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Justice OR Vice.  作者: 風舞 空
season.1 【Justice Or Vice】
6/35

2nd act. "Occasionem"②

 

標的(ターゲット)はジェイク・ハント、年齢は二十五歳で身長一八〇前後の痩せ型。ペインズの中心部にある部品関係の工場に十八歳から七年間勤めていたが、半年前に突然退職したらしく今は無職だ。ここ最近は、イ―ヴルストリートにあるクラブへ頻繁に出入りしているらしい。あそこは確か、表向きはバーだが会員制の賭博場だったな」


「あぁ、ゴロツキ共の溜まり場だ。『lunacy(ルナシィ)』は賭博の他にも人身売買や麻薬の受け渡し、密売なんかも行われている様だ。噂じゃあ、そこを取り仕切っているオーナーと警察の上の奴らは繋がりがあるらしい。そのお陰で違法行為だろうと、大体の事は黙認され続けている無法地帯でもある。とてもじゃないが、一般人が容易に出入りできるような所ではない。」


 ジェードは四年前までペインズ市警の捜査官として働いていた、クロウより一つ上の二十七歳だ。さすがその道のプロだっただけはあり、彼の集める情報はいつも的確で信頼できる。銃の扱いにも長けていて、俺達は彼からその道のノウハウを叩きこまれた。その頃使っていた手帳を今でも肌身離さず持ち歩いていて、捜査官だった当時の彼の面影がそこから垣間見えたりもする。


「工場を辞めてからはヤクの運び屋として、密輸組織に飼われているようだ。行動範囲は国内が主だが、たまに国外にも飛ばされている。コイツの他にもまだ複数運び屋が存在しているようだが、そのうちの何人かは運搬途中税関で引っ掛かって逮捕されているらしい。」


「……まだ生き残っているって事は、標的(ターゲット)は上手い事その目を掻い潜っているって事か?」


「どうやらコイツは独自の渡航ルートを持っている。以前勤めていた会社で製造されている部品は他国への輸出も行っているらしく、おそらくその辺に何か伝手でもあるんだろう。まあ一回に運ぶ量にもよるようだが、成功時の報酬は十~四十万クォルだそうだ。これまで既に四回、それで国外への搬入を成功させている。まあ普通に働いて稼ぐより桁違いの金が手に入るんだ、そう簡単にはやめられないんだろうな」


 ……その時ふと、疑問が過った。七年も勤めていた会社を辞めてまで、何故彼は運び屋という仕事に就いたのだろう。そりゃあ、成功させれば大金が手に入るかもしれないが……。麻薬に関する犯罪は、少なくともこの国では捕まれば罪はかなり重い。たまたま伝手があったから上手く切り抜けられたかもしれないが、その頼りがなければ彼だって捕まっていたかもしれないのだ。そんな博打じみたものに手を染めてまで大金を手に入れて、一体どうするつもりだったのか。ただ金が欲しいというだけでやっていることなら、それこそ命がけの賭けのようなものだ。


 それで、とクロウは続ける。


「今回はその件なんだが、どうやら女を一人殺しているようだ。運び屋の件と関係しているかどうかはまだ分からないが、ジェイクは以前から複数……それも金持ちの家の娘ばかりを狙って金を騙し取っているらしい。多分その女性も、その内の一人に過ぎなかったという事だろう。つい三日前に依頼人が一人暮らしをしている彼女の部屋を訪ねた際には、既に殺された後だった、と。依頼人は奴と面識はないが、当日隣の部屋に住む住人が、たまたま殺された女性の部屋を出るジェイクらしき男とすれ違っているらしく、犯人である事に間違いない。ああ、あと経緯については奴を仕留める前にでも聞いてやってくれ。依頼人の希望だ」


 その時、ちょっといいかとシュライクが口を開いた。


「ってことはアレか、その殺された女も同様に金持ちの嬢ちゃんだって事だよな? それで、上手い事言い寄って金を毟り取った後手にかけた、と。殺されたのはその女だけなのか?」


「依頼人は大手企業の社長令嬢で、被害者はその妹だ。後々厄介だからと事件を表沙汰にはしていないらしいんだが、妹がそんな男に騙された挙句殺されたとあっちゃあ、姉としては黙って見過ごすわけにもいかないんだろう。とりあえず、殺されたのは今回が一人目だ」


 厄介、とはどういう意味だろう。身内が罪を犯したというなら大企業の社長である以上、何らかの影響はあるかもしれないけれど。しかし自分は被害者なのだ。これと言って会社の名に傷が付くなんて事ないはずなのに……。それとも何か秘密にしなければいけない事情が、彼女との間にあるとでもいうのだろうか。

 ほお、と呟くと一瞬ニヤリと口元に笑みを浮かべた。きっと彼の事だ、依頼人が社長令嬢だという事に反応したのだろう。やっぱり女なら誰にでも鼻の下を伸ばすんじゃないか……変態め。


 クロウは封筒から小切手を取り出す。


「それで、だ。ジェイクは一週間後、ヤクの搬入でまた国外へ飛ぶらしい。リミットは七日だ。他の連中同様、運搬途中でミスった様に見せかけて始末した方がいいだろう。成功すれば二百万クォルだが……やりたい奴はいるか?」


 二百万クォル……。思わぬ金額に一同が騒然とする。これまでの任務の中では稀に見る大金である。金で命の重みを計る訳ではないが、依頼人にとってはそれほどの大金をはたいてでも、という意思の表れなのだろう。


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