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第32話 暗躍するモノたち

【地球:2023年4月29日】



タワーマンションを後にした『黒ずくめの男』


昼下がりショッピングモールのフードコートで紅茶を飲みながら、何やらモノを取り出していた。


「…コク……ふん。…まずい…まるで泥水だ」


一口飲み、乱暴にテーブル紙コップを置く。

改めて手にした小さな石のようなものに視線を向けた。


(……色が……なぜだ?なぜ薄くなる?……クソッ…)


異様な雰囲気。

どう見ても普通ではない男の様子に、自然と人が避けていく。


(…やれることはやった…奴も――もう少しで目覚める……)


少し離れた席の親子は訝しげに視線を向けてくる始末だ。


「ちっ…落ち着けやしねえ」


残った紅茶を乱暴に流し込み、殺気を纏い視線を向けた親子を睨み付ける。

その様子に、親子は慌てて席を立った。


(ふん……それにしても……)


男の目的は今のところ想定通りに動いていた。

件の男は行方不明。

さらには代わりになる石もターゲットに売りつけることが出来た。


(……昨日の社長の様子――長くはもつまい)


供給源が居なくなった今、どうにか次のターゲットに石を持たせることには成功。

何よりつながるであろう社長の娘――きっと上級の力を届ける事だろう。


(……ククッ…これでいいんだろ?……愛なんて――しょせん縛り付ける呪い…)


男は大きく頷き席を立つ。

そして。

人の視線を避けるようにしながら屋上へ向かう階段の踊り場へと移動していった。


(……もうすぐだ…もうすぐ――全てを…)


男はあたりを見回し『見ようとすると見えなくなる』もやの中に消えていった。



※※※※※



【ファルスーノルン:新星歴4918年4月29日】



およそ100年前。


キャルルートルンという片田舎の村で、太古の石板が発掘された。

そこには予言めいた文言が刻まれていたという。


曰く


大いなる災い

聖なる清らかなる森の賢者

神器を持ちて祈りを捧げよ

復活せし暗黒の盟主

永遠は不変

変化は絶望なり



極帝の魔王が戒律を刻み、6柱の神々が人々を導く。

安定した世界に生きる人々のほとんどはこの石板には興味がなかった。



しかし……



※※※※※



立地が悪く、産業もほとんどない。

キャルルートルンはそんな村だった。


人口は200人程度。

どうにか栽培できる綿花からとれる綿を交易に使い、日々の生活を送っていた。


貧しい寒村。

生きるために小さな諍いは絶えない。


いつでも緊張感が漂い。

他人に心を許せず、生きるために必死で心の余裕のない村。



この地で生まれたエルフ族のエルロ・リッテルはこの村が大嫌いだった。


もっと言えば。


――この世界そのものが嫌いだった。



※※※※※



父レリニールは土の神をまつる『土神教』の熱心な信者で、この村唯一の司教だった。


教会はいつ崩れてもおかしくないほど老朽化していたが。

神を象った銅像の後ろには、あまりにも不釣り合いな『過剰に装飾の施された杖』が飾られていた。


一度父に問うたとき『あれは神器だ。この村をお守りくださる。人では触れない。神罰が下る』と。


まだ幼いエルロは、その言葉を信じていた。


しかし彼は、親として、そして夫としては非常に無能だった。


「エルロ…人は欲のある生き物。だがそれは魂を穢す。欲しがるな。与えろ。…良いな?」


事あるごとに教えられる教義は、エルロにとってまさに呪い。

余裕のない寒村、そんな態度はすぐに他人に狙われる。


村一の農家で収穫を手伝ったとき。

報酬として得た銀貨2枚と黒パン。


仕事を終えた家路の途中でエルロは暴力を受け奪われる。

泣きながら家に帰り、エルロは父親に告げた。


「…それは神の思し召しだ。…抗議?するわけないだろう。さあ、エルロも祈るのだ」


空腹に屈辱。

エルロは唇をかみしめ、眠れない夜を過ごした。


そして母親。

ローラリア・リッテル。


彼女はエルロを居ないものとして扱う。

甘えたい幼子の時、母に縋りついたエルロ。


まるで知らないものを振り払うがごとく、母はエルロを突き飛ばし吐き捨てた。


「…何か食いもん持ってきな。じゃなきゃあんたはゴミだ」


安酒を煽り、エルロを足蹴にする。

エルロの心は日々削られていった。


敬虔で質素な父親。

怠惰で強欲な母親。


関係が壊れるのは必然だった。


「ふん。あたしは出ていくよ。こんなちんけな村…捨ててやる」


結果まだ幼いエルロは母を失う。

そして悲しい事に、エルロはこの時喜びを感じていた。


(…もう殴られない…蹴られることもない)


既にエルロの心は壊れ始めていた。



そして事件は起こる。



エルロが8歳になってすぐ。

村の他の子どもたちから酷い暴力を受けてしまう。


200人しかいない村だ。

しかも父親は唯一の司教。


困った事があると殆どの人が司教である父に助けられていた。

しかし誰もエルロに手を貸すことはなかった。


レリニールが発見した時にはエルロは瀕死の状態。

3日ほど生と死の狭間をさまよった。


(……なんで…どうして……)


朦朧とする意識の中、彼は心の底から願う。


(でもきっと…僕は……奪わなかった…与えたんだ)


額に感じる冷たいタオルの感覚。


(ああ――父さん……僕、間違って……ないよね………)



※※※※※



「エルロは信仰心が足りない。だからこんな目に合うのだ。愚かな息子だ。我が息子ながら恥ずかしい。」


回復し、目を覚ましたエルロが最初に聞いた言葉。


「……え?…」


一言も紡がれなかった、彼をいたわる言葉。


「……もう遅い……寝なさい……」


最後まで――


一度も紡がれない……彼を案ずる言葉。




彼の心は砕け散った。




エルロはそのまま教会へ行くと神器を奪い取り、村を飛び出した。



※※※※※



それから100年。


ほうぼう手を尽くし、ついに手に入った『石板の知識』

そして奪い、100年隠し持っていた『神器』

森の賢者たる純粋なエルフである自分。


さらには偶然手に入れた漆黒の魔石。




エルロは世界を壊すため、深淵にたどり着いた。


(やっと…やっと。――これで壊せる)


暗鬱な魔力をその身にまといながら。



※※※※※



二つの違う世界で育まれた悪意――

それはいつしか交わる。



極帝の魔王、ノアーナが創造した世界は。

幾つもの想い、願いを内包し。


いつか来る収束へと――走り始めていた。


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