第35話 転生者茜の大冒険3
【ファルスーノルン過去:新星歴4814年4月25日】
美味しいケーキを食べて、光喜お兄ちゃんとお話しして。
気が付いたらあたし寝っちゃってた。
今寝てるすっごい大きいベッド。
いつも光喜お兄ちゃんが寝ているんだって。
(…スンスン、いい匂い♡)
――安心する匂い。
(…パパみたいな匂いだ)
ムニャムニャ…
※※※※※
あの後。
茜はすぐに寝てしまった。
本当は『安定の権能』が働いたせいだが。
悲しいことだが。
入院が長かった茜は『まどろみながら考える』特技があった。
目は開いていないし、何なら意識もない。
でも彼女は、いっぱい考えるのだった。
※※※※※
お話ししていたら眠くなってきちゃって。
光喜お兄ちゃんが優しく『お姫様抱っこ』してくれたんだ。
とてもかっこよくて…
ちょっとドキドキしちゃったのは内緒。
だって光喜お兄ちゃん…
さっきの優しそうなお姉さんととても仲良しみたいだった。
(彼女さん…かな?)
…考えたらなんか胸がチクチクする。
……
パパ、元気かなあ…会いたいなあ…
……
……
パパ…
光喜お兄ちゃんに…
会えたよ…
むにゃ――
※※※※※
茜ちゃんを寝かせ。
俺はモンスレアナを伴い、地上300m地点にある会議室へと飛んだ。
「ヒャッハー♡死にやがれ!」
「あああああ、あーちゃん、酷いよー」
アースノートが操る『究極農家ズッキーニ太郎』が、アグアニードの操る『恋する魔法熟女キャロライン』を撃破する瞬間だった。
「これであーしの10,062,330勝10,062,325負ですわ♡一昨日きやがれ!ですわ♡」
「ムッキー、ズル!ズールー!!もう、酷いよ!あーちゃん。くっそーもう一回!」
俺は電源を引き抜いた。
「すまんが後だ。会議を始める…ダニーはどうした?見えないが」
俺の問いかけに、エリスラーナが近づいてきて両手を広げながら、
「家帰った。忘れ物…不敬…じいいいいいいいいい…抱っこ」
――見た目8歳のお願いは強制力が強すぎる。
とりあえず抱っこした。
軽い。
「エリス、ちゃんと食べてるか?…お前軽すぎ」
「むうっイジワル…??…ノアーナ様…ちから???…」
そんなことをしていると、会議室に魔力があふれ出す。
ダラスリニアが『クマのような』ぬいぐるみを大事そうに抱きしめながら転移してきた。
「…………ただいま…ノアーナ様…」
「ああ、お帰りダニー。忘れ物はあったのか?」
コクリと頷いてぬいぐるみを掲げ、そしていつもの端っこの席へ座る。
「………ノアーナ様がくれたぬいぐるみ…いのち」
「…そっ、そうか。大事にしてくれて嬉しいよ」
ダラスリニアは真っ赤になってうつむいた。
※※※※※
「さあ、全員揃ったな。席についてくれ。まずいことが起きた」
俺は全員を見渡す。
火の神アグアニード
【力と減退】の権能をもつ。
赤に金の混じったトサカ頭の好青年。
ムードメーカー 存在値13,200。
水の神エリスラーナ
【誕生と衰退】の権能をもつ。
古龍の化身、最強幼女。
存在値19,500。
土の神アースノート
【発明と荒廃】の権能をもつ。
口の悪い不思議ちゃん。
実は美少女。
我らが誇る頭脳 存在値5,300。
風の神モンスレアナ
【安定と混乱】の権能をもつ。
優し気な薄緑色の髪を煌めかせる美女。
お姉さんポジ 存在値8,100。
光の神アルテミリス
【真実と虚実】の権能をもつ。
輝く白銀の髪の無表情な美女。
存在値10,000。
闇の神ダラスリニア
【動と静】の権能をもつ。
紫色の髪のはかないお嬢様。美少女。
ぬいぐるみっ娘 存在値12,000。
――俺の大切な世界を共に守る頼もしい部下たち。
いや。
仲間で…家族だ。
※※※※※
皆一様に俺に視線を向けて、話を促すようにエリスラーナが口を開いた。
「ん、ひずみ。でもノアーナ様が閉じた」
「あー、おいらも感じたよー…あれ?!っノアーナ様?」
アグアニードが目を見開く。
「なんか、力増してない?…えっ?…なんでー?また差が開いたー」
※※※※※
茜ちゃんに。
――彼女の中にあった“二つ”の色。
一つは『琥珀色に緑が混じる』色。
そして俺と同じ『白銀をまとう漆黒』の色。
そして。
彼女が持っていた、その俺の色をまとう魔法石。
彼女が俺の目の前に現れたあの時――
魔法石が共鳴。
俺の中の抑えていた『くすぶる想い』から、莫大な魔力を引きだした。
一緒に『想いの欠片』
――つまり俺の魔力の根源。
俺の作ったこの世界、ファルスーノルンに漏れ出していった。
とっさに封印した。
しかし。
恐らく“3割”くらいは持っていかれた。
(ふう。――改めてやばいな…この星自体――かつてない危機だぞ?)
非常に危険な魔法石。
そして。
恐らく俺を狙い撃ちにした。
当然だが今は茜ちゃんの許可をもらい、違う概念に改変してある。
――おそらく今回の切り札になる。
※※※※※
「アート、ビーカーを出してくれるか?少し大きめのやつだ…イメージは送った。二つ頼む」
「わかりました。お任せあれ、ですわ♡」
アースノートはグルグル伊達メガネをくいっと持ち上げると何かをつぶやき、テーブルの真ん中に500㏄くらい入りそうな、実験で使うようなビーカーが現れた。
【発明】の権能だ。
「見た方が解り易いから、な。まあ完全に一緒というわけではないが…イメージしやすいはずだ」
俺は魔力で両方のビーカーを水で満たす。
そして一つを指さし皆に語りかけた。
「この満たされているのが今の世界だ。同時に俺の存在でもある」
さらにもう一方を指さす。
「そしてもう一つが、原初より抱えていた、俺の中にくすぶり続けた『想いの欠片』だ」
感情の読めない機械的な声で、アルテミリスがつぶやく。
「…いっぱいです。もう入りません。…溢れそうです」
※※※※※
光の神アルテミリス。
背中まで届く輝く白銀の髪をさらりと煌めかせ、感情の読めない整いすぎた目には金色の瞳が輝く。
均整の取れた体躯に程よく肉付いた胸部が、純白の礼拝服を押し上げ服から覗く手足はすっとしなやかで驚くほど白い。
ミステリアスな雰囲気を醸し出す絶世の美女だ。
※※※※※
俺は頷く。
「アルテの言うとおりだ。俺はこれを皆の権能で調整していた」
「隙間を作らなかったのは余計な概念を入れさせないためだ。だから俺が認識している以上、この世界は揺らがない」
皆神妙な面持ちで見守っている。
俺は小さな礫を魔法で顕現させると、おもむろに片方のビーカーに投げ入れた。
ビーカーから水が零れ落ちる。
「そこに認識外の闖入者が突然俺の世界に飛び込んだ」
ビーカーの中で礫がひときわ目立つ。
水泡が静かに消えていく。
そしてもう一方のビーカーを持ち上げ、中の水を注ぎこむ。
やや乱暴に。
「俺の中にあるくすぶる『想いの欠片』――詳しくは省くがまあ『俺の魔力』とほぼ同一の存在だ。それが補うように減った世界へ流れ込んできた」
「加減を知らずにな」
ごくりと、誰かがつばを飲み込む音が聞こえた。
「とっさに複合聖魔紋で封印したがな――でも3割くらいはどこかへ行った」
会議室の空気が変わる。
俺の言っている事、その危機を皆が認識し始める。
「俺の感知範囲はいわばこのビーカーの中だ。…出たものの行き先は、俺は感知できない」
「っっ!?」
悲鳴に近い声。
誰とも取れず漏れてしまう。
「俺の能力に近い『力の基』のような物『想いの欠片』が俺たちの世界にばらまかれた――そして厄介なことに俺の力に共鳴する」
「俺の創造したもの。つまりは漆黒を含む白銀の力――ばら撒かれた欠片はそれを取り込む。だからレアナに抑えてもらっているが」
俺は少しだけ、纏わる魔力を揺蕩らせた。
「まあ抑えていてこれだ。どうやら抱え込んでいた『想いの欠片』は勤勉らしい」
「そして、いや確実に『性悪』だ」
俺の作った星ファルスーノルン。
どうやらかつてない危機、始まりを告げていた。
6柱の神たちは、その背筋に嫌なものを感じていたんだ。




