2-13
廊下に出ると、親衛隊員とロスが先刻いた控えの間からすぐ左端にある両開きの扉を、ゆっくりと開けていった。広がった視界の先に細長く紅い絨毯が伸びている。天井はドーム型に吹き抜けとなっており、両側の窓には蒼いカーテンが金の帯で留められていた。
「入れ」
一際無機質な声が辺りに響いた。ケイたちは一礼して、左丞相とともに声のした大広間の奥へと進んでいく。徐々に不鮮明だった輪郭が露わになっていった。立ちどまり片膝をつく。頭を垂れた所から遥かに高い壇上に、黄櫨染色をした、かに霰のマントを身に纏い、山吹色のケージ・ドレスに身を包んだ女王ユカリィが坐していた。
「左丞相エリオット、只今参り越しましてございます」
「挨拶はよい。みな面をあげよ」
ケイは言われるままに顔をあげる。女王は王家の象徴である長い翡翠色の巻き髪を揺らし、ケイたちを見おろしていた。
「カイトよ、お前がこの者たちに何を話したのかは、もう分かっている」
「なんと! それではすべてを御存じでいらっしゃる、と?」
エリオット公の言葉に、ケイは眉根を寄せる。
(何故そんなわざとらしいことを?)
内心で訝しんでいるのをよそに、頭上から静かな声が降ってきた。
「余の情報網を甘くみるな」
短く言葉を紡いだ女王へ、エリオット公が深く一礼する。
「申し訳ございませぬ」
「よい。それよりこの後何があっても余の言うことに口をはさむな」
「承知いたしました」
女王はエリオット公に目で頷き、こちらを見た。
「昨日は失礼した。『ロア』を一つ盗られてしまって以来、感情が上手く湧いてこないのだ」
「いえ」
ケイは言葉少なに答えた。
「そなたはこれからフルニエに会いに行くそうだな」
「はい」
「フルニエと余の因縁については知っていよう」
存じ上げております、とこれにも短く答え、ケイは女王を見上げた。女王はケイの視線を受けとめ口を開く。
「ならば余の願いを聞き届けてはくれないだろうか」
「私にできることでありますれば」
ケイが一礼すると、女王は一呼吸置いて凛とした声を発した。




