2-11
「お前たちを呼んだのは他でもない。女王の『陽蕾』を盗む不届き者、『碧仮面』の後ろで糸引く者のことよ」
やはり、とケイはカップを引き寄せる手に力をこめる。こんな所でしていい話だとはとても思えない。ジョージも承知しているはずだ。なのになぜ誰も何も言わないのだろう。眉を顰めるケイをよそに、話は進む。
「ロス殿によると黒幕を御存じじゃとか」
「そうだ。まだ疑惑の段階ではあるが、間違いないと私は思っている」
「ほう」
おべっかではなく本気で感心しているらしい祖父の声に、ケイは目を剥く。
(めずらしい)
持ちあげようとしていたカップを置いて、ジョージを凝視する。ジョージはケイの視線に気づいたようだった。ちらりとケイを一瞥して鼻を鳴らす。
「何かな?」
「いや、何でもございませんぞ」
そうか、と納得のいかない様子でジョージをうかがうエリオット公だったが、しばらくして諦めたように話を続けた。
「ここより西へ行ったところにフルニエスと呼ばれる土地があることは知っておるだろう? そのフルニエス・シティの領主、アランド・K・フルニエ侯がすべての黒幕だ」
エリオット公は言葉を切って、紅茶を一くち口に含んだ。ケイたちは何も言わず、エリオット公の言葉を待つ。
「フルニエ侯は我が女王の妹君であらせられるユミ様の義父でもある」
「そのフルニエ侯がなぜこの変事の黒幕だと?」
尋ねるケイを見て、エリオット公が小さく息をついた。
「ユミ様は生まれた時からユカリィ女王同様、太陽力を制御するだけの器をお持ちでいらしたからだ。その力はともすれば女王を凌ぐものかもしれん。フルニエはそこに目をつけたのだ」
「つまりフルニエ侯がユミ様を養女にと欲したのは、『血の蕾』の器にするため、ということですか? 制御できるかどうかも分からない赤ん坊の頃に?」
ケイの問いに、エリオット公が苦々しげに頷く。
「むしろ暴走することを狙っている可能性もある。世界を再度構築し直し、その頂点に立つために」
「なぜ前王と王妃がそんなことを許したのでしょうか。強い制御力を持つ己の子どもをみすみす目の届かぬところへ置くなど、普通では考えられないことと思われますが」
エリオット公が額に手をやり眉間に皺を寄せた。
「その頃にはもう前王ブランド様は臥せっておられたのだ。また現女王も大変病弱であらせられた。王妃エリィ様は献身的に二人を看護しておられたが、同時に大変お心を痛めてもおられた。ことユカリィ様のことに関しては病的なほどに神経質でいらしてな。ユカリィ様を第一にお考えになるあまり、ユミ様の誕生を喜ぶ暇もなかったのだ。おそらくフルニエ侯はこの機を逃すまいとしたに違いない。甘言を弄してエリィ様を陥れ、まんまとユミ様を手に入れてしまった」
沸き起こる悲しみを必死で抑えこんでいるのだろう。握りしめた拳を見つめるエリオット公に、ケイは初めて親近感を抱いた。




