ソファーの中身は
三月中旬、普段と変わらない平日の夜。
センター試験を目前に控えた僕に、この頃嫌がらせとしかとれないメールが届く。
[志津也どこに居るか知ってる?]
志津也とは僕の兄、メールの送り主は兄の婚約者。
今年大学卒業する兄が行方不明になって一週間、いまだ両親達は捜索願いも出さず、平然と普段の生活
を続けている。
かと言って僕も兄のことを好きだった訳じゃないし、どうでもよかった。
しかし、一昨日の事は、忘れようと思っても忘れられない、むしろ興味をいだいている。
だからお礼に同じメールが何回来ても文句一つ言わず返事を返している。
無意識に父が座っているソファーを見た。まだ誰も気が付いて無い、そしてこれからも気付いてはいけ無い。
僕の心の安らぎの為に・・・。
一昨日の深夜二時、僕は家の鍵が開く音がして目が覚めた。
父も母も僕より先に寝たはず、兄か・・・。
一階でゴソゴソとなにやら騒がしい、布団の中で兄がどんな行動をとっているのか、音を聞き想像した。
しばらくすると足音が響き近づいてくる、どうやら階段を上っているみたいだ。
階段を上りきったところで音が止また。そこは僕の部屋の前。
ドアノブに触れたのか、『カチャッ・・・・・。』と小さくノブが揺れる音。しかし、ドアは開かず足音は遠ざかって行った。
こんな時間に何やってるんだ・・・・?好奇心から布団を出て、音を立てないよう靴下を履き、ゆっくりと部屋を出た。
二階には誰も居ない・・・。手すりにつかまりながら慎重に暗い階段を下りる、
リビングのドアが微妙に開いている、そこから薄暗い光が玄関に差し込み階段の一番下からは目が馴れば見えた。
泥棒か・・・?否、家の鍵は特殊物だ簡単なキーピッキングじゃ開くもんじゃない、ならヤッパリ兄か?
恐る恐る隙間から中を見ると、黒い服の人間が独り半透明のゴミ袋を持って、ソファーの後ろで何かをしている。
兄じゃないことだけは分かる、誰だあいつ・・・・。
口にペンライトをくわえ上下黒、パーカーと野球帽で顔は分からない、性別も小柄で女にも男にも見える。
半透明の袋の中には、布で包まれた『何か』が入っていた。
数個ある袋は、それぞれ中の形が違っていて、その形はどこか見覚えがあるような感じをさせる歪な物だ。
その中の一つには丸く、布から髪の毛らしき物が見える物もある。
『切断死体』・・・・・。僕の頭に横切る言葉、僕はこういった話が大好きだTVなどでこの手のニュースがやっていると、
どうしても犯人の心理と言うものが知りたくなり、凶悪犯に魅了する。いつか僕もあなたのように誰かを殺したいと・・・。
しかし、それは人間としてのルールを破っている行為であり、僕はいつもギリギリのラインに立っていた。
今みたいに、死体遺棄に立ち会えるなんて願ってもないチャンス。食い入るように中に居る人を見る。
一つずつ丁寧に袋を入れている・・・・・?ソファーの中にどうやって?しかし、犯人の動作はそうにしか見えなかった。
『ガシャ・・・・。』と小さく刃物と刃物が擦れ合う音。犯人の体で見えなかったがノコギリと刃渡り10cmほどの刺身膨張が置いてあったみたいだ、どちらも血は付いていない。
それをもって犯人は立ち上がり重い足でこっちに向かってきた、終わったみたいだ・・・・・。
僕は冷静にドアから離れ、階段を上り六段目のカーブ部分に見を潜めた。
今更、心臓が速く動いているのに気付き胸を抑え下を向く。
『ガチャ・・・・』静かにリビングのドアが開き、家は静まりかえった。
立ち止まっている?顔をあげ正面を見た。
その瞬間階段に光が差し込む、犯人がペンライトで階段を照らしているのか。
カーブ部分にある小窓に、右手にノコギリと黒い大きなごみ袋、半透明袋に比べて中身が大きそうだ、けど軽そう左手にライトを持った犯人が映った、残念なことに顔は見えなかったが・・・。
それよりもここから犯人が見えるって事は、僕も犯人からガラスに映って見えてるんじゃないか?
鼓動がさらに激しく動く。否、角度的に大丈夫だ落ち着け・・・。そう自分に言い聞かせて冷静さを取り戻そうとした。
数秒の間犯人と僕は見つめ合っていたが、どうやら犯人から僕は見えなかったみたいだ、ライトの明かりが消えて再び家は暗闇へと戻る。『ガチッ』外から鍵を閉め犯人は去って行った。家の鍵を持っているのか。
「・・・・・・・。」
僕は、急いでリビングの電気を付けた。室内に荒らされた様子は無い、が靴跡が数個ソファーの周りに、僕が見た時は確かに靴下だったはず・・・。わざとか?
あとわ・・・。睨み付けるように鋭く自分が日常的に使っていたソファーをみた。
「・・・・・・・。」
この中になにが・・・。犯人のように裏側に回って舐める様に見渡す。
「・・・・縫い目・・・・。」
下の右端に、横30cmほどの明らかにもともとあったとは言えない、細い縫い目がある。
そこに人指し指を無理やり突き刺し、二本三本と指を入れ込み、力づくで抉じ開けた。
思わず顔がニヤけてしまう。そこには布から鼻上をはみ出した『兄だった物』の肉の塊があった。
スポンジが下半分綺麗に抜き取られており、巧い具合に『兄だった物』たちが敷き詰められている。
犯人が持っていたのはこれだったのか。この数分でよくこんなことができたな、犯人が家に入って出るまで、十分とたっていない。僕はさらに犯人にひかれていった。
目を大きく見開いていて、頭がへっこんでる兄の顔、髪の毛も無造作に抜き取られ、悲惨な者になっていた。相当兄を恨んでいるのか、僕みたいに普通じゃない感性を持っているのか・・・・・。
首から下は無い、その他の袋に入っている歪な形の物たちがきっと兄の体だろう。
僕の見た、見覚えのある『何か』とは人間の体のパーツだったのだ。
ソファーの、抉じ開けた部分は元どうりに繋ぎ合わせておいた。
足跡・・・。残しておいたら父や母もこのソファーの中身に気が付くだろう。
僕は足跡の寸法だけを測って、全て消してしまう事にした。約26cm結構大きいな・・・。
この、『兄だった物』をここに入れたした犯人に、もう一度会いたいと思うのは必然だろう。兄。否、肉の塊が入って居るソファーに腰を下ろし足を組む。警察に通報するつもりはさらさら無かった、一般市民としての義務なのだろうけど、今の僕はそこまで頭が回らない、犯人の手がかりを考えるので精一いっぱいだ。
それに、もともと兄は家族の恥として嫌われている、今でさえ捜索願いを出してない両親だ、何の心配もない。
足跡を消しリビングをあとにした。
「・・・・・・ケータイ」
階段を上りきる一段手前で僕の部屋に見慣れない携帯電話が落ちているのに気が付いた。
両親のじぁ無いな、兄のでも無い。・・・・・犯人の?二階に来たとき置いたのか?
「・・・・・・・・・・」
まるで僕に、見ろと言わんばかりに置いてある。おもしろい。無表情で携帯電話を拾い部屋に戻った。
風呂上り
部屋に戻り再びケータイを開く。
赤く、折りたたみ式のどこにでもある携帯電話。発信着信履歴とアドレス帳には兄さんの名前だけ。
データフォルダにも何もはいっていない。プロフィールの名前は『38』と書いてある。
普通に読めば『サヤ』となるがそんな簡単なものか?そもそもケータイのプロフィール名を変える人はそうそうい無い。
ならこれを落としたのはわざと、しかし何のために・・・・。兄のケータイがあればいいのだが2日前から電話をかけても繋がらない。誰かが持ってるのか、もう壊されているのか。
しかし、それももうすぐ分かる事だろう、犯人は家の鍵を持っていた、しかも僕の部屋も知っている、少なからず兄と接触して、この家に訪れたことがある人物だろう。そうすると兄の大学の友人でかなり親しい仲。いくらなんでも数十分でソファーのスポンジを綺麗に半分切り取れる人間はい無い、しかもそこに死体を入れるのは100%無理だ。何度か家に来てその度に準備していたと考えるのが妥当だろう――――・・・・・・。簡単に分かってしまう、こんなつまらないものは無いだろう。僕は自分に失望した。ベッドの上に寝転んでいる体を起こし、もう一度玄関に行った。ケータイを替えた理由はこれか・・・。
「・・・・・・・・・・・・。」
今、僕は犯人の正体について考えている、もう一度会いたいとも思っている、しかし、僕はあくまで第三者で居たいのだ。したがって僕がこの犯人が誰なのかを考えるのは今だけであって、後は心の安らぎとして『兄だった物』の上でゆっくりと思い出すだけでいい。しかし、残念なことに僕は分かってしまったのだ、犯人が誰なのか。この数時間でわかってしまった自分を天才だと思いたいがそうじゃない、僕だからこそ分かってしまったんだ。今は春休み大学受験を控え、必ず家に居る僕だからこそ。靴跡は兄の靴の物だったし、『38』とは名前じゃなく日にち、兄が結婚する日だったはずの3月8日、何故延期になったかは知らないが。犯人は毎日家に来ていた、毎日僕と顔を合せていた。
そして今現在、この頃はメールもよく届く、ほらまた来た。
壊れてしまった彼女の心はもう、修復不可能だろう。彼女は僕に何か指摘してもらうのを求めているみたいだが、それは絶対に無理だ、このソファーは僕の安らぎの場所としてこれからも使わせてもらいたい。
[志津也どこに居るか知ってる?]
[さぁ、分からない。]
このソファーの座り心地は最高だ。