第33話 転生者茜の大冒険2
【ファルスーノルン過去:新星歴4814年4月25日】
もう会えない大好きなパパへの想い。
何もできずに死んでしまった悲しみ。
ひとしきり泣き続けていた茜は、涙をぬぐい赤くはらした瞳を天へと向けた。
(…泣いてばかりじゃダメだよね…うん…)
多分私は転生したんだ。
何よりも誰もいない草原、このままと言う訳にもいかない。
茜はひとり、大きく頷き。
いつか読んだ『異世界転生ものの小説』を思い出しながら行動を開始した。
「うん、せっかく元気な体になったんだから、クヨクヨしてもしょうがないよね?」
自分に言い聞かせるように声をあげる。
「…パパに会えないのは悲しいけれど、頑張らなくちゃ。よし、もう一度カバンを調べよう!」
一緒にあったカバン。
きっと何かしらのヒントがあるのだろう。
あらためてカバンの中。をのぞき込んだ。
そこで異変に気付く。
「あれ?さっき食べたのに…3個ある?…えっ!?……ん?石が光ってる!?」
光っている『漆黒の石』
なぜか既視感のあるそれを――触れた。
刹那
浮遊感、切り替わる視界――
目の前には全身から膨大な『白銀をまとう漆黒の魔力』に包まれた、
転生前何度も見た、
極帝の魔王ノアーナ、いや。
『光喜お兄ちゃん』がいた。
※※※※※
「……誰だ?」
「うあ!?…えっと…」
漆黒の髪の毛が、魔力をまとって煌いて。
意志の強そうな眉毛はかっこいい形。
銀色の瞳は全部見られちゃいそう。
(…高い鼻だなあ…背高いなあ…)
夢で見たより、ずっとずっとかっこいい!!
茜は見とれてしまった。
「…見ない顔だ…?!くっ、この感覚!?…闖入者!?…まさか?!」
なぜか慌てたように、光喜お兄ちゃんは突然ぶつぶつ言いだした。
膨大な何かが吹き上がる。
――『理を築く那由他・あまねく聖雷・ガルニリアルより高き霊泉・いと久遠の気高き仙導師・従属せし涅槃………『複合聖魔紋!』』――
茜とノアーナを包むように、キラキラ輝く優しい色の『見ようとすると見えなくなる』光の幕が構築され、すっぽりと覆ってきた。
(っ!?…こころがぽかぽかする…なんか気持ちいい…)
圧を纏う光喜お兄ちゃんが構築したナニカ。
でもそれは一瞬の静寂の後、何もなかったかのように――
…そして消えていった。
「ん??????」
理解が出来ない茜。
少し垂れ気味のガーネットのような瞳をパチパチと瞬かせ、立ち尽くしてしまう。
「…おまえは誰だ?どこから来た?…なぜ俺と同じ色を持っている?」
真剣な瞳。
問いかけられる言葉。
――意味わからず思考回路ストップ。
「……おい…」
そんな私の様子に光喜お兄ちゃん『はあっ』と大きなため息をつく。
そして今度は優しく問いかけてくれる。
「あーお嬢さん?名前、言えるかな?…俺は『ノアーナ』という」
「はっ!?…ご、ごめんなさい。私は茜…光喜お兄ちゃんがかっこよくて、見とれてました!」
※※※※※
ノアーナは固まってしまう――
ありえない。
(…光喜だと?――馬鹿なっ!?)
「っ!?いま、なんて言った!!?」
かつてない動揺。
反射的に爆発的な魔力が迸る。
「っ!!き、!きゃああああああああ!!!!」
ありえない魔力の圧。
茜は吹き飛ばされ、ごろごろと転がってしりもちをついてしまった。
(…痛ったーい)
あっちこっちすりむいたようで、じんじんと痛みが走る。
薄っすら肘から血がにじむ。
「!?っ、すまない…」
茜の横に突然現れるノアーナは、優しく茜を抱き起した。
優しい手から、温かいものが茜の中に流れてくる。
(…??あれ?…痛くない???…はうっ♡)
一瞬浮き上がる感覚。
気付けば優しいまなざしが、私を見つめていた。
ノアーナはそのままお姫様抱っこをするように茜を抱き上げ、魔力を揺蕩らせた。
「『同時転移を申請…許可』……飛ぶぞ。目を瞑っていろ」
※※※※※
そして。
「??????!!」
瞬く間に、奇麗な部屋の中に立っていた。
茜、再度フリーズ。
※※※※※
ギルガンギルの塔地上1,000メートル。
そこはノアーナの隠れ家。
広くゆったりとしたスペースに、センス良く家具が配置されていた。
大きな窓の外には白く雪化粧した美しい山々や緑の森が広がり、大きな生物が優雅に飛んでいるさまが見える。
窓際には応接コーナー。
高級そうな大きなソファーが、黒光りする高そうなローテーブルを囲むように配置されている。
薄型の大きなモニター。
多くの蔵書が納められたアンティーク調の本棚。
ノアーナが再現した、日本の金持ちのイメージで作成した部屋だ。
ギルガンギルの塔は創造した6柱の神々がたむろする場所でもあるが、この部屋にはノアーナの許可がなければ入れない。
まさに隠れ家だ。
※※※※※
驚きで固まっている彼女。
俺は苦笑いを浮かべつつ、どうにかソファーへと誘導したところだ。
(まずは…落ち着いてもらわねばな)
指を二度三度動かした。
※※※※※
突然出現する、嗅いだこともないようなスッゴク良い匂いのする紅茶。
そして本でしか見たことがない『イチゴのショートケーキ』
「取り敢えずそれでも食べてくれ。さっきからお腹が鳴っているぞ。食べたら話がしたい」
光喜お兄ちゃんはそういうと、こめかみに手を当ててつぶやく。
「レアナ、聞こえるか?許可するから来い。ああ隠れ家だ」
※※※※※
(…れあな?…女の人?……ううん。それよりも…おいしそう)
ケーキを前に、茜は固まってしまう。
すっごく食べたい。
お腹はペコペコだ。
でも。
食べ方が分からない。
頭の中に光喜お兄ちゃんの声が聞こえてくる。
(食べ方がわからなかったんだな。すまない。確かにこの世界にはないからな。これは…)
(知ってるよ!…でも食べたことない。頑張って食べてみる)
(…そうか…ふっ、ゆっくりお食べ)
◆◆
デッデレーデッデレーチャララララー♪
茜とショートケーキの戦いの火ぶたが切って落とされた!
手と口とほっぺたに、茜は10のダメージを受けた!
茜の攻撃!!
会心の一撃!!
シュートケーキは倒された!!
タラッタッター♪
茜は3ポイントの経験値を獲得した!!
なんてね。
「あら、まあまあまあ。…可愛らしいお客様ですわねえ。ご紹介、いただけまして?」
デッデレー♪
スッゴク優しそうな奇麗なお姉さんが現れた!
――もういいわ!
※※※※※
ケーキを食べて紅茶を飲んで。
茜はとってもご機嫌だった。
『ニコニコニコ』と、聞こえてくるようだ。
なんとも微笑ましい。
「レアナ、俺と彼女に『安定』を頼む…彼女には『低級』俺には――『特級』だ」
「っ!?…かしこまりました…はい、大丈夫ですよ」
光喜お兄ちゃんと奇麗な優しそうなお姉さんが何か話していて、そしたらなんか心が落ち着いてきた。
…なんかとってもいい気持ち。
それに光喜お兄ちゃんがさっきよりもっと優しく見えてきた??
「お嬢さん、君を調べてもいいかい?痛かったり、苦しかったりはないからね。でもイヤだなって思われると、無理やり見なくちゃいけないんだ。そんなことしたくないから『許可』してくれるかな」
光喜お兄ちゃんは、スッゴク優しい顔と声で、私に聞いてきた。
「うん。いいよ……痛いのは怖い…」
※※※※※
ふっと笑い、そして…
ノアーナは膨大な魔力を噴き上げさせ、茜を包み込む。
優しいそれは、彼女の存在そのものを紐解いていく。
驚愕の表情を浮かべてしまう。
「茜、ちゃんか…日本人…西園寺??!!――病死??…2023年――だと?……光喜!???…俺だな…タイムパラドックス?…」
光喜お兄ちゃんはしかめっ面をして、大きなため息をついた。
(あれ?どうしよう。――何かいけないことだったのかなあ?)
※※※※※
ノアーナの様子に、モンスレアナは激しく嫌な予感がしていた。
(…ノアーナ様のこんな表情――見たことがない…ざわつく…)
なにかとてつもない。
恐ろしいこと。
先ほどのほとばしるような膨大な魔力に包まれていたノアーナの様子を思い出し、モンスレアナは身震いしてしまった。




