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反射的に見あげ、ほっと息をつく。
視線の先では、二方に金糸を巻きつかせた『ルー』が宙に浮き、苦しげに両足をばたつかせていた。
「サンキュー、祖父さん」
ケイは『ルー』の背後にいた人物に、安堵して笑いかけた。
「この馬鹿孫が」
浅紫色をした雲立涌のサーキュラーケープを羽織った白髪老人が、苦虫を噛み潰したような表情で立っていた。ケイの祖父であり育ての親でもある、ジョージ・都基山である。
「まったく、情けないにも程がある」
ジョージはふんと鼻を鳴らし、ケイを半眼で見おろした。
「『ロア』であるとはいえ、女王陛下であらせられる『肉体』様の御前で、なんと無様な」
自分だって凶暴とはいえ、同じ『ロア』である『愛情』の首を容赦なく締めあげているくせに、とケイは腐ったが口にはしない。
「帰ったばかりでちょっと本調子じゃないだけだよ」
俯き加減に反論するものの、我ながら説得力のある言葉とは到底思えなかった。強くなると言って故郷を出た手前、祖父に助けられるのはあまり決まりのいいものではない。
「ほう、じゃあ一体いつが本調子なんじゃ?」
案の定突っ込みを入れられる。
「そんなことよりさ。このロスタルムじゃどうにもならないみたいなんだけど」
ケイは祖父の嫌味を流して『ルー』から金糸を解き立ちあがると、落ちていたロスタルムを拾いあげる。
「ふむ、やはり駄目じゃったか」
ジョージは『ルー』を締めあげたまま、器用に肩をすくめた。祖父はどうやらこの結果を予想していたようである。
「どうする、祖父さん?」
「どうもこうも、使役している本人に訊くしかあるまいて」
「簡単に言ってくれるよ」
ケイは飄々とした口調のジョージを恨めしげに見やってから、深い溜め息をついて己の炎の記憶へと向き直った。ファスナは、先刻からケイへの攻撃をできるだけ防ごうと、炎の矢を碧仮面に向かって投げ続けている。碧仮面はファスナの攻撃を金糸で防御しながら、ケイが金糸を収めるのを待っていたようだった。ケイが完全に向き直るのを目にするなり、手にしていた碧い輝きを放つロスタルムを天へかかげる。それを見たジョージが『ルー』の首に巻きつけた金糸の力をさらに強めた。




