表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/39

第4話 ネリファルース・ツワッド

「ふう」


俺は淹れてもらった美味い紅茶を口に含み、小さく息を吐く。


目の前の美しい女性。

――ネリファルース・ツワッド。


かつて『ネル』と呼んでいた女性。


俺は改めて視線を向けた。


「…ネル?なにがあった?俺、いや俺は…?いや。コホン――これはどういう状態だ?」



※※※※※



先ほどの情報の流入。

ほとんど消えてしまったが。


どうやら一部は固定されたようで。


“彼女”のことは認識することが出来ていた。

…自分のことも何となくだが分かる。


だが。

まるで覚めた瞬間に消えてしまう夢のようで。


数瞬前の記憶があやふやになっていく。


「…まずは現状の確認を。ノアーナ・イル・グランギアドール様」

「…う、うむ」


黒を基調とした蠱惑的なメイド服を身に纏っているネル。

見惚れるほど美しい所作でカーテシーをし、すっと背筋を伸ばす姿がまぶしい。


先ほどの恐ろしい雰囲気が嘘だったかのような、蕩けるような柔らかな表情で微笑かけてきた。


「ノアーナ様、とお呼びしても?」

「…ああ、うん。かまわない。なにか違和感がある…けど…」


「おそらく1割かと」

「1割?……なんだそれは?」


「ノアーナ様の現在の『存在』が。でございます。おそらく散り散りにされたあなた様の存在の1割程度しか、今ここにはないのでは、と」


美しい所作で紅茶のお代わりを注いでくれる。

芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。


「ただ『本体』であるあなた様の心の真核『佐山光喜様』がこちらへの強制送還の秘術により復帰されたため、一応の整合性が保たれノアーナ様としての自我がごく一部ではありますが、奇跡的に安定されたのではないか、と愚考するところでございます」


存在が散り散り?


は?


…真核!?

…強制送還の秘術?


情報が多すぎて理解ができない。



どうやら俺は。

とてつもない存在で。


何かに滅ぼされ。

ご丁寧に魂と呼ばれるものまでもバラバラにされ。


時間・次元・概念の異なる場所へと飛ばされたらしい。



ネルは、どうやら俺の部下だったらしいが。

ノイズが走り詳しくは思い出せない。


見た瞬間、というか。

触れられて記憶が刻まれたときに認識できたが。


今は…



???


あれっ?

なんか冷静になってきたら…


えっ?


(えっ、なんで俺…こんなに綺麗で可愛い子と、お茶しながら話してるの??)



急激に認識が変わっていく。

素の俺に戻っていく?


間違いなく異常な今。

俺は“普段の俺”が前面に出てきてしまう。


(…おいおい!?)

これって…


異世界転生???

まじか?


(…なんのラノベだこれ!?)


ちょっと落ち着こうか。

まずは現状の確認からだな。



うん。

えーっと……


俺は佐山光喜34歳。


よしっ、大丈夫。

自分の名前は分かっている。


陰キャで童貞。

社畜でブラック企業にいいように扱われ。


死ぬほどの残業を繰り返し。


(…今日は取引先のコンペで佐々木部長と…って!?)


ダンッ!


思わずテーブルに手をつき立ち上がってしまった。


「あのっ、ネル…さん?すみません。俺は死んだのですかね?ここは東京ではないですよね?えっと、さっきは混乱していて……なんか偉そうに話していましたけど。あのお…」


俺が話し始めると、ネルさんの表情がみるみる曇っていく。

心なしか小刻みに震えているようにも見える?


さっきまでの非現実的な存在。

なぜか少しばかり身近に感じた。


(…認識したから、かな?)


「あのおー、えっと……」


「あっ、ああああっ!?…何てこと?ノアーナ様の存在が小さく…どうすれば!?…ノアーナ様っ!…あああ、ううう…ヒック…グスッ……」


突然泣き出したネルさん。

俺はどうしていいかわからずに茫然となってしまった。


もちろん抱きしめてあげたり。

「大丈夫だよ。俺に任せろ!」なんて…


気の利いた行動も、セリフも吐けるはずもなく。



一緒に立ち尽くすだけであったのは言うまでもない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ