第9話 新しい日常の始まり、ヘタレ男光喜爆誕!
「光喜様、失礼いたします」
愛おしい声。
俺の不安が一瞬で搔き消える。
ネルが優しい笑顔とともに俺の自室を訪れた。
明るくなる俺の自室。
まるで花畑のように、ネルの存在だけで彩があふれ出す。
彼女にとって。
ノアーナに仕えることが全てに勝る喜び。
(…ちょっと病んでしまっている?)
非常に優秀。
……そして美しすぎる女性。
美しく腰まで伸びている藍色の髪はまるでビロードのよう。
見る者の心を鷲掴みにするほどの魅力を秘める翡翠のような美しい瞳。
愛くるしくも艶っぽい唇、目が離せなくなるほど魅力的だ。
髪から見え隠れしている長めの耳。
四肢はすっきりとし、驚くほど白くなまめかしい。
蠱惑的な胸部。
美しさと卑猥さが、芸術品のようなバランスを保つがごとく共存している。
腰は細く締まり、腰から足にかけてのラインは妖艶な曲線美を描いている。
(うう、ヤバイ…見るほどに可愛く…美しい)
そして。
彼女の魅力を極限まで引き立てる、黒を基調としたゴスロリ調のメイド服。
露出は少ない。
だけど。
エロイズムの極致といえるようなあざといデザイン。
見えそうで見えない絶対領域。
ふくらみの質感がうかがえるような繊細に計算されつくされた装飾。
まさに理想の体現者。
少女のような可憐さと、熟女のような妖艶さ。
俺の視線は彼女に固定される。
この世界が地球と似たような文化であるなら。
きっと彼女をめぐり幾つもの国が滅んだことであろう。
(ゴクリ…この子と俺………マジ?)
※※※※※
「光喜様、よくお休みのようでしたので。…こちらへお食事をご用意いたしました」
ネルを見つめてそんなことを思っていた俺は、彼女の声で我に返った。
「!?…ありがとう」
顔に熱がこもる。
そんな様子の俺に対し。
ネルはにっこりと微笑むと、心地よい鈴を鳴らすかのような声で笑う。
ふっくらした白パン、サラダ。
ゴロゴロした具材がしっかり煮込まれたシチュー。
ホカホカと湯気を立てるそれは、俺の食欲を刺激する。
まさに“異世界”メニュー。
(やべっ…メチャクチャうまい!……あの弁当とは比べられん!?)
…涙がにじんだのは、秘密にしてもらいたい。
※※※※※
一通り食事を済まし。
俺は食後の紅茶を用意しているネルに声をかけた。
「ネル、今の俺にできることはあるか?まあ、能力も限定的だし、記憶も色々とちぐはぐだ。でも、何か違和感?というか焦燥感を感じるんだよ」
芳醇な香りを楽しみつつ、俺は美しいネルを見つめる。
「……授かった?記憶も、虫食いだらけで…ほとんど思い出せない状況なんだ。ちょっと不安っていうか…」
「…光喜様」
ネルは少し拗ねた表情を浮かべると、するりと抱き着いてきた。
胸に押し付けられた柔らかな双丘が存在感を強調。
均整のとれた美しい腕が俺に絡みつく。
「っ!?」
ネルの感触。
何とも言えないクラクラする良い匂い。
「光喜様、焦らないでくださいませ。まだ戻られて数刻しか経過しておりません。まずはお話しできる内容を精査している段階です」
俺を真直ぐ射抜く翡翠のような瞳。
ネルは愛おしそうに俺の頬に手を這わせる。
「…わたくしについては、どの程度認識されておられますか?…先ほどの光喜様のまなざし、期待してもよろしいのでしょうか♡」
つぶやくようなひそやかな声で、耳元に甘くささやく。
「!!!???」
(やばいっ!死ぬ!心臓が破裂する!!?)
なんだ?
やばいっ、理性が……!?
か、かっかっ、可愛い、とかじゃない!
マジで理性が崩壊するっ!!!
ドクン、ドクッ。
心臓が暴れ狂う。
「わたくしは光喜様のものですよ♡……あなた様は、望むように、赴くままに――お好きにすることができる唯一のお方です」
(ああっ、あああっ♡光喜様っ!わたくしはとっくに準備は完了しています。唇をっ、躰を、わたくしを――可愛がってくださいませええええ!!!)
(っ!?)
本音と建前がほぼ一致しているだと!?
しかも本音は過激すぎるううう!!?
プチン。
何かが弾ける音。
(も、もう…限界――)
そして俺は――
白目をむきその場で崩れ落ちた。
俺の精神の享年、34であった……チーン。
※※※※※
ネルに迫られた俺は。
あまりにも頭に血が上り(笑)
大量の鼻からの出血と意識の喪失により大人の展開には至ることはなかったのだった。
※※※※※
その後。
非常にネルが不機嫌そうに、でもなんか弟を見守るような優しいまなざしで俺を見つめるのであった。
(光喜様はいじわるです……でも、なんて可愛らしいのでしょう♡)
(ううう、すんません……でした)




