並ぶのをそれとなく確認しながら、今度の旅は長くなりそうだ、とぼやかずにはいられなかった。

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