第102話 孤高のドッペルゲンガー
私はムク・ラサッタ。
孤高のドッペルゲンガーだ。
見上げる空はどこまでも広い。
私には天より高い理想がある。
(最高の執事になる――いや、なってみせる!)
吹き抜ける風が私の決意を祝福しているようだ。
体を鍛え、行きついたのはモンク。
己を鍛え上げ身一つで悪を打ち倒す。
そして至高のお方に仕えつつ、ともに悪を滅ぼす。
(…最高だ、最高過ぎる!)
よし会いに行こう。
極帝の魔王ノアーナ・イル・グランギアドール様に。
※※※※※
【ファルスーノルン過去:新星歴4817年11月17日】
茜たちの活躍で『スライム事件』は解決した。
だがいつ同じようなことが起こるかわからないので、俺たちはデータ収集と準備に万全を尽くしていた。
もし茜がいなかったら。
きっと俺の作ったこの星は間違いなく滅んでいただろう。
だが皮肉なことに、原因も茜だった。
正確には、茜の持っていた魔石だった。
アースノートが俺に相談したんだ。
『ノアーナ様、誰かが糸を引いています』ってな。
最近は眷族をはじめ神々の活躍で、世界はだいぶ落ち着いた。
俺も役に立てるよう、アースノートにいろいろ頼んでいるところだ。
今回はたまたまセリレやラスタルム、ギルアデスが協力してくれたが…
毎回というわけにもいかないだろう。
神以外の戦力も考えた方が良いかもしれない。
※※※※※
「はあああ――――」
思わず出てしまうため息に、自分で苦笑いをしてしまう。
空間が軋む。
魔力が溢れ、ダラスリニアが。可愛い姿で俺の目の前に現れた。
髪をアップにして可愛いリボンで止めている。
ちらりと見える白いうなじが美しい。
薄い黄色のワンピースの下からフリルのついたレースが見える。
可愛い彼女によく似合っている。
「珍しいなダニー。今日もかわいいな。おいで」
「……うん………ノアーナ様」
ダラスリニアが俺の腕の中に飛び込んできた。
柔らかくいい匂いの彼女の体は、悩んでいた俺にとって最高の癒しだ。
思わず抱きしめ柔らかさを満喫する。
魂をくすぐるような優しい香りに包まれた。
「ん♡……あん♡…………すき♡」
俺の腕の中でもじもじしながら顔を赤らめるダラスリニア。
「はあ、ダニーはめちゃくちゃ可愛いな」
可愛らしい小さな唇にキスを落とす。
ダラスリニアは目を見開き、そして愛欲をにじませた表情を俺に向けた。
俺はわざととぼけて、わからないふりをする。
「ダニー、俺に相談か?」
頬を膨らます彼女。
「……いじわる………わかってるくせに」
俺はダラスリニアをソファーに座らせ、華奢な柔らかい膝を枕にして寝ころんだ。
「ひゃう!………むう………もう♡……」
可愛らしい声を上げ、少しむくれながらも俺の髪の毛を優しく撫でてくれる。
彼女の太ももの柔らかさと温かさ、甘い香りが俺の心を癒してくれる。
「ああ、俺の可愛いダニー。最高だな………」
「………うん♡………ノアーナ様?……疲れてる?」
心配そうな表情を浮かべ俺をのぞきこむ。
ダラスリニアの美しいダークブラウンの瞳が慈愛の色に染まる。
俺はダラスリニアの腰を優しく抱きしめた。
甘えるように。
愛する可愛い俺の大切なダラスリニアの体温を感じながら。
「ノアーナ様………大好き♡………」
そう言って俺を撫でてくれるダラスリニアは、聖母のようだった。
※※※※※
「ふうー、こんなところですね」
ネルは一人グースワースで執務室の模様替えを行っていた。
黒を基調とした、体のラインがこれでもかと強調されたメイド服に身を包んだネル。
額に浮かんだ汗をぬぐって呟く。
愛するノアーナとの距離も、以前よりは大分『いわゆる普通』になっていた。
離れている時間も増えてきた。
当然『飽きた』とかではなく落ち着いた感じだ。
愛しい気持ちはますます募るばかり。
会ったばかりのころは。
さすがに盛り過ぎていたと冷静に思えるようにはなって…
たまに思い出し一人で悶絶することの多いネルだった。
※※※※※
「っ!?魔力反応?………知らない魔力ですね………珍しい」
ほとんど人が訪れないグースワース。
何より周囲には高レベルの魔物が跋扈する魔境だ。
神以外の来訪者。
魔力を感じたネルは、確認も兼ね拠点の入口へと飛んだ。
「たのもう」
――変な男がいた。
「おおう、なんとも麗しい。さすがノアーナ様。メイド殿も至高だ」
ノアーナの趣味で、かなりいやらしいメイド服に身を包んでいるネルは思わず胸を隠すように体を抱きしめる。
当然だがジト目はデフォだ。
「おっと失礼。私はムク・ラサッタと申します。極帝の魔王ノアーナ・イル・グランギアドール様にお目通り願いたい」
黒っぽい執事服のようなものに包まれた、鍛えた様がうかがえる男は美しいお辞儀をする。
「…ノアーナ様はおりません。――お約束はございますか?」
ネルは一応丁寧に答えた。
もし大切な客人なら、追い返すわけにもいかない。
「承知いたしました。いえ、特に約束はございません。待たせていただいても?」
「ダメです」
即答するネル。
固まるムク。
「それではごきげんよう」
そう言って扉を閉めてしっかり封印を施し、結界を発動させた。
「うおっ!?」
外で弾かれたらしい男の叫び声が聞こえたが。
ネルは無視してノアーナのところへ飛んだ。
※※※※※
ダラスリニアに膝枕をされ。
甘い言葉を吐きながら、たまにくすぐるようにワンピースの胸のあたりをつついたり。
可愛らしい柔らかい手と指を絡ませあう恋人つなぎをしたり。
滑らかな太ももをくすぐったり。
ノアーナはにやけながら楽しんでいた。
「ああ、本当に癒される。ダニーは可愛いなあ。とても柔らかい。ずっと包まれていたい」
ダラスリニアもノアーナが悪戯するたびに、可愛らしい吐息を吐き。
めちゃめちゃ物欲しそうな顔でノアーナを甘やかせていた。
「……うん♡……好きにして……良いの……すき♡…」
まさに二人はピンクの結界に包まれていた。
――まさに砂糖を吐きたくなる、そんな様相。
そこに転移してきたネル。
承知していることとはいえ――思わず額に青筋が浮かんだ。
「ノアーナ様?お楽しみ中に失礼します」
声のトーンがいつもより2オクターブほど低い。
一瞬ビクッとしたノアーナだが、だらしない顔をネルに向け言い放つ。
「お帰りネル。模様替えは終わったのか?」
この数か月で。
鋼の精神を手に入れたクズ男はさらりと言いのけた。
ダラスリニアは渡すまいと力強くノアーナを抱きしめる。
立派な彼女の胸がノアーナの頭を圧迫し、さらに顔をだらしなく緩ませる。
「はあああああああああああああああ」
ネルの特大のため息が炸裂したのだった。
※※※※※
『いたしている』時は。
何となく皆感知してしまうため遠慮はするのだが…
ただいちゃついているときは感知できないため、最近こういうことはよくあった。
まあ、ほとんどの場合はネルといちゃついているのだが。
愛するノアーナが宣言後、彼は全員に愛を振りまいている。
すがすがしいほどに屈託なく愛を捧げるさまは、一周回ってむしろ称賛に価した。
そうはいってもこれでは話もできない。
察したダラスリニアは涙目で転移していった。
※※※※※
「ふう。コホン。…ノアーナ様、グースワースに男が訪ねてまいりました。たしか『ムク・ラサッタ』とか言っていましたが。――客人でしょうか?」
正面に座っていたはずのノアーナがいつの間にか隣に座り、ネルの肩に手を回す。
おもむろにキスを落とされた。
怒りで撥ね退けたいのに――顔が上気してしまう。
「可愛いネル、報告ありがとう………知らないなそんな奴……ネル!?」
急に強めの呼びかけに、思わず背筋が伸びるネル。
恐る恐るノアーナを見た。
「もしかしてその格好で男と会ったのか?」
意味不明の事を言われ、キョトンとしてしまうネル。
そして強く抱きしめられる。
「えっ!?…あの…ノアーナ様?」
「………許さない」
「っ!?」
「俺のネルの最高に可愛い格好を、俺以外の男に見られるなんて!」
どうやらノアーナは。
見たこともない男に激しい嫉妬を抱いたようだ。
思わず怒ったことが馬鹿らしくなるネルだった。
結局他の皆に『感知されるようなこと』を。
着衣のままたっぷり楽しんだ後に、報告は完了したのだった。
※※※※※
一方結界で弾かれたムク。
このようなことで諦める彼ではなかった。
「作戦が必要ですな。ふむ。とりあえずは隣のミユルの町で滞在するとしましょう」
そう言ってゆっくりと背筋を伸ばし胸を張り。
堂々とした姿で、歩き始めた。
「最高の執事はいついかような時でも、美しい格好を保持できなければ、至高の御方であらせられるノアーナ様にはふさわしくない」
確かにノアーナはこの星の住民からあがめられるほどの魔王。
だが今のノアーナは。
手癖の悪いクズなのだが…
それをムクが知る由はなかったのである。
そして将来。
ノアーナを共に主人として支える戦友と呼べるもう一人の男と出会う。
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