第101話 アースノートの気づき
【ファルスーノルン過去:新星歴4817年11月5日】
茜消失事件では全く活躍できなかったアースノート。
しかし彼女の作戦で、最大の敵であろう複合型、所謂『スライム事件』は解決を見た。
ただアースノートには懸念があった。
あの後徹底的にモレイスト地下大宮殿は調査した。
儀式の間に、鉱石の状態の漆黒がまだ残っていたのだ。
相当深くまで食い込んでおり、可能な限り採取したが…
おそらく100%は無理だろう。
監視型の魔道具と常に琥珀を発する魔道具をセットしたため、万が一目覚めてもその瞬間に回収可能にはしておいた。
大宮殿自体を破壊或いは権能で消去したかったが。
対象がノアーナ様の力で創造したものだ。
破壊時にばらまかれても厄介だし、権能は弾かれる恐れがある。
後の懸念。
おそらく裏で暗躍しているものが居るはずだということだ。
茜の転生にはいくつも不自然な点がある。
まずあまりにも指向性に特化した、送られてきた魔石。
あれは完全にノアーナを狙い撃ちに術式が組んであった。
そもそもこの星では本来ノアーナ様しか持ちえない色だ。
星にあふれる力は同じだとしても、技術的に結晶化は不可能だ。
(――タイムパラドックス?)
第一に考えられるのはそれだ。
ノアーナ様と茜の関係は、とてもおかしい。
アースノートは時系列をあらためて頭に思い浮かべる。
※※※※※
ノアーナ様が地球にいるころには、茜は生まれていない。
おそらくこの宇宙では同時に同じ魂は重複できない。
創造したノアーナに聞いている。
間違いないはずだ。
可能性は“分離”だけ。
その理屈が正しければ、出会うことはない。
なにより、接点がない。
欠片事件が起きて次元を超えたとして。
その時茜はすでにファルスーノルン星に転生した後だ。
そして茜が会っていた光喜様。
それは――
(…今のノアーナ様ではない)
アースノートの背に、いやな汗が流れ落ちた。
※※※※※
頭の良いアースノートは。
すでに二つ目の仮説にたどり着いていた。
だがそれは認められるはずもないものだった。
『ノアーナ様がどこかのタイミングで地球へ戻る可能性』
或いは
『存在を分離して地球に送る可能性』
そして、それはおそらく――正解だろう。
茜の記憶にあった冴えない佐山光喜は、おそらく悪意にまみれた漆黒を持っていた。
儀式はおそらく行われない。
茜は病弱だったと聞いている。
理由は分からないが、未来のノアーナ様からもらっていれば………
つじつまが合ってしまう。
そして三つ目。
第3者の可能性。
これが一番怖い。
――都合よく『力』と『意思』と『思考』が分かれていたとすれば。
力を持たずに、『思考』だけの存在がいれば。
そして――
(次元を渡れる力に…目覚めていたとすれば)
アースノートは天井を仰いだ。
「もし敵がノアーナ様と同等で、悪い方向で努力を続けていたとしたら…おそらくたどり着く」
ぐるぐる眼鏡をはずし、天を睨み付ける。
「………」
「ならば、あ―しが絶対再現してやる」
アースノートは物凄い勢いで自らの頭脳を働かせ始める。
「あーしが、ノアーナ様を守る」
胸に決意を抱いて。
※※※※※
アースノートはデータや検証の書類の山に囲まれていた。
どんなに試算しても、先が全く見えない研究課題にアースノートは没入していた。
集中力が高まり過ぎて、いつの間にかノアーナが来ていることに全く気が付かないほどに。
突然愛しい人に抱きしめられ、魂が抜けるのではないかというくらいに驚いた。
「アート、無理するなといったはずだぞ?」
驚きすぎて感情やら擬態やら全く意識を割けなくて――
思わず涙が出てきて止まらなくなってしまった。
目の前の愛おしい人がいなくなる可能性に気が付いてしまったからだ。
「おい!?大丈夫か?アート」
「ノアーナ様、大好きです。ヒック…居なく…ぐすっ…ならないでください。うあああああ」
なりふり構わず抱き着いた。
ノアーナ様は優しく抱きしめてくれた。
――愛おしさが爆発する。
「んんん♡…んう……んあ♡……んん……」
アースノートからの激しいキスを、ノアーナは受け止めてくれた。
「私怖いです。お願い、安心させてください……お願いです」
素の可愛いアースノートはノアーナの心を直撃した。
二人は止まらずそのまま………
お互いを思いやりながら、深い愛情をはぐくんだ。
※※※※※
俺の横で可愛い寝顔を見せてくれているアースノートは何かをつかんだようだ。
だが今はまだ検証中ということで俺には明かさなかった。
あんなに感情を表に出すアースノートを見たことがなかった。
俺はアースノートの美しい髪を撫でてやる。
「…お前は大事な俺の女だ。頼りないが相談には乗らせてくれ」
「ゆっくりお休み」
俺はキスを落とし、転移した。
実は起きていたアースノート。
その言葉を胸に、絶対に守ると決意を新たにした。
(絶対に――失わせない!)




