表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の匠  作者: 朝川 椛
疑惑と旅立ちと
17/101

2-4

「どなたかな?」


 耳慣れない音だったのだろう。用心深げなジョージの声音に、ケイは勝手口に向かってさり気なく構えをとる。


「俺が出ようか?」

「いい、わしが出る」


 ジョージが立ち上がり、再度問いかける。


「どちらさまかな?」

「御勝手口から失礼致します。何度も表の方から御呼びしたのですが、どなたも出ていらっしゃらなかったものですから。朝餉あさげの匂いが致しましたので、もしや、と裏へ回らせて頂いた次第でございます。こちらは、仕立屋『レイランドルン』でよろしいのでしょうか?」

「そのとおりじゃが。どのようなご用件かな?」


 丁寧な言葉に若干警戒を解いたらしいジョージは、しかし扉は開かぬまま今一度問いかけた。


「失礼致しました。私エトランディア城より左丞相さじょうしょうカイト・マツザキ・エリオット様からの命によりやって参りました、お側用人のロス・カルロスと申します。急なことで恐縮なのですが、釦師ジョージ・都基山様にお目通り願いたく参上致しました」

「ほお、カイト殿の側近か」


 驚嘆の声を上げながら、ジョージは勝手口の扉を開く。ケイも立ち上がって勝手口を覗き込んだ。扉の二、三歩離れたところで男が一人、片膝をついている。


「恐れながら」


 ロス・カルロスと名乗ったその男は、ジョージの言葉に俯いたままで答えた。深緑色をした小葵文様のフラックを身に着け、深々と頭を垂れている。


「顔を上げてくれんかの。今はちと取り込み中なんでな、できれば要件は早く頼む」


 ジョージの言葉にロスはかしこまりました、と返して顔を上げた。青い瞳に堀の深い顔立ち。若いとは言えなくはないが、二十代前半とはいかない容貌だ。ロスは硬い表情のままジョージをまっすぐに見上げ、口を開く。


「本日只今からエトランディス城へご同行いただき、我が主左丞相カイト・M・エリオットとご歓談願いたいのです」

「歓談……とな? 今すぐにか?」


 怪訝な面持ちで尋ねるジョージに、ロスは頷く。


「早急に、とのことでございますれば」

「わかった。では行くとしよう。ケイよ」

「なんだよ」


 ジョージの隣にいたケイは、改まった口調で名を呼ぶ祖父の声音に、不吉な空気を感じとって身構える。


「お前、城まで一緒に来い。道中ルージェに話をさせてやるから」

「やだよ、城なんて」


 ケイは即答した。できればもう一生行きたくない場所なのだ。激しくかぶりを振って拒絶する。


「絶対に嫌だからな」

「もう決定事項じゃ、諦めい。この件に関してはわしに一切の権限があるんじゃからな」


 わかったら早く支度せい、と尻をたたいてくるジョージに、ケイは叫ぶ。


「横暴だ! 俺はまだ『王の匠』じゃないのに!」

「そんな今更なことを議論する暇はない。……そもそもだ、お前はユカリィ様の様子が少しも気にならんのか?」


 話の向きを変えてくるジョージに、ケイはぐっと言葉を詰まらせた。


(確かに)


 気にならないと言えば嘘になる。だが、城へ行くのはやはり躊躇ためらわれた。


「どうしても行かなきゃなんないのかな?」


 先刻から黙って事の成り行きを見守っていたであろうルージェを見やり、苦し紛れに上目使いで問うが。


「当然でしょう」


 小さな抵抗も空しく、深い頷きを持って返された。


「さ、急ぐぞ」


 早々に身支度を整えつつあるジョージに急かされ、嫌々ながらも自室に戻る。服を着替え、洗面台でめちゃくちゃになっていた髪を整えながら、鏡に映った己の姿を凝視した。映っているのは疲れ切った自分で。我ながらなんて苦労性なんだ、とケイは、白く低い天を仰いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=904022106&s yado-bana1.jpg

相方さんと二人で運営している自サイトです。




― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ