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「それで、我々は何をすればよいのでしょうかの?」
静まり返った室内。沈黙を破ったのはジョージの静かな声だった。弾かれたように顔を上げたエリオット公が、ケイたちを見て興奮ぎみに口を開いた。
「フルニエス・シティへ行き、フルニエ侯の動向を探って欲しい。確たる証拠があれば捕えることもできよう。できればフルニエ侯が持っているだろう他国の『陽蕾』も手に入れたいのだ」
黙って聞いていたケイは、残った紅茶を飲み干しカップを置く。そのままゆっくりと、エリオット公の顔を見据えた。
「手に入れて、いかがするおつもりですか」
「もちろん、他国の王へ返すのだ。均衡が保たれてこその我らなのだから」
「わかりました」
ケイは深く頷き、大きく息をついた。
「その役目、祖父に代わり私がお受けいたしましょう」
ジョージが目を丸くする。
「お前、気が進まんかったんじゃないのか?」
「城にいるより性に合ってる。それにこの非常事態だ。祖父さんは城に残って人工オゾン層(オゾンスクリーン)の調整をしなくちゃならないだろ?」
「うむ」
それじゃあ早速、と席を立とうとしたその時、部屋の扉を控えめに叩く音が響いた。ロスがエリオット公を見る。エリオット公が頷くのを確認すると、胸に手をあて目礼し扉を開く。
「何の御用でしょう」
扉を開くと、そこにいたのは女王の親衛隊の一人だった。
「申し上げます。女王ユカリィ陛下より左丞相エリオット公爵閣下とお連れの方々にお目にかかりたいとの申し出がございました」
「ユカリィ様がか?」
「は」
片膝をつき深々と頭を垂れる親衛隊員。エリオット公はすぐに行くと伝えるよう言い置いて、こちらへ向き直る。その表情は暗い。
「申し訳ないが、謁見の間までご同行願えんだろうか」
「それはかまいませぬがの。左丞相は陛下が一体どのようなお心積もりで我らを呼ばれたのか御存じか?」
わからん、とエリオット公はかぶりを振った。そんなことはわかりきっている。おそらくここでの会話が女王の耳に入ったのだ。それなのにエリオット公は何もわからないとでも言うように、心痛げな面持ちで腕を組む。
「一体何を考えておられるのか」
呟いて黙り込むエリオット公を見守っていると、横でジョージが表情の読みとれない飄々とした口調
で提案してきた。
「まあ、お会いしてみれば分かるでしょう。閣下、とりあえず急ぎましょうかの。謁見の間へ」




