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「本当にもう行くのか?」
儀式の後、盛大に行われている宴をこっそり抜けだしたジョージの後を追って、ケイはセント・エトランディア・シティの門前までやってきていた。
「もう二、三日ゆっくりしてからでもいいんじゃないか? チサだって祖父さんだって、まだ傷が治ったわけじゃないんだし」
眉根を寄せていると、ジョージが鼻を鳴らす。
「馬鹿を言え。一刻も早くこの『陽蕾』を各国へ返さねば、『陽炎』に閉ざされた国はどうなる。人工オゾン層(オゾンスクリーン)が剥がれたら全世界はパニックどころの問題じゃすまんのだぞ?」
「そりゃ、わかってるけどさ」
「それにこれ以上お前の側におったらわしの方が過労死しそうじゃしの」
なんだよそれ、と膨れるこちらを見て、チサがくすりと笑む。
「笑うなよ。これでも心配してるんだぞ? 」
両腕を組んで不快を表しつつ問うと、ジョージが目を細める。
「ほう、ちいとは成長しとるようじゃのう?」
「なんだよもう! それより、本当に平気なのか?」
ケイは小さく舌を打ち、祖父を無視してチサへと話しかける。
「大丈夫。陸路でタレアスクへ行くのは初めてだけれど、一人じゃないし」
小さく、だがしっかりと頷くチサを見て、ケイはそうか、と呟いた。
「テルモアへ行ったらリチャード・ルイスを訪ねるといい。ひねくれ者だけどいい奴だから。けど、何かあったら必ず呼んでくれよ? すぐに駆けつけるからさ」
真剣にチサを見つめると、チサも表情を改め深く頷く。ケイはそんなチサを複雑な思いで見つめた。
チサの罪はジョージからの口添えとユカリィの裁可のおかげで不問となった。一族の怒りも完全に解けたわけではなかったが、古い慣習に縛られた結果だ、と半ば怒鳴りつけるように発したケイの言葉に沈黙し一応の解決を見た。とはいえ、チサがこの地に居辛いことには変わりがない。どうしたものかと考えあぐねていた時、チサの方から旅に出たいとの申し出があったのだ。
『散々ひどいことをして来たから、許されるとは思わないけど。でも、きちんと直接会って謝りたいの』
眼差しに決意を秘めて宣言したチサを、ケイもジョージも止めることはできなかった。
そうは言っても心配なものは心配で。ケイはこの後に及んでチサを本当に旅へ出していいのかどうか迷っていた。




