2-14
「フルニエス城へ同行させて欲しい」
瞬間、ケイは固まる。周囲に緊張が走るのがわかった。唾を呑みこみ、女王の両目を見つめる。
「冗談で言っているのではない」
女王は立ち上がり、ケイの前へとおりる。
「余はフルニエス城に行かねばならないのだ」
「お受けできません」
ケイは女王の瞳から目をそらすことなく、はっきりとした口調で拒絶の意を表した。
「なぜだ」
「危険だからです」
「余は武術にも多少の自信があるぞ」
「私どもでも敵うかどうか分からぬ相手。陛下が敵う相手とは思えません」
「どうしても駄目か」
「はい」
「これでもか?」
はい、と即答しようとした時、ユカリィ女王はおもむろに取りだした短剣で、綺麗に巻かれた翡翠の髪をざくりと切った。
「なんてことを!」
エリオット公が叫び立ち上がる。だが、慌てて止めに入るエリオット公ら配下の目の前で、女王はあっと言う間に豊かな巻き毛を短髪へと変えてしまった。
「余の覚悟だ。これでは不足か?」
呆気にとられたケイを淡々と見おろし、女王が問う。押さえつけてたたいてしまおうか。ケイはふつふつと湧きあがる怒りに震えながら、それでもなんとかこらえきっぱりと言い放った。
「駄目です」
「これでもまだ足りぬ、と?」
「足りるとか足りないとかの問題じゃあありません。こんな茶番につき合っていられるほど、こっちは暇じゃあないんですよ。貴女は狙われているんだ。わかりますか、女王」
腰を上げながら、声を荒げて女王に詰め寄る。ああ、と事もなげに頷く女王を見て、舌を打ち、やってられないと踵を返した。
「これじゃあ、死んだ父さんも浮かばれやしない」
「父さん? 父親のことか?」
小さな呟きを聞きとがめ、問い質す女王。その声を無視して、ケイは一人謁見の間を後にした。




