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Justice OR Vice.  作者: 風舞 空
season.1 【Justice Or Vice】
7/35

2nd act. "Occasionem"③

 基本的に依頼を受けた場合、こちらから金額を提示する事はない。そのため毎回決まった額が支払われるわけではなく、中には報酬が0という場合もある。どの程度出せるか、というのは全て相手の任意の上。


 言わずとももう予想はついていると思うが、俺達が慈善事業団体という名の裏で行っているのは、依頼を受けそれを実行する『殺し屋』の仕事だ。


 殺し屋、と言うと一見『政界や国の最高幹部で汚職に絡む人間の暗殺を目的とする暗殺組織』の様なイメージを持たれるのだが、俺達が扱っている依頼はそんな大それたものではない。まあ、そういった依頼を受け持つ組織が、少なからず存在している事も事実だ。


 誰しも皆、自分や自分にとって大切な人が傷付けられればその相手を憎むだろう。時には、殺したくなるほど。しかしいくらそんな衝動に駆られたからと言って、それを実行できる人間なんてそうそういるものではない。理性という壁は、そんな衝動に簡単に突き動かされるほど、脆くはないからだ。だけどその衝動が抑えられなくなった結果、欲望のまま理性の壁を突き破り、犯罪に手を染め自らを闇へと陥れてしまう。

 憎しみという感情は所詮一時的な発作みたいなもので、時が過ぎれば徐々に薄れていく。その感情が薄れていくまでに掛かる時間は、人によって異なるだろうけれど。


 その一時的な感情に支配されてしまえば、人は理性を失くし自分でも驚く様な行動に出る時がある。しかし人の命を奪う事なんて、たった1発の弾と銃があれば誰にでもできてしまうからこそ、その終わりのあっけなさに呆然としてしまうのだ。そして横たわる相手の亡骸を眺めながら、怒りと憎しみはいつしか後悔と自責へ姿を変えていく。


 そこまで自分を突き動かしていた膨らみ過ぎた感情は、そのころには空気が抜けて萎んだ風船の様に小さくなっているというのに。ブレーキの効かない車で急な坂道を下っていくように自分では制御不可能な状態になり、どんどん加速していくスピードに一瞬戦いてしまう。しかし怒りや憎しみと言った感情は強ければ強い程、その恐怖を撃ち消してしまうのだ。

 平坦な道へ差し掛かり徐々に減速を始めやがて止まった時、初めて自分の犯した過ちに気付く。ただ衝動に駆られ周りの制止を振り切り飛び出した先にあるものは、それまで自分が原動力にしていた痛みなど比べ物にならないほど辛い現実だ。


 ……自分を見失う、とはきっとそう言う事だろう。


 俺達の仕事は、そんな感情に人が支配されてしまう前に食い止める役目を果たしている、とでも言っておこうか。

 憎しみの大きさに見合う制裁を下し、死と引き換えに罪を償わせる。




 人は生まれてからずっと、同じ箱に入った『イイコト』と『ワルイコト』で遊びながら、教えられたとおりに別々の箱に分けて片付けてきた。取り出してはしまい、取り出してはしまいを繰り返しながら、『何が良く』て『何が悪い』のか。時間をかけて憶えていくのだ。それぞれ色の違う、『常識』と言う名の箱に入れられたそれを。


 先程の話と少し被るのだが、例えば誰かが俺の大事な人の命を奪ったとする。すると俺は自分の『大事な人』を奪われた事に怒り悲しみ、その相手を殺したいほど憎むだろう。そこで今度は俺がその相手を仇討ちの為に殺したとしたら、それはどんな理由であろうと『ワルイコト』だ。『やられたらやり返せ』なんて言葉をよく聞くが、やり返してしまえば今度はこちらが悪者になる。どんなに理不尽な事だろうと、それがこの世界では常識としてまかり通っているのだ。


 俺達は皆、ルールという籠の中で生きている。人間には人間のルール、他の動物にはその中だけで通用する決まりと言うのがある様に、俺達はその中を飛び出すことなく生きる事で、生活が守られているのだ。

 しかし中には、その籠から飛び出してしまう者もいる。それは本当に突発的であったり、故意であったり様々だが。

 籠の外に出るという事は、ルールから外れ、決して犯してはいけない『罪』を犯すという事である。

罪を犯した人間には『罪人』という名の籠があらかじめ用意されていて、どんな理由があろうとも無条件でそこに放り込まれるようになっている。

 そしてたとえいつかそこから出られる日が来たとしても、二度と元の籠には入れない。一度罪人というレッテルを貼られれば、生きている以上一生ついて回るものだ。それが例え“誰かの為に犯した罪”であっても。


 メタノイアにあるのは独自の『決まり』であり、一般的なそれとは少しばかりかけ離れたものだろう。しかしだからこそ、俺達には俺達なりの正義というものがある。

 ……とは言え俺達のしている事は『普通』の人間からしてみればとっくにそのルールを逸脱している行為であり、あくまでその常識が当たり前のこの社会に身を置いて生活している以上、大っぴらにする事はできない。だから俺達はそれを『裏の仕事』と呼んでいるのだ。


 何が正しくて何が間違いか、決められたルールなんて本当はこの世にはない。それならばその是非は、自分自身で決める必要もあるだろう。

 だから俺達は“誰か一人にとっての正義”を貫く為に、依頼された任務を遂行する。


 そんな事を言うとまるで自分達のやっている事を正当化している、と非難を浴びそうだが、今話したそれがこの会社を立ち上げたクロウの真意であり、願いでもある。

 わざわざ自分からそのルールをやぶる必要なんてない。最初からそこにはいない俺達だからこそ、出来る事だってあるだろう。

 誰かの思いの代弁なんて差し出がましいのかもしれないが、そうする事で誰かが報われるのならば、価値があると思う。

 ……と、ここまで話した全てはあくまでクロウの受け売りなのだが。

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