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「大丈夫じゃよ。チサはお前よりよっぽど頼りになるわい」
そんなこちらの迷いを察したかのように、ジョージがにやりと片頬をあげてくる。ケイは祖父の顔を半眼で見やってから、もう一度チサへと視線を送った。
「気をつけて行くんだぞ」
「ええ。……あの」
チサは頷きながら、躊躇いがちにケイの名を呼ぶ。
「ん?」
首をかしげると、チサが真摯な眼差しを向けてきた。
「カイト様を、お願い」
「わかってる。心配するな」
微笑んで告げると、チサが頷く。そんな彼女へジョージが声をかけた。
「そろそろ行くぞ」
チサは後ろを向いて、はい、とジョージに答えると、こちらへ向き直り小さく笑みを浮かべる。
「じゃあ、行くわね」
「ああ、気をつけてな」
片手を挙げて手を振ると、ええ、と答え踵を返しかけ、もう一度こちらへ振り返った。
「あの!」
「ん? なんだ?」
目を瞬かせていたら、チサが俯き加減に口を開いてくる。
「あの、あの、あの……」
「何だよ、変なやつだな」
噴きだしながら答えると、チサが顔を蒸気させつつ勢いこんで声を発してきた。
「に、兄さん!」
「へ?」
目を点にして固まるこちらへ向かい、照れくさそうに口の端へ笑みを浮かべたチサが、今度こそ踵を返す。
「いってきます!」
「あ、ああ。行ってらっしゃい」
ケイは走り去っていく妹の後ろ姿を呆然と見送り、小さく頬を搔いた。
「兄さん、か……」
頬を緩ませ呟いていると、突然後方から声がかかる。
「いいのか? ついていかないで」
振り返るとそこには、見慣れた少年姿のユカリィがいた。
「大丈夫なのか? 主役が抜け出して」
苦笑ぎみに尋ねると、ユカリィは拗ねたようにそっぽを向く。
「ケイだって人の事は言えないだろう?」
「そりゃまあ、そうだが」
頭を掻いて言葉を濁していたら、ユカリィがうつむきかげんに問いかけてきた。
「本当は、ついて行きたかったのだろう?」
ケイはユカリィを見つめ緩くかぶりを振る。
「いや、俺にはやるべきことがあるから」
「やるべきこと?」
「ああ」
ケイは頷いてユカリィの足元へ片膝をつき彼女の手をとり、口許を綻ばせながらユカリィを見あげる。
「いついかなる時も必ずお側につき従い、貴女をお守りすることを、今ここにお誓い申し上げます」
これからどんな困難が待ち受けていたとしても、絶対に離れたりはしない。何があってもこの信念だけは守り通すのだ。ケイは誓いをこめて深々と頭を垂れる。
「ケイ」
ユカリィの小さく息を呑む音が聞こえ、ケイは顔をあげた。
「大丈夫。絶対、側にいる」
「ああ」
涙ぐむユカリィに笑ってくれ、と頼んで立ちあがると、彼女は頷き涙を拭いてまっすぐに自分を見つめてくる。その笑顔は天高く昇る日の光ように明るく、晴れ晴れとした鮮やかな微笑みだった。
【了】
ここまで読んでくださった皆様に、心より感謝申し上げます。
本当にありがとうございました!




