第2話 終わりの始まり
(うぐっ?!)
肺に激しい痛みが襲う。
動けない自分に戸惑いつつも、俺は視線を動かした。
「!?体が…動かない?…なん…!?…痛っ!熱っ…ああっ?!」
崩落した天井。
ごうごうと渦巻く炎。
充満する、怖気を誘う黒煙。
先ほど買った味噌汁がレジ袋ごと燃えているのが目に入る。
「っ!?…なんでこんな、ぐうっ!?ゴホッ、息が…」
理解が追い付かない。
突き刺すような熱さに全身を襲う激痛。
何より背筋に走る悪寒
――リアルな死。
たいした人生ではなかった俺の数年――
いや。
思い返せば…
あまりにも理不尽な人生。
――走馬灯のように脳裏に浮かぶ。
※※※※※
高校の卒業式――誰とも話をせず、一人帰る帰り道。
…いじめられて友達ゼロ。
大学――再スタート!…そんな俺はカモられた。
…新歓コンパで薬を盛られ泥酔、婦女暴行の冤罪で借金地獄。
就活――完全に出遅れ、だまし討ちのような面接と即採用。
仕事――プライベートすら確保できない、異常なサビ残にパワハラ・モラハラ。
…毎月200時間?あほか!
…おかげで彼女どころか…
――経験すらねえ。
(…マジで何なんだよ?俺の人生)
脈を打つように、全身を駆け巡る経験のない熱さと突き刺すような痛み。
飛びかけた意識が、無理やり引き戻される。
「…く、くそっ…げほっ、がはっ……俺が…何を…」
脳裏に浮かぶ、ニヤつくサークル連中の顔。
捏造された婦女暴行。
『無理やり襲われたの~』
(――嘘つけっ!…誰がお前なんか…)
『…おい佐山…貴様最低だな(ニヤリ)』
(――ふ、ふざけんな!……お、俺は、そんなこと……)
『300万――それか刑務所。…選べ』
(――…馬鹿野郎…バカ……やろう…くそ……うあ、うあああ…)
混濁する意識。
俺。
頬を伝わる涙――血だ。
『…なあ、光喜――俺は信じる――お前は、やっていない』
『…光喜お兄ちゃん――大好き――』
あ……ああ………栄人…にい…ちゃ…
………あか……ね……
――もうだめだ
痛みが鈍くなっていく。
自分の呼吸がまるで…
何かの排気のように“ヒューヒュー”と脳に響く。
…………ネ……ル………
(……!?……な…んだ……『ネル』?………)
俺の意識は消えていった。
崩れ落ちる天井
――パキパキと音をたて落ちていくその音を聞きながら。
そして。
その様子を外から眺めていた男――
黒ずくめの男は静かに頷くと、その姿をいまだ暗い闇夜に溶かし。
何もなかったようにアパートは火に包まれた。
※※※※※
(…………あれ?)
まるで映画のような惨状。
目に映る景色。
それはまさに火事真っ最中。
家具は焼け焦げ、原形をとどめていない。
認識できない自分の体。
景色は見えるのに、感知できない。
(…苦しく――ない?…呼吸…してない???)
ゴトッ
ガラッ
響く、硬いものが落ちる音。
薄っすらと視界に映る黒く光る鉱石。
(っ!?…俺の腕?…なにが…)
ごうごうと燃え盛る炎。
それは激しさを増す。
(ハハッ…子供の時に見た“どんと焼き”――みたい…だな――)
どうやら臨死体験?
死の間際?
すでに痛みすら感じない俺。
(…きっと神様の――せめてもの慰め、か)
唯一楽しかった少年時代。
姉ちゃんに妹の雪乃、そして栄人兄ちゃん。
はしゃぎまわっていた情景が浮かんだ。
(……俺…最期に……笑えた――かな……――)
なぜかそんなことを思い。
――俺は完全に意識を手放した。
※※※※※
【?????】
「っ!?…ああっ、あああああっっ!!!」
「っ!?どうした?ネル団長!?」
「…見つけた…ついに!!」
迸る魔力。
残滓を残し――
彼女は転移する。
最愛の人。
かつて失った、運命。
それを迎えるために。
――取り戻すために。




