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第12話 現存する脅威

俺の感じた不安と言うか違和感。

それとは裏腹に。


和やかな雰囲気。

そして共有されていく幾つもの情報。


そんな中、紅茶のお替りを淹れつつネルが口を開く。


「本来であれば、わたくしと光喜様だけでも問題ないのですが」


ふっと小さなため息をつく。

そんな仕草もめちゃくちゃ可愛い。


「…皆あなた様をお慕いしておりますゆえ、お優しいあなた様はお傍にいることを許可されたのです。ですので、わたくしはあなた様の判断に従っているのですよ?」


先ほどの話に触発されたのか。

ネルが腕に抱き着いてきて、顔を赤らめ上目遣いで見つめてきた。


えっと。

かつての俺は所かまわずネルと『イチャイチャイチャイチャして、乳繰り合って』いたらしい。



な、なんて羨ましいっ!

…じゃなくて。


(けっ、けしからん!!)


「えっと、ネルさんや。俺はその、ノアーナではあるけれど、その、今は光喜なわけで、そのっ、えっと…」


腕に伝わる柔らかい感触。

俺を想うネルの真直ぐな想い――


だんだんと顔に熱が集まってくる。


ネルはふっと小さくため息をつくと、名残り惜しそうに俺を見つめる。


「承知しております。でもわたくしは、いつでも、どんなときでも。…あなた様の寵愛を受ける準備はできております。それをお忘れなきよう、お願いいたしますね。」



理性を殺すほどの『愛らしく蠱惑的な微笑み』


(…ああ)


一緒の時間が経過するたびに。

俺の想い、それは加速度的に増していったんだ。




※※※※※



ミナトを筆頭に、準備が進む歓迎の宴。


そんな中談笑しているとナハムザートが俺をじっと見つめ、うなずくしぐさをしてネルに話しかけた。


一瞬の脳への負荷。

(…ん?……スキル、か?)


「そうだ団長。今の大将はどんな感じなんだ?――すでに俺よりは強そうだが?」


その問いかけに、ネルはすまし顔で答える。


「1割程度、いえ。…少しずつ魔素が馴染んできていますので、戦闘面では2割程度、というところでしょうか?単純戦闘ではすでに敵はいないかと」


ネルはすっと眼を見開き俺の顔を確認する。


(っ!?また……これ、鑑定なのか?)


「しかし…特殊スキルはほぼ戻られていないようですので。総合的には全盛期の数パーセント、といったところでしょう」


えっ?

俺、そんなに強いのか?


今まで聞いていた話。

ある程度のこの世界の力バランスは理解していた。


それなのにネルのこの言い方…


何より俺は生まれてこの方喧嘩なんてしたことがない。

この姿になったのは昨日で、もちろん戦闘の経験なんてない。



ナハムザートは深いため息をつく。



「…あいつら、気付いているんだよな」

「…ええ」


(あいつら、うん光の一味だな…)


面倒なので『一味』とひとくくりにしてやった。

最初に接触してきたのは、光の眷属第3席の『ルリースフェルト』


天使族の突然変異。

そして光神ルースミールのお気に入り。


「団長、どうするんだ?奴の権能の回復度合いはまだ3割程度だけど、怪しいんじゃないか?」


(…奴?)


何だ?

3割?


――話が見えない。


俺が疑問を感じていると、そっとネル俺に視線を向ける。


「先刻お話しさせていただいた光神ルースミールの権能のことでございます。あ奴は200年前、その権能を卑怯にもだまし討ちの形で――あなた様に向け……」


奇麗な瞳。

それが色を無くしていく。


「…増幅させていたそれは――概念を覆し、あなた様をっっ!!」


凄まじい殺気。

迸り膨れ上がるそれは、執務室を揺らす。


慌てて対抗するように魔力を練り、ネルにぶつけるナハムザート。

刹那茫然とし、急速にネルの瞳が色を取り戻す。


「っ!失礼いたしました」

「団長…」


「す、すみません。取り乱しました。もう大丈夫です」


彼女の怒り。

それは200年前。


だけど。


まったく色褪せず――その濃度は増していた。


ネルはかぶりを振り、大きく息を吐き口を開く。


「…現在、わたくしの聖言で数十層にわたり結界を構築しています。とりあえず直接の対峙でなければ問題はないでしょう」


落ち着きを取り戻したネルは、慈愛の表情で俺を見る。


「今度こそ、光喜様の悲願のため、一刻も早くお力の復元を進めたいところではありますが。――光喜様に負担を強いるわけにはまいりません」


…俺の悲願????

――ズキリ


(くうっ!?…光神の話題…どうしてこうも…)


俺は平然を装う。

感情的なネルに、これ以上負荷をかけてはだめだ。


そんなタイミングでナハムザートが小声で零す。


「…でも、よ」


ナハムザートは俺と再会できて泣いたほどだ。

本当に心配してくれているのだろう。


取れる対策があればとりたい。

そんな思いがあふれ出す。


何しろ最初に干渉してきたのは元凶である光の一味だ。



「…200年、ですよ」

「っ!?」


膨大な殺気とともに、ネルが底冷えするような、絞り出すような声を上げた。


ナハムザートの全身のうろこが逆立つ。


「どれだけ――どれほどにこの日を待ったことかっ!!…ノアーナ様を感じられない世界などっ!!」


ネルは涙を浮かべ、血が出るほど強く唇を噛みしめていた。


「万が一にも、ノアーナ…光喜様を失うわけにはいかないのです!」



ああ。

なんか察してしまった。


ネルは心の底から『ノアーナ』を愛している。

『光喜』ではない本当の俺を。



※※※※※



執務室には何とも言えない空気が漂う。

皆口を紡ぐ。


静かに鳴り響く、秒を刻む魔刻計の音。


そんな時。

タイミングよくミナトが顔を出し、昼食ができたと皆を呼びに来た。


普段は念話での伝達らしいのだが。


――どうやら気が利くタイプらしい。




ネルは慌てた表情で、何度も俺に謝ってきた。


「大丈夫だよ。ノアーナが羨ましいよ。でもいつかは、ね。」


そういうとネルは申し訳なさそうにうつむく。



でも、俺は聞こえたよ。


(光喜様のこと、心よりお慕いしております…)ってね。


念話だけどな。




いつになるかわからないけど。

絶対に胸を張って言わせてやりたいよね!


俺だって、男だから!



冷めた紅茶の香り――

それは静かに揺蕩っていた。


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