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王の匠  作者: 朝川 椛
眠らぬ夜の四重奏
13/101

1-13

「くっ!」


 慌ててジョージが飛び退るのと、碧仮面が消えるのとはほぼ同時のことだった。


「奴め、ミラージュの記憶を使役しとるのか」


 苦々しげにジョージが呟く。


(やっぱ、俺のせいだよな)


 ケイは今までになく険しい祖父の横顔を、暗澹あんたんたる思いでしばし見つめた。


(俺に、もっと力があれば)


 小さく息をつき背後を振り返る。それから、いまだ虚空を見つめ続けている『少女』の前へゆっくりと跪いた。


「女王陛下。いえ、『肉体サーマ』様。城へお戻りください。我々がお供いたします」


 『サーマ』と呼ばれた器の『少女』はケイの言葉に反応することなく、無言で佇み微動だにしない。


「女王陛下、『サーマ』様」


 ケイは『サーマ』の手をとろうと手を伸ばした。だがそれは、横から割って入った小さな手によって阻まれる。


「無駄だ」


 『少女』は弓を背負いながら小さな声で短く言い放った。


「お前にできることは何もない」

「しかし陛下……」


 言い募るケイの声を、また別の『少女』が制する。


「わたくしたちは大丈夫です。目覚めれば戻るのだから」


 声の主はバドルアックスを手にしたもう一人の『少女』だった。『少女』はケイと目が合うと、自嘲気味に微笑む。


「ジョージとともにお帰りなさいな。わたくしたちももう行きますから。……さ、『理性ユーリ』」


 『ユーリ』と呼ばれた少女が同じ顔の『少女』を見つめる。


「『肉体サーマ』をお願い」

「わかった。『想像アーナ』、お前はどうする?」

「もちろん帰るけれど。わたくしは貴女のように地理にくわしくないのですもの。迷ってしまいますわ」

「わかった」


 『ユーリ』と呼ばれた『ロア』の少女は一つ頷くと、『サーマ』を軽々小脇に抱え込む。『アーナ』はそれを見てほっと息をつき、こちらに向かって再度小さく破顔した。


「ごきげんよう、ジョージ。そして、ケイ」


 立ち去る三体の『ロア』をどうすることもできず見送りながら、ケイはまたしても苦い想いを噛みしめていた。


 器の『肉体サーマ』、第一記憶マインドの『愛情ルー』、第二記憶の『想像アーナ』、そして第三記憶の『理性ユーリ』……。

ケイは瞳を閉じた。


『お前にできることは何もない』


 感情の見えない先刻の言葉が耳にこだまする。できれば、あの頃と同じ姿をした『少女』の口からは聞きたくなかった。


(救えなかった。いや、救えずにいる娘、か)


 どちらにしても、今の自分には痛すぎる言葉だ。


「祖父さん、俺、戻ってきてよかったのかな?」


 傍らの祖父に問いかけると、ぽんと小さく背中をたたかれた。


「祖父さん、俺……」

「今日のところは帰るとしようじゃないか。なあ、孫よ」


 口の端に微かな笑みを浮かべ、ジョージが歩きだす。慌てて追ったケイの耳に、ごくささやかな祖父の声が響いた。


「これからなんじゃよ。すべては、な」

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