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第6話 契約解除と拠点グースワース

――話は続く。


ネルさんは“ほおっと”息を吐き、俺に対し言葉を紡いだ。


「あの光喜様?この空間では限定的なお話しかできません。できればグースワースに戻りたいのです。そうすれば光喜様の置かれている状況や現状など、ゆっくりとお伝えできるかと」


なぜか遠慮がちに話すネルさん。

俺は一瞬クエスチョンマークが頭に浮かぶ。


グースワース。

以前魔王だった俺のホーム。


――本拠地だ。


「えっと。そもそもなんですぐにそこに行かないの?ここってネルさんの能力で作った場所でしょ?…魔力とか消耗しちゃうよね?」


既にこの部屋で1時間以上話をしている。

俺としては色々情報聞けたので、凄くありがたいけど。


もし無茶をしているのなら…

早めに本拠地に行きたい。



「…契約。されてますよね?」

「は?」


「…正確には“契約もどき”と呼べるものです」

「……えっ!?契約もどき?」


なぜかジト目で俺を見るネルさん。


(…美形は得だよね?)


そんな顔もめっちゃ可愛い。


「…どうやら強制送還直後に、卑しい泥棒猫がちょっかいをかけたようでして。忌々しくもその手の魔術については奴らのほうが一枚上手」


話をしながらも、てきぱきと茶器を片付けていく。


「…現在は私の作った『溺愛結界ラブドーム』内部ですので。…あなた様にまとわりつく愚かで!売女で!泥棒猫のっ!腐れ切った卑しい!汚らわしい魔術を解くことなどっ!!――ふう、ふうっ…たいしたことではないのですが」


(おうっ?!…感情が溢れすぎたせいか目つきがやばいですよ!ネルさん)


「…えっと…何か深く聞きたくないような言葉が見え隠れしているけど…で?俺契約などしてないと思うんですけど…?」


「名を呼ばれ、返事されましたよね?」


あー。

あの時脳内に伝わった思念か…


「あなた様が別次元へ飛ばされる前に、条件付けされていたのです。まあ、条件が弱いために強制力は低いのですけど」


えっと。

返事というか…


疑問形での「はい?」だったんだけど…


「それなら即時に解除してくれていいよ。ネルさんは絶対的に味方だもん。…うまく言えないけど、魂が安心しているというか?なにか運命的?」


言っていて顔に熱が集まる。


「ハハハ、キザっぽいね。言っていて恥ずかしい…でもまあ、最初は緊張したけど…信じてる」


(…本当は今もかなり緊張しているけどね!)


みるみるうちにネルさんの頬に朱がさす。


うっとりと目を潤ませ。

自ら両手で頬を包み込み、もじもじと体をうねらせる。


(やだっ、何この可愛い生き物!?)



「っ!?痛っ!!」


そんな姿に見惚れていると、突然激しい頭痛が俺を襲う。

聞き慣れていたであろう“過去の自分”らしい声が頭の中で響いた。


『…限定的だが念話スキルとマルチタスク、復元した…ちっ!イチャつきやがって!!』


頭の中にむりやり異物を押し入られるような感覚。

吐き気がし、思わずかがみこんでしまう。


(…最後の…なんて言った?…イチャ…)


「光喜様?!どうされました?大丈夫ですか?」


突然優しい香りと柔らかいものに包まれる俺。

対面にいたはずのネルさんが、瞬間移動したかのような速さで俺を抱え起こす。


「もしやっ!あの腐れ泥棒猫になにか仕掛けられた?!」


刹那わなわなと震えると、鬼神のごとき表情がネルさんに宿る。


…俺に向けられたわけではないけど…


やべえ。

めっちゃ怖い。


「っ、いやっ。違うよ!?…どうやら少し能力が復元したみたいだね。頭の中に懐かしい声が響いた……うえっ?」


(…ああ、ノアーナ様!魔王然としたかつてのあなた様も素敵でしたが、いまの消えそうに儚いあなた様も可愛すぎます。…あああ、どうしましょ?…すぐに抱きしめてノアーナ様のにおいに包まれたい。――あのご尊顔をスリスリしたいいい!!)




…ん?


唐突に『聞いてはいけないことが聞こえた』ようだが?


「コホン、では少し様子を見て問題ないようでしたら、契約解除の儀式を行わせていただきますね。光喜様、ご準備をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「えっ?はい。…準備とはどうすれば?」

「コ、コホン。まずはお召し物を脱いでいただきます。そしてわたくしが聖言を紡ぎます」


そういうと少し頬を赤く染め。

ネルさんは着ているメイド服のボタンに手をかける。


「っ!?」

「せっ、聖なる儀式ですので、穢れない姿でないと、効果が…」


(…ノアーナ様を裸にするには、まずわたくしが脱げば抵抗ないはずですわ!本当は聖言だけでいいのですが)


「そ、そして聖言を紡いだわたくしを抱きしめていただき、口づけで儀式は完了です」


なぜかドヤ顔のネルさん。

そしてめっちゃ色っぽい?!


俺は無言でネルさんの肩にそっと手を乗せた。


「あーごめん。…『聖言』だけでいいんだよね?それでお願いできるかな?」



凍り付く空気。

ぴしりと、まるで音が聞こえるほどネルさんがフリーズする。


「えっ?い、いやでも。…効果を発揮するためには、儀式を…」


「うん。さっき『念話』使えるようになったんだよ。ハハ、ハ。…聖言のみでも効果があるって聞こえちゃったし。あー、とても、う、嬉しいけど。――ちょっと今の俺には刺激が強すぎそうだから…ちゃちゃっと聖言のみでお願いできるかな?」


34歳童貞の俺。

ネルさんの裸体なんて無理!


勘弁してくれ!


…本当は見たい気持ちもめちゃめちゃあるんだけれどね!!



※※※※※



儀式は一瞬で終了した。

うん、なんかごめん?


しばらく彼女の視線が非難じみた色をたたえていたのは気づかないふりをしておこう…


なんか――


(真直ぐすぎる好意――慣れてないんだよな…もう少し、色々整ってから対応したいんだよ)


今の状態。

俺は罪悪感に囚われてしまう。


だって…


(彼女が心から信愛を捧げる相手は魔王ノアーナ。俺ではあるようだが…ちょっとな)


そんな俺の心の葛藤とは別に。

解除された契約、それも俺の能力を阻害していたようだ。


(…だからあの時――抵抗を感じたのか)


頭に流れる電子音のような音声――


『ジジ…ジ…『拠点間転移』…拠点登録した場所への集団転移…ジジ…‥『基礎魔法』…4属性+神聖・暗黒魔法……『魔王威圧』…ジジ……『運命操作』……ジジ…格下…に有効……ジジ…ジ……』


(…なるほど…くっ!?…転移できてしまえば――拘束なんて……できないもんな)


激しい頭痛。

だけど。


俺はそんなことを思い、蹲っていたんだ。


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