第8話 胎動
【ファルスーノルン:新星歴????年??月??日】
200年と言う長き時間――
この世界の礎であった極帝の魔王が不在の時。
大理石のような輝きを放つ人造物のような鉱石を敷き詰められた広大な広間。
まるで偉大なる儀式を行うその場所。
壁には幾何学的な文字。
びっしりと刻まれている抽象的な絵。
恐らく神話の伝承。
ほのかに発光している床や壁面。
光源のようなものが見当たらない空間は明るさを保っていた。
意匠の凝らされた空間。
扉の横には、東洋の龍を連想させるような彫り物が巨大な剣に巻き付いていた。
反対側の壁には。
恐らく儀式の記録――
刻まれている、数体で何かを呼び出している様。
そして中央。
きめ細かい精巧な彫り物で覆われた、1mほどの高さの段の上。
祭壇がその威容を現す。
大気を揺らす暗鬱とした魔力が振動とともにせせりあがる。
そんな空間。
体の一部に紋様が刻み込まれている魔物が数多く佇んでいた。
ざっと数百体。
大きな顎の巨大な爬虫類のような魔物。
天井に届こうかと言うストーンゴーレム。
首がいくつもあるヒュドラ。
多くの雑魚のような魔物たち。
彼等は息をひそめ、まるで祈るような魔力を纏い。
中央の祭壇を見つめていた。
※※※※※
『――時は来た』
響き渡る地を這うような、怖気を含む声。
司祭のような装いのエルフ種族の一団。
彼等の魔力が色を伴い、すさまじい奔流をほとばらせる。
祈り。
願い――
執着。
紡ぐ祝詞は佳境を迎え。
数名の司祭たちがまるで糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
刹那。
まばゆい黒光りする光が顕現。
「…うが…ルgム…ア…vイア…gぽsじゃl;ア…」
広大な広間は――意味不明な絶叫に包まれた。
ごとっ、がらっ
重たい硬いものが落ちる音とともに。
祭壇の中央が裂け、ナニカがその存在を構築していく。
この世界の摂理。
それを超える、いや――
まさに“同等の器”が産声を上げていた。
のそりと這いずりだす異形。
ピタリと絶叫は消え、代わりに歌うような旋律が流れ始める。
同時に、数多いた怪物たちはその場で祈るような表情を浮かべ倒れ始めた。
「あああ…我らの盟主がついに…ついに……」
倒れていたエルフの司祭の一人が、最後の力を振り絞るように異様にギラギラした眼光を覗かせる。
『過剰に装飾の施された杖』を掲げて。
這いずり出てきたモノ。
体に黒い鉱石な様なものを生やす異形。
『ソレ』はおもむろに倒れている魔物を咀嚼。
そして徐々にその姿は大きくなり存在値を増していく。
永遠。
いや刹那。
身の毛もよだつ降臨の儀式。
すべての魔物を咀嚼、存在値をさらに大きくした『ソレ』は。
『見ようとすると見えなくなる』
そんなもやの様な物に包まれ。
数刻後にはまるで何もなかったかのように広大な空間は静寂に包まれていた。
ただ一人――
凄まじい執念。
それを瞳に浮かべたエルフの男性を残して。
※※※※※
【ファルスーノルン:新星歴5023年4月28日】
隠されし秘境の地、モレイスト地下大宮殿最奥。
真の脅威、悪意の塊。
それはまるでノアーナの転生に呼応するかの如く――
その瞼に振動を宿す。
静かに運命は。
終わりの始まりを――
邂逅を――
その日は近づいていた。




