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「なんだよ?」
ケイは突然の迫力に怯みゆるく身を引く。ジョージは真面目な表情のまま重々しい口調で答えた。
「『伝説のロア』のこと、ずっとお前に言わなんだわ」
「え」
ケイは小さく口を開けそのまま身を固めた。あまりのことに思考が停止する。ジョージは固まっているケイの両手からポットをとり、己のカップへ注ぎながら続けた。
「わしも苦しい立場なんじゃ。なんせあれだ。『全ての事象の記憶(マインド・オブ・マインド)』と契約した『全ての事象を見守る者』じゃから。言いたくとも言えんかったんじゃ。ルージェの奴も言ってもいいが、言えば碧仮面にも同じ情報を与えると聞かんでなあ」
そこで言葉を切り、ジョージが紅茶を一口すする。
「そんなんで納得いくかよ!」
ケイは目前で心底満足げな息をつくジョージを見て、覚醒した意識を爆発させた。
「黙ってたっていつからだ! 三年前からか!」
「そうじゃよ」
事もなげに答えるジョージを尻目にケイは頭を無茶苦茶に掻きむしる。一つにまとめたはずの髪があっという間に鳥の巣になった。
「『言いたかったけど言えなかった』ってどういうことだよ!」
「じゃから、わしが『全ての事象を見守る者』じゃからじゃよ」
「そういうことじゃなくて! 言えばいいだろ? そうすれば俺だって旅になんか出なかったし」
「旅に出たすぐ後じゃったからの」
「じゃあなんで碧仮面は『愛情』を使役してんだよ! 向こうは知ってたってことじゃないか!」
ケイは両手をテーブルの上に強くたたきつけ、ジョージを睨みつける。ジョージはこちらの剣幕に軽く肩をすくめるだけで、とり合おうとはしない。
「それはあっちが気づいて、お前が気づかなかったということじゃな」
「俺が、気づけばよかったってことか? エトランディス女王が『伝説のロア』を出現させいてるってことを」
ケイが震える声で尋ねると、二杯目の紅茶をカップに注ぎながらジョージが頷いた。
「そうじゃ。碧仮面は己の力で気づいておった。ただの『ロア』でなく、『伝説のロア』であるということにもな」
「なんだよ、それ?」
不貞腐れて俯くと、ジョージの心底呆れかえったような声が聞こえてくる。
「お前、そんなことも知らんのか?」
「違うよ。あれが『伝説のロア』と同じ形態だってことは分かってる。でも、それを戻す研究の途中で戻らざる負えなくなったんだ。今はどうにもしようがないじゃないか」
ケイの耳に、ジョージの深い溜め息が聞こえてきた。続いて席を立つ音が聞こえてきたかと思うと、もじゃもじゃになったケイの頭にそっと手が置かれる。
「お前は、本当に馬鹿孫じゃなあ」
その声は思いのほか優しい声音だった。ケイは顔をあげ、ジョージを見つめる。ジョージは何も言わずケイに椅子を進め、ルージェよ、と呟くような声を発した。




