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王の匠  作者: 朝川 椛
それぞれの決断
101/101

6-4

「大丈夫じゃよ。チサはお前よりよっぽど頼りになるわい」


 そんなこちらの迷いを察したかのように、ジョージがにやりと片頬をあげてくる。ケイは祖父の顔を半眼で見やってから、もう一度チサへと視線を送った。


「気をつけて行くんだぞ」

「ええ。……あの」


 チサは頷きながら、躊躇いがちにケイの名を呼ぶ。


「ん?」


 首をかしげると、チサが真摯な眼差しを向けてきた。


「カイト様を、お願い」

「わかってる。心配するな」


 微笑んで告げると、チサが頷く。そんな彼女へジョージが声をかけた。


「そろそろ行くぞ」


 チサは後ろを向いて、はい、とジョージに答えると、こちらへ向き直り小さく笑みを浮かべる。


「じゃあ、行くわね」

「ああ、気をつけてな」


 片手を挙げて手を振ると、ええ、と答え踵を返しかけ、もう一度こちらへ振り返った。


「あの!」

「ん? なんだ?」


 目を瞬かせていたら、チサが俯き加減に口を開いてくる。


「あの、あの、あの……」

「何だよ、変なやつだな」


 噴きだしながら答えると、チサが顔を蒸気させつつ勢いこんで声を発してきた。


「に、兄さん!」

「へ?」


 目を点にして固まるこちらへ向かい、照れくさそうに口の端へ笑みを浮かべたチサが、今度こそ踵を返す。


「いってきます!」

「あ、ああ。行ってらっしゃい」


 ケイは走り去っていく妹の後ろ姿を呆然と見送り、小さく頬を搔いた。


「兄さん、か……」


 頬を緩ませ呟いていると、突然後方から声がかかる。


「いいのか? ついていかないで」


 振り返るとそこには、見慣れた少年姿のユカリィがいた。


「大丈夫なのか?  主役が抜け出して」


 苦笑ぎみに尋ねると、ユカリィは拗ねたようにそっぽを向く。


「ケイだって人の事は言えないだろう?」

「そりゃまあ、そうだが」


 頭を掻いて言葉を濁していたら、ユカリィがうつむきかげんに問いかけてきた。


「本当は、ついて行きたかったのだろう?」


 ケイはユカリィを見つめ緩くかぶりを振る。


「いや、俺にはやるべきことがあるから」

「やるべきこと?」

「ああ」


 ケイは頷いてユカリィの足元へ片膝をつき彼女の手をとり、口許を綻ばせながらユカリィを見あげる。


「いついかなる時も必ずお側につき従い、貴女をお守りすることを、今ここにお誓い申し上げます」


 これからどんな困難が待ち受けていたとしても、絶対に離れたりはしない。何があってもこの信念だけは守り通すのだ。ケイは誓いをこめて深々と頭を垂れる。


「ケイ」


 ユカリィの小さく息を呑む音が聞こえ、ケイは顔をあげた。


「大丈夫。絶対、側にいる」

「ああ」


 涙ぐむユカリィに笑ってくれ、と頼んで立ちあがると、彼女は頷き涙を拭いてまっすぐに自分を見つめてくる。その笑顔は天高く昇る日の光ように明るく、晴れ晴れとした鮮やかな微笑みだった。



                                           【了】


ここまで読んでくださった皆様に、心より感謝申し上げます。

本当にありがとうございました!

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