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Justice OR Vice.  作者: 風舞 空
season.1 【Justice Or Vice】
17/35

4.5th act. -Una die cum nix cadit-

作者の息抜き用番外ショートストーリーです。ちなみに前回の話の終わりの方と繋がった話になってます。(雪のくだりあたり)

ふざけ……てないよ! 息抜きだけど割と真剣に書きました。いやでも息抜きに変わりはない。

 

 AM6:00。昨日から降り始めた雪はあれから結局止む事なく振り続けたらしく、早朝窓から覗いた外の景色は一面真っ白に染め上げられていた。


(おお、すげえ……!)


 真冬にこの地域が雪で覆われる事は珍しくも何ともない。大体毎年一,二回は同じ様な光景を目にしているというのにこの歳になってもなお、たかが雪ごときにいちいち胸を躍らせるなんて子供じみていると自分でも思うのだけれど。



 顔を洗おうと向かったウォッシュルームで、鏡に映る自分の顔をぼうっと眺めてみる。

 昨日支局に行った時、いつもの彼女に『クマが酷い』と言われた目元はまだうっすらと黒ずみが残ってはいるものの、明らかに姿は薄くなっていた。疲れも完全に抜けたわけではないけれど、早めに眠りに就いたおかげでいくらか楽ではある。


(ま、そのうち消えるだろ……)


 鏡に向き合ったまま俺は、背伸びをしながらううん、と気の抜けた声を出した。



 身支度を整えオフィスへ降りていくと、入口の前でジェードとシュライクが俺の到着を待ち侘びるかのように立ち話をしているのが目に入った。


「おう、来たか」


「やっぱり積もった、な」


「……なんでそんな嬉しそうなの、お前」


 シュライクは大きく欠伸をしながら、呆れる様に俺を見た。


「なんか嬉しくならねえ? 雪って」


「ガキか、お前は」


 はあ、と小さく溜め息を吐きながら手に持っていた手袋を填めると、壁に立てかけられていた大きなスコップを担ぎ「先行くぞ」と階段を下りていく。



「ああ、そうだこれ。レイスさんがお前に、って」


「俺に?」


 思い出した様にそう言ってジェードから渡されたのは、シュライクが填めていたのと同じ何やらゴツゴツとした形の手袋。かつて軍へいた頃使っていたものなのかもしれないそれは、彼の手に合わせて作られたのか、填めてみると指先が余ってしまい少し不格好だけれど。ザラついた手触りのそれはかなりの厚みがあって、これなら長時間寒空の下にいても手が悴む事はなさそうだ。

 ジェードの手元にも同じ物があるのを見る限りでは、おそらく昨晩彼が俺達の分まで用意をしてくれたのだろう。


「で、レイスは? もう始めてるのか」


「とっくにな」



 本当は、最年長者である彼にこんな早朝から重労働をさせる事自体、申し訳ないのだけれど。

それでも毎年恒例になりつつあるこの作業で一番の功労者と言えば、きっと彼である事に間違いはない。

 日々の身体作りに余念はないが、それでもまだレイスの半生分も生きてはいない俺達なんて、彼からしてみればほんの少しだけ他より勝っているだけ。現役を退いてもなお衰える事のないその体力には、ほとほと感心してしまう。


 ロビーへ降り立つと、ガラス貼りのドアの向こうに黙々と作業を進めるレイスとシュライクの姿が見えた。


「終わるかな、始業までに」


 時計に目をやりながらそう呟く。


「どうだか。前みたいにアイツが途中で投げ出さなけりゃいいけど、な」


 ……9時まであと3時間弱、ってところか。


「そうだな」


 小さく笑って、俺はそう呟いた。





「あー……、ダリい」


 ざく、と山になった雪へスコップを突き刺すと、シュライクはその場にしゃがみ込んだ。


「おいおい。まだ始めてから三十分も経ってないぞ……情けねえなぁ」


 そう言いながらレイスはせっせと身体を動かし、掬った雪を次々脇へと放っていく。


「なんでそんなに元気なのよ、アンタ……」


「俺が役に立てるのはこういう時しかねぇからな。ただでさえこんな年寄りだってのに、雇ってもらえているだけ有難ぇ話さ。その分、しっかり働かないと」


 がはは、と笑いながら彼は中腰になっていた体を起こし、手の甲で額の汗を拭った。


「老体にムチ、ってやつかね。ご苦労なこって」


「そう思うならお前もさっさとやらんか。早くしないと日が暮れる」


「……はいはい」



 ――そんな彼らのやり取りを横目に、俺とジェードは黙々と手を動かす。

 とりあえず二手に分かれ、ビルの向かいに面した道路側とガレージの除雪作業を行っているのだが。

積もったそれをスコップで掬って道路脇の溝へ落とす、というだけの単純作業なのだけれど……何せ量が多すぎるせいでそう一筋縄ではいかないのだ。


 夜中の内に除雪され溶けだした残雪は道路を凍結させていて、まだ陽の上らないうちに車を走らせるのは危険だろう。そして丁度車が出入りする場所に除雪車の通行により除けられた雪が残っており、とりあえずはガレージからそこまでの十数メートル間をどうにかしなければいけない。この作業を怠ると一日車を使う事が出来なくなるので、嫌でもやるしかないのだ。


 それで今、俺達は早朝からこうして『雪掻き』という名の肉体労働を強いられている訳だけれど。

例年に比べ今年は積雪量が多く、ただでさえ金にならない仕事は面倒くさがるシュライクが音を上げるのも無理はない、と言えばそうなのかもしれない。


「つか、クロウはどうしたよ? 去年もそうだったけど何なのアイツ。ボスだからって待遇よすぎねえか」


 誰に言うわけでもなく、彼は立腹した様子で雪を放りながらそう文句を垂れる。


 そう言えば……と俺は昨日のクロウと交わした会話をぼんやり思い出していた。

 どうやら寒いのが苦手らしい彼の事だ。きっと終わる頃に少し様子を見に出てくるだけだろう。前の年も確かそんな感じだった。まあ、彼は一応“ボス”である。部下である俺達が駆り出されるのは当然の事なのだが……。




 ――と、作業開始から早一時間が経とうとしていたその時。出入り口のドアが重たそうな音を立てて開かれたかと思えば、白金色がひょこりと顔を覗かせる。


 口元を隠す様に巻かれたマフラーにロングコート、それと軍隊にでも入るのかと言いたくなるようなゴツいブーツ。まさに“完全防備”という名が相応しいそれに身を包んだクロウが寒そうに身を縮めながら姿を現した。


 手袋はしていないのかコートのポケットに両手を入れたままぐるりと辺りを見回すと、ドア手前の階段上部へ腰を降ろした。……そして腕時計に目をやりながら


「……あと二時間もねぇぞ。遅れたら罰金だからな」


 頑張れー、と茶化す様に笑う。

 黙々と手を動かす俺達三人を余所にすっかり飽きてしまった様子のシュライクは、クロウの言葉に一人憤慨していた。


「何が頑張れ、だ。んなとこで見物してねえでお前も手伝え!」


「ヤだね。寒いし」


 ふん、と鼻であしらうと取り出した煙草に火を付ける。それを燻らせながら、何か考え事をするようにぼんやりと俺達の姿を眺めていた。




 休まず手を動かしていたおかげか、ガレージ前の雪を片付けていた俺達の方は大分と量も減り、思った以上に進んでいた。辺りはまだ薄暗く寒さも相変わらずだが、動いているせいか額にはじんわりと汗が滲んでくる。それまで冷え切っていた体はすっかり温まっているし、まあ……仕事前の準備体操くらいにはなっているのかもしれない。


 ふう、と息を吐き、ジェードが体を起こしながらこちらに目を向けた。


「お。結構頑張ったな、俺達。……しっかしさすがに堪えるわ、この歳には」


 爽やかな笑みを浮かべながらいたた、と腰を押さえて彼は言う。


「そんな事言ってたらレイスに怒られるよ……」




 そしてふと彼らの方を盗み見てみると、いつのまにか何やら楽しそうな笑い声を上げながら雪をぶつけ合うシュライクとクロウの姿が。その傍ら呆れ顔を浮かべたレイスも手を休め、やがて豪快な笑い声を響かせた。

 その様子を遠目に眺めながら、ジェードはやれやれと肩を竦める。


「やっぱりこうなるのか」


「分かってたけど、な」


 苦笑しながら答えると、彼は「粗方片付いた事だしもういいか」と手に持っていたスコップをその辺に放り投げた。


「もうやーめたっ、と」


 そう言ったかと思うと、雪と戯れている彼らの元へ全速力で走り出す。



「何やってんだお前らぁ! 俺も混ぜろ!」


 そして両手に雪を鷲掴むと勢いよく飛びあがり、二人の顔を目掛け思い切り投げつけた。


「バーカ、甘いわ!」


 突然の奇襲に動じる事もなく、息もぴったりに声を合わせた彼らは迫りくる雪玉を躱す様に首を僅かに傾けた。的を外れたそれは彼らの後方にすとん、と落下する。

 ニヤリと悪戯な笑みを浮かべながら互いの顔を見合うと、それが合図になったのか今度は返り討ちにしてやらんとばかりにジェードへの反撃を開始した。


 ……右に左に忙しく飛び交う雪と笑い声。作業そっちのけではしゃぐ彼らを見ながら、俺は思わず笑ってしまう。


(俺よりよっぽど子供だな、この人達は)



 いつのまにか見物していただけのレイスも中に加わり、飛び交うそれも一層激しさを増していた。


「俺をナメてもらっちゃあ困るぜ、お前達。これでもコントロールには自信がある」


 ベースボールのピッチャーが如く、綺麗なフォームから放たれたそれは見事シュライクの顔面を直撃し、小さく呻き声を上げると彼はその場にバタン、と倒れ込んだ。


「おお、さすがっスねレイスさん」


「すげー……、なんつう剛速球」


 けらけらと笑いながら手を叩き、称賛を浴びせる様に彼らは口々にそう言ってみせる。

 そして倒れたまま笑い転げるシュライクに追い打ちを掛ける様に、容赦なく浴びせられる雪が彼の体を白く染めていく。


「オイ待て、埋めんなって!」


「サボった罰だ。仕方ねえ」


「元はと言えばお前が仕掛けてきたくせに!」


 すっかり明るくなった辺りにはちらほらと、同じ様に除雪作業を始める住民の姿が見える。そしてそんな住宅街の片隅に響く、彼らの賑やかな笑い声。



 ……俺は一人、その様子を眺めながら作業を続けていた。

 とりあえず通行の妨げになるであろう雪の除去は完了した……が。作業を放り出して遊び始めた彼らの周りは結局三分の一程度しか進んでおらず、頼みの綱でもあったレイスまでもが一緒になって騒いでいる始末。


(……しょうがないなぁ)


 溜め息交じりの笑みが零れる。

 腕時計に目をやると、時刻はもう八時を回っていた。始業までとうとう一時間を切ったが、この調子じゃどう頑張ってもそれまでに終わる気がしない。俺一人で頑張ったとしても、せいぜい残りの3分の2の半分もいかないだろう。


「わぁ、雪!」


「……まさかこんなに降るとはねぇ」


 ……そう考えを巡らせている時、突然ドアがゆっくりと開かれ、甲高い声があたりに響く。

先頭を切って姿を見せたのはパディ、その次にアゼリア。きゃあきゃあと声を上げながら、無邪気にクロウ達の元へと走っていく。


「ちょっとクロウ、なんで教えてくれなかったの? 抜け駆けなんてずるい!」


 コートの裾を引っ張りながら、甘える様に彼を見上げパディが言う。


「……お前ら、そんな格好で寒くないのか?」


 厚めのコートを纏ってはいるものの、その下は普段と同じオフィススーツのスカートとブラウス。膝上のそれとブーツの間から見える剥き出しの脚が、男の俺からすると寒そうで仕方ないのだが……。ほら、女性は体を冷やすと良くないって言うだろう。


 全然、と目を輝かせながらはしゃぐ彼女達を眺めながら、クロウは目を細めて笑った。




 ――そして。


「オラ、もう良いからお前もこっち来い!」


 楽しそうに声を張り上げ、手招きしながら俺を呼ぶ。


「でもまだ終わってねーぞ、始業まであと……」


「ああ、もういい。どーせ今日は依頼もねえしな。……休業だ、今決めた!」



 どうやらたった今、彼はそう決めたらしい。今の今までせっせと雪を搔いていた俺の努力は何だったのか……と言いたくもなったが。まぁボスがそう決めたのだから仕方ない。


 スコップを脇に置いて俺も彼らの元へと向かうと、先程の決定に色めき立った二人が嬉しそうな声を上げていた。


「お前の事信じてたよ俺……!」


「なあなあ、じゃあどっか遊びに行こうぜ」


 しかしそんな喜びも束の間、彼らへ釘を刺すかのように


「……誰が一日中なんて言った。午後からは通常通りだ」


 クロウは冷たくそう言い放ち、脇で雪遊びをする彼女達の輪へ加わるようにしゃがみ込む。


「ああ、やっぱ鬼だわお前――」


 はあ、と合わせる様に大きな溜息を洩らしながら、彼らは残念そうに肩を落とした。



 結局俺達はこの真冬の空の下雪遊びにかれこれ六時間を費やし、その後は彼の言う通り通常業務を行った訳だが。


「……っくしょい!」


「うるせえなあ、もー」



 オフィスに戻ってからずっと、シュライクのくしゃみが止まらずなんだか仕事に集中できなかったのは言うまでもない。


やー…わりとふざけてます…ん。まあいいか。←

とりあえず彼らの日常風景を書きたかった。そんな感じで許して下さい。

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