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「サラが眠りにつくと、太陽光が弱まり停止する。すなわち夜が訪れる。夜の訪れがまちまちとなり人々は混乱し、そのうち何故か人間のみが強制的に眠りについてしまうという怪現象が起こるようになった」
なぜだろう。事態が余計にややこしくなっている気がするのは気のせいだろうか。太陽が惑星と呼ばれる巨大な岩そのものだというのなら、それを遠くへ飛ばすとか、砕くとかいう発想にはならなかったのだろうか。そんな疑問が喉元まで出かかって、すんでで留まる。こちらを見つめるルージェの瞳がひどく冷たいものだったからだ。
「貴方の考えていることは分かります。ですがそんなことはとうに実行されていて、どうにもならなかったから今があるとは思いませんか?」
「いや、まあそうだよね」
思った通りの冷たい問いに、ケイは叱られた子供のように首をすくめた。やっぱりルージェは苦手である。
「このままでは科学者たちも眠りについてしまい兼ねない。だがサラの胸のボタンを制御するためにも科学者たちが眠りにつくわけにはいかなかった。そこで科学者たちは、またしてもロスタルム鉱石に目をつけた。植物にも効果があったのだから人間にも効くのではないか。そう考えた科学者たちは、ロスタルム鉱石をすり潰し粉末にして、毎日摂取し始めたのである。しばらくして、待ち望んだ効果が表れた。九人のうちエミール・リーチ、アイラ・シュリーマン、都基山隼人、ケイト・ルイス、王閏、ロバート・トーマス、マルコ・オハラ、ワシーリ・エリセーエフの八人が、夜も眠らずに活動できるようになったのである」
「俺たちの体質はロスタルムが原因なのか」
「そうですよ、よかったですね」
にこりともせず首をかたむけてくるルージェに、ケイはそっぽを向いた。自分の仕事に誇りを持っていないわけではない。だが、こんな役目を持ったせいで父親が死んだのではないだろうか。ぶつぶつと愚痴るこちらを無視して、ルージェが口火を切った。
「科学者たちはさっそく人々にロスタルム粉末を摂取させた。その結果、人々は陽が落ちても眠らない者たちと、眠りにつく者たちとに二分することになった。しかしその大多数は効果がなく、その大半が眠りにつく者たちであった。以来、夜間に必要な管理はすべて、効果のあった僅かな数の眠りにつかない者たちによってなされるようになったのである」
「なんだよ。最初に八人もの人間に対して効果があったのは単なる偶然ってことか?」
「その通りです」
「いいかげんだな」
「いえ、その逆です。すべての偶然は必然となり得るのが真理と言うもの」
なるほどね、とケイはなるべく最大限の皮肉をこめて答える。ルージェの話は続いた。




