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第74話 運命の出会い1

【ファルスーノルン過去:新星歴4816年8月12日】



ずっと寝ていたツワッド嬢が目を覚ましたと、様子を見に行ってくれたアルテミリスから念話が届いた。


俺はさっそく彼女が滞在している客間の前へ飛んだ。

さすがに初対面(俺は何度か顔は見ているが)の異性が突然部屋に現れたら色々不味いだろう。


それにあの時の俺は『ノル』だった。

おそらく顔も覚えていまい。


なぜか緊張してしまい、ノックをする手が震えた。

自然と俺の鼓動が早くなっていく。


「……はい…どうぞ」


中から鈴をころがすような美しい声が聞こえ――俺はゆっくりとドアを開いた。


そこには女神すら逃げ出す美貌をたたえた美しすぎる女性が、不安そうな表情でソファーに腰かけていた。


(……なんて美しいんだ………)


俺は顔に熱が集まるのを自覚しながらも、一歩も動けずにいた。


心臓が荒れ狂う。

魔力が落ち着かない。


何度か彼女の寝顔を見たはずなのに。

翡翠のような瞳に見つめられ――


まるで…


違う法則――そう。

水中で呼吸できない俺達――いきなり有無を言わさず常識を改変されたような衝撃。


(…世界の色が――変わった?)



「…魔王ノアーナ様?こちらへいらっしゃってください。そこではお話もできません」


ふいに告げられ――俺の思考が吹き飛ぶ。


――思わずキョドってしまう。


(…俺は中学生か?!)


「あ、ああ、す、すまない。それでは失礼する」


動揺を悟られないように敢えてぶっきら棒に言い、俺は大きく息を吐き彼女の対面に腰を下ろした。

近くで見る彼女は本当に美しい。


見蕩れてしまった。

――どうしようもなく。

 

「あの、まずは感謝を。お助けいただき誠にありがとう存じます」


ツワッド嬢は立ち上がり、深々と頭を下げた。

ふわりと届く彼女の匂い。


――ダメだ…思考がまとまらない!?


「あ、ああ、…受け入れよう。座ってくれ」

「はい。失礼します」


改めて彼女を見る。


アルテミリスたちが用意してくれたのだろう。

ゆったりとしたトレーナーのような物を着用し、上からガウンのような物を羽織っている。


(…助かった)


体のラインがほとんどわからない格好に、心から感謝の気持ちが沸き上がる。

そうでなかったら――絶対に体をいやらしい目で見てしまっていた。


悶々とそんなことを思っていると、ツワッド嬢が口を開く。


「ノアーナ様、とお呼びしても?」

「!ああ、かまわない。ツワッド嬢」


「ネリファルース、いえ、ネルとお呼びください。近しいものにはそのように呼ばれておりました」


そう言ってにっこり微笑むネル。


(…………やばい………可愛すぎる)


再び固まる俺。

どんどん上気してしまう俺はネルから視線を外した。


「………えっと…その…」


首を傾げ不思議そうな顔で俺を見る彼女。

途端に顔に熱が集まる……おいおいおいおい!


マジでどうしたんだ?俺!


――コンコン。


ちょうどそのタイミングでドアにノック音が響いた。


「失礼します。紅茶持ってきたよ。ネルさん、飲めそう?」


(っ!…茜?――ネル呼びだとっ?)


「ありがとうございます。茜さん。いただきます」


茜が紅茶とちょっとしたお茶菓子を、持ってきてくれた。

少し落ち着く俺。

ふうーっと息を吐いた。


「こ…コホン。ノアーナ様?どうしたの?」



「い、いや、何でもない…ありがとう。茜もどうだ?」


色々説明が面倒なので、光喜さん呼び、それから茜が転生者であることは伏せるよう指示を出してある。


「じゃあ遠慮なく。ネルさん、隣良い?」

「はい。どうぞ……ノアーナ様のお隣ではないのですか?」


「うん。ちょっと観察、じゃなくて、何となく?ハハハ……」


(コイツ!…面白がってやがる?)


ネルが美しい所作で紅茶を飲む。

何をやっても絵になる姿に、またしても見蕩れる俺。


そしてニヤつく茜。


「コホン、ネルさん、その…」


「ネル、で結構です。命の恩人に敬称をつけられるのは心苦しいですし、何より魔王であるあなた様に不敬です。どうぞそのままネルとお呼びください。話の途中で失礼いたしました」


「ああ、いや、かまわない。コホン…ネル…えっと…」


またまた赤くなる俺の顔。

笑いをこらえて涙目の茜。


俺はいったい――どうしたんだ俺の体?


「ノアーナ様?どうされました?もしやお体の具合が…」

「っ!!!いや、大丈夫だ…すまん正直に言おう――緊張している」


「ぶはっ…クックっ…もうだめーあははははは、ひー、あははは」


遂に茜腹を抱えて大爆笑。


「お、おまえ帰れ!」

「ひーひー……ホントに良いの?…ねえ、ちゃんと話せる?二人きりで」


「っ!?…ふたりきり…」


ネルの顔を見る。

コテンと首をかしげる。


あーまじやばい。

心臓が尋常じゃなく激しく鼓動を鳴らしてしまう。


そんな俺の様子に、茜が大きくわざとらしくため息をついた。


(くっ、こいつ…)


「あのねーネルさん。ノアーナ様は魔王のくせに純情ちゃんなんだよ。綺麗なネルさん見て緊張してるの。信じられないでしょ?もう数十万年も生きてるのに。エッチのくせに奥手とか意味わかんないよねーホント。全く中学生かっ!」


「……?…奥手?……えっち?…中学生?」


みるみる染まる俺の顔。

そして涙目。


(…ナニコレ…いじめ?)


「あっ、あっ、茜?…それは…あんまりじゃ…」

「あーもう、しっかりしてよね。全く。……もうばれたんだから緊張しないでしょ。お邪魔虫は帰りまーす。チャオ♡」


茜は転移していった。


……確かにさっきよりは緊張しない…かなあ?



※※※※※



茜は一人図書館に転移した。


「光喜さんのばーか、たーこ、おたんこなす………ばか…」


膝を抱え泣いてしまう……

こみ上げる焦燥感。


そして――


「……嬉しそうだったな……やっぱり、あの人だ…」


しばらく呆然としていた茜だが、使命感に燃えるような表情を浮かべ、会議室へと転移していった。


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