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Justice OR Vice.  作者: 風舞 空
season.1 【Justice Or Vice】
10/35

3rd act. "Infiltration"②

 

 イ―ヴルストリートは街の中心から道を一本隔てた場所にある通りなのだが、商店が軒を連ねる中心部とは違い飲み屋や特に若者向けの店が多く、遅くまで人が絶えることなく行き来している。近くには高層ビルや会社がある為、仕事帰りの人々が憩いの場として活用しているらしくこの時間帯は特に人が多い。

 その通りの一角にあるのがルナシィだ。店の前に掲げられた看板が、眩しい程の緑の蛍光色を放って自己主張している。その文字にまるで惹き付けられるように一人、また一人と店内へ姿を消していく。


「……ここね」


 店の前で足を止め、メイが看板を見上げた。


「ああ」



 入口の前まで行くと、ガタイのいい店員が二人立っており、IDの提示を求められた。顰め面の男はそれに印刷された顔写真と俺を暫く見比べる様に眺めると、それまでの表情がまるで嘘だったかの様な笑顔を浮かべ、「オーケー、楽しんでくれ」と気さくに扉を開いた。


 薄暗く広い店内には洒落た音楽が流れ、テーブルに着き酒を飲む者や音楽に合わせ体を揺らしながら踊る者など、客は皆思い思いの時間を楽しんでいる様だ。

カウンターの席へ腰を下ろし、それぞれの酒を注文する。そして出てきたグラスを掲げ軽く合わせ、味わう様に口へ運ぶ。


 スラリと伸びた脚を組んで酒を嗜む彼女はなんだかセクシーだ。胸元の開いた黒い膝丈のカジュアルなドレスを纏い、深く入ったスリットから覗くその脚は少し扇情的にも見える。決してそういう目で見ている訳ではないのだが、普段の彼女からはあまり想像できないしこういう場に二人で来る、というのも初めてなので任務とは言えなんだかそわそわしてしまう。


「ちょっと、アンタ。すっごい挙動不審よ?」


 そっと耳打ちされ、俺は思わずビクリとしてしまう。


「えっ、あ……あぁ。ごめん、こういう所慣れてなくて……」


 俺達のやり取りを見ていたバーテンダーの男がくすりと笑った。


「なんだ、アンタ達。この街は初めてなのかい?」


「ええ、まあね。ちょっとした人探しをしているの」


「そうか……人探し、ね。この辺りは国中の人間が密集してる所だからなぁ。そりゃちと手間がかかるかもしれねえぞ」


「その様ね。まあ、ゆっくり探してみるわ。大した用でもないから」


 ニコリと微笑むと、空いたグラスを指先で摘み「同じ物頂けるかしら?」と男に告げた。

俺も流し込む様に自分の手元の酒を飲み干し、じゃあ俺も、と頼む。

その後二杯、三杯と飲むうちほろ酔い気味に酒が回り、一時間を過ぎたあたりでようやく緊張が解け始めていた。


 ――とその時、背後から厳つい体格の若い男二人組がこちらに近付いてきたかと思えば、メイと俺の間へ割って入る様に体を滑り込ませると馴れ馴れしく話しかけてきた。


「よぉ、姉ちゃん。何だか随分つまらなそうだが俺達と遊ぶ気はねえか? 連れがトンズラしやがって『席』が余ってんだ。……と、そっちの兄ちゃんはアンタの連れか?」


 なんだ、軟派って奴か。こいつらは。一人が俺の顔を見ながらメイの肩に腕を回す。一瞬彼女の眉がピクリと動いたが、それもすぐに妖艶な笑みへと変わった。


「彼は私の友達よ。そうね、丁度今退屈してたところなの。遊びって何かしら? 何処か面白い所にでも連れて行ってくれるの?」


 回された腕に凭れかかる様にして頭を乗せ、甘える様な口調で彼女は男の一人に目を向ける。彼女の反応に気を良くしたのか、男はまんざらでもないような表情を浮かべ大きな声で話し始める。


「ああ、実はこの店の奥には限られた人間しか入れないVIP専用の部屋があるんだ。そこで……」


「馬鹿、マーティス。声がデケェって!」


 もう片方の男が慌てる様に言葉を制止する。しまった、と口を塞ぐと男は先程よりも小さな声で話しだした。


「俺達はそこの会員なんだが、あるゲームをやってるんだ。勝てば大金が手に入るぜ。本当はあと二人いたんだが、ある事情があって来れなくなっちまってさ、丁度席が二人分空いてるんだ。もしもっと金が欲しいなら、『仕事』も紹介してやるぜ。どうだ?」


 んー、と考える素振りを見せた後、彼女は口端を上げてこちらに目を向けた。


「……ですって。どうする?」


「いいな、面白そうじゃねえか」


 乗った、と右手を軽く挙げると、マーティスがパン、と手を合わせてきた。

どうやら思ったよりいとも簡単に目的の場所へ潜り込む事ができそうだ。それもこれも、メイの華麗な演技とこの男達の迂闊さのお陰だが。


 ついて来い、と促され俺達はカウンターを離れると、広い店内を横切る様に奥の方へと案内された。

前を歩く彼らに聞こえない様小さな声で、メイがそっと話し掛けてくる。


「ツイてるわね、私達。あんな口が軽い男雇うなんて見る目がないのね組織の連中は」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながら言う彼女に、思わず小さく吹き出してしまう。

そして確かに……と口にした瞬間、前方を歩く男の一人がチラリとこちらを見た。


「ん? 何か言ったか?」


「いや、少し酔ったみたいでさ。気分がいいんだ」


 俺の咄嗟の切り返しに彼はそうか、と特に気にする事もなくまた前を向く。……ふう、危なかった。


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