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第7話 グースワース、自室にて

【ファルスーノルン:新星歴5023年4月28日】



(…ついに帰ってきた――)


既視感。

新鮮な気持ち。


ごちゃ混ぜになる俺の感覚。


でも俺は。

自然とソファーに足を向けた。



※※※※※



俺の自室。

20畳くらいの広さに立派なベッドが目に付く。


機能的な家具が絶妙に配置。

控えめな調度品の数々。


(家具1つ…どう見てもあり得ないくらい高級品だぞ、これ…)


センスが良いのだろう。

落ち着く空間を演出していた。


ひときわ大きな姿見に、窓際には応接コーナー。


俺がいない間もしっかり管理してくれていたらしい。


部屋にはチリひとつない。

ジンワリと心が温かくなっていく。


窓の上にはやけに時代にそぐわぬ、デジタル時計のような『魔刻計』

《神星歴5023年4月28日11時38分》と表示されていた。


「カチッカチッ」と秒を刻む音が響く。


(…時間軸も同じっぽいな)



※※※※※



「…光喜様、とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?その、大変心苦しいのですが、まだお力のほとんどが戻られていない状況では、色々と面倒なことがありますので」


感慨深く想いにふける俺。

ネルは少し切なさそうな表情で問いかける。


「もちろんグースワース内であれば問題はありませんが」


てきぱきと俺の世話をこなしつつ、お茶と軽食を用意してくれる。

本当にネルは優秀だ。


「そうだね。しばらくは『光喜』で頼む……アハハ、なんかタメ口慣れないけど、この方が良いんだよね?」


「もちろんでございます。もっとぶっきらぼうなお言葉遣いでも構いませんが。…長く人間の生活をなされていた光喜様には、徐々に慣れていただければと。――呼び名の件、賜りました」


『お疲れでしょうしばしお休みくださいませ』

そう言い、ネルは私室を後にした。



※※※※※



まさに怒涛の展開。


ふーっと大きく息をつき、俺は姿見の前へ歩く。


整った顔の黒髪銀眼。

均整のとれた体つきをしている中性的な美少年が映っていた。


ネルが用意してくれた服。

黒を基調とし金色の縁取りがされた軍服のような、所どころ高価な金属で細工されたそれに身を包む姿はマントでも羽織れば確かに魔王に見える。


ああ。


『ネルさん』呼びはやめてくださいと懇願されたよ?

『切ないです…距離を感じてしまいます』


うん。

そんなこと言われちゃえばね。


コホン。


だけど。


実はさっきから心がざわついていた。


ネルに出会って最初に「ノアーナ様」と呼ばれたとき。


漠然とした違和感、そして不安。

――焦燥感。


(この違和感は一体…)


転生後から続く強い違和感。

ネルに会えたことによる大きな充足感。

能力を復元したことによる安心感。


以前の記憶にあるあまりにも隔絶した存在であるかつての自分への激しい劣等感。


様々な感情や状況が浮かんでは消え、消えては浮かび。

混乱するはずの俺の思考領域はスキルの恩恵か徐々にさえていき…


「やーめた」


あっさりと放棄することを選んだ。

もともと執着のない性格だったようだ。


何しろ多くの星々なんていうとんでもない領域をポイしてしまうほどの存在だ。


「分からんものは分からん。それよりも分かっていることから考えてみようか」


俺は大きなベッドに体を投げ出し、知らない天井を見上げ。

恐ろしいほど濃い、さっきまでの出来事を思い返してみた。


「これは異世界転生なのか?…姿かたちも全然違うけど…東京の家で死んだのは確実だよな。最後――身体おかしかったけど…」


あの時俺は――確かに漆黒の鉱石のように変質していた。


「…とりあえず両親とか妹夫婦には心配かけちゃったかな…親より先に死ぬとは」


よぎる両親と妹の顔。


「西園寺先輩…茜ちゃん…」


未練。

きっとそうなのだろう。


大きなベッドの上で、転がる俺。


「…そもそも。…なんで俺は滅ぼされたんだ?概念すら創造し、宇宙までをもいじれる存在を滅ぼすなんて。――無理ゲーもいいところだろうに…」


ざわり。


よくわからない感覚が、俺の体を駆け抜ける。

そして脳裏によぎる、何故か泣き叫ぶネルの顔。


(っ!?……なんだ?…なんで…ネル…)


知らない。

俺はこんなネル、見たことないはずだ。


――ズキリ


刺すような痛み。

それが脳内を蹂躙、やがて落ち着くそれは。


今さっき浮かんだ情景を消し去っていた。

――まるで意図を持った阻害――何かの力。


(…あれ?……えっと…)


代わりに浮かぶ、先ほどの可愛らしく微笑むネルの顔。


(…ネルってマジで可愛いよな。美人だし…以前の俺はとても幸だったろうな…)


顔が熱い。

俺はおもむろに、上等な布団を抱きしめる。


激しく脈を打つ鼓動。

一瞬の不穏の反動か――やけになまめかしい脳裏のネル。


(…ヤバイ……一目惚れ?…くうっ?!)


暫く俺は。

悶絶していたんだ。



※※※※※



俺は改めて東京でのことを思いだした。


「…もう仕事に行かなくていい…正直――やばいくらい嬉しい…」

「…そういえば尿意とかないな。そういう必要のない存在なのか?」

「………」


とりとめのないことを考えているうちに、徐々にではあるが昂ぶりが収まる。


(後でまた――ネルが来てくれる…)


そこでしっかりと疑問点を解消しよう。


そしてできることからやってみよう。

考えたって分からないことばかりだ。


ある程度の覚悟

それとも怒涛の展開での疲労か――



俺の意識は暗闇に落ちていった。




だが俺がこの世界、ファルスーノルンに再転生した事実。

それは幾つものトリガー。


動き出すきっかけとなる。


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