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Justice OR Vice.  作者: 風舞 空
season.1 【Justice Or Vice】
11/35

3rd act. "Infiltration"③


 そして辿り着いた店の最奥の部屋。ドアには『Private Room』と書かれている。重いドアが開かれ、男達の後について入る。


 そこそこ広い部屋には四人掛けのテーブルが十組に壁にはダーツの的、ボードゲームやスロットマシン。奥の戸棚には酒がずらりと揃えてある。言わば小さなカジノのようだ。

と、そこに声を掛けてきた一人の男。


「遅かったなマーティス、ジェイン。……クライヴとアンはどうしたんだ?」


「実はアイツら、三日前の“仕事”で捕まっちゃって。当分は出て来れないかと……」


「……役に立たねえなあ、最近のガキは」


 四十代ぐらいのマーティス達と同じくらい体格の良いその男は、他と違って服装やアクセサリーが飛び抜けて派手だ。もしや彼がオーナーなんだろうか……?

 どうやら今、彼は他の仲間とのゲーム中らしい。順番が回ってきたのか、早くしろ、と催促されている。少し待て、と彼らに告げると今度はマーティスの肩越しにこちらに目を向けた。

 そして何か企む様なその笑みは、ゆっくり近づいてくるとやがてメイの前で足を止める。下から上へ舐める様なその視線に、メイは腕を組んで壁に凭れたまま動こうとはしない。


「マーティス、この方々は?」


「ああ、さっき向こうで知り合ったんだ。退屈してるみたいだったから……どうせ席も余ってるんだし、いいだろ? “仕事”にも興味あるらしいしさ」


 へえ、と呟くと彼女の顎を曲げた人差し指で持ち上げ、顔を近付ける。メイの眉がまた一瞬ピクリと動く。


「アンタ、良い女だな……俺の愛人にでもなるか?」


 一体何を言い出すのかと思えば……メイは顔色一つ変えず、男にまっすぐ目を合わせている。彼は下品な笑い声を上げながら彼女の腰に腕を回し、自分の方へと引き寄せた。

 ここは一応助けた方が良い様な気がするが、下手に動いて相手の気持ちを逆撫でするのもよくないだろう。それにメイは俺なんかよりずっと上手い切り抜け方を知っている筈だ。


 男の言葉にクスリと笑うと、


「考えてもいいわ。貴方が私より強いのならね」


「……ほう、面白えじゃねえか。俺と勝負でもするか?」


「もちろん。私達はお金が欲しいの。その為にここへ来たんだもの」


 彼女の発言に、その場にいた人々がどっと笑い声を上げる。


 それぞれのテーブルにはレート(交換比率)が設定されているらしく、その日の自分の手持ち具合によって自由に選択できるのだという。つまり金を持っている者は高い方へ、持っていない者は低い方へ行けるという事だ。


「威勢がいい女だ。どうだ、こっちへ来てやらないか?」


「いや、金が欲しいなら俺達のテーブルが一番高レートだぜ」



 あちこちから伸びる誘いを払い除け、彼女はあるテーブルへ向かって歩き出した。部屋の隅にある、おそらく一番低レートに設定されたテーブルについている一人の若い男。


……そう、奴がジェイク・ハントである。写真の通り、確かに整った顔の男前だ。少し薄汚れて皺が寄ったジャケットとジーンズに身を包み、自分のテーブルに人が集まらないのかつまらなそうに酒を呷っている。

 メイはそのテーブルに歩み寄ると、彼の向かいへ腰を下ろす。胸元から札束を取り出しテーブルの上に置くと、彼の顔を上目で覗きこむ。


「……私の相手、してもらえる?」


 放り出された札束に、彼は目を見開く。


「……こんなに? それなら、ここよりレートの高いテーブルについた方が得だよ。ここはギリギリの額しか持ち合わせてないやつが座る席だから」


 興味がないとでもいう様に彼はメイと目を合わせようとはしないが、ふとこちらを見た。


「彼は君のボーイフレンドか?」


「ええ……“友達”よ、ただの。気にしないで」


 言動や仕草から見ても、彼がとても人を殺したり誰かを騙したりするような見えないが・・・。実際メイを目の前にしても、反応が薄い。俺の予想では真っ先に食いつくだろうと思っていたのに。


「なんだ。金が欲しいと言う割には、随分と自信がない様じゃないか」


 オーナーらしき男がこちらへ向かって歩いてくる。メイの左隣へ腰を下ろすとポケットからコインを取り出し、積み上げて手前へ出す。


「……そこの君も参加したらどうだ? 席はまだ一つ空いてるぜ」


「ああ……そうさせてもらうよ。」


 俺は残ったジェイクとメイの間の席へと座る。4人揃ったところで男はカードを取り出し、慣れた手つきで切り始めた。


「ブラックジャックだ。ルールは分かってるな?」


 どうやら練習の成果を発揮する時がきたようだ。メイはもちろん、と楽しそうに頷く。


「まずは俺がディーラーをやろう。さあ、ベットを提示してくれ。最低三千クォルからだぞ」


 やれやれ、といった表情を浮かべるとジェイクは手持ちの山の一つを前へ差し出す。積まれた額から一枚五百クォルのコインが六枚、丁度三千クォル。俺とメイも所持金を全てコインへ替えてもらいテーブルの端に置く。

 ディーラーの男がメイの積んだ額に小さく歓声を上げた。彼女のテーブルに積まれたのはなんと一万クォル……いくらなんでも最初から飛ばし過ぎじゃないか?


「初めてにしては随分強気だな。……そう言えば、名前を訊いていなかった」


「クラリスよ。そしてこっちの彼はヴァン」


 顔の前で手を組み、にこやかにそう告げる。

 “メイ”、“ラーク”と呼びあうのはあくまで社員同士のみ。所謂コードネームってやつだ。こういう任務の際はいつも偽名を名乗る。まあ、本当の名前すらお互い知らないのだが。


「OK。それでは始めよう」


 カードをプレイヤーのテーブルへと配ると、続いて自分の手の1枚を表向きに返す。出たのは『7』。


 表向きにして配られた三人のカードは、ジェイクが『4と3』メイが『10と10』俺が『Qと8』という状況。一番遠いのはジェイク、か。

 俺とメイはそのままスタンドを選び、ジェイクはその後『8』と『2』を引き、スタンドする。

 プレイヤーが全員スタンドし、次はディーラーの男の番だ。二枚目のカードを表へ向ける。出たのは『J』だ。この時点で俺達三人を含め彼が最下位となるが、続けてヒットするという選択肢がまだ残されている。男は二ヤリと口元に笑みを浮かべ、デッキへ手を伸ばした。


 ……三枚目のカードは『3』。合計20で俺とジェイクは負け。クラリスはドローだ。


「幸先良いじゃないか、クラリス。君は運が強い様だな」


「……さあね、偶然よ」


 彼女は目を細め、薄く笑みを浮かべる。


「いやあ、参ったな。これじゃあ帰る頃には一文無しかもしれねえ」


 俺は頭を抱えながらディーラーの男のテーブルへコインを引き渡した。


「……ファーストゲームで引き分けるなんて、そうそうある事じゃない。すごいよ」


 ジェイクは軽く手を叩きながら彼女にそう言葉を掛ける。ありがとう、と小さく呟くとメイは艶やかな笑みを彼に向けた。




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