第10話 待ってくれていた仲間たちと芽生える違和感
鼻からの出血とともに気を失った俺。
ネルに介抱されながら何とか湯あみを済ませ、昨晩はそのまま休むことにした。
現実世界での死。
転生と情報開示。
(…そりゃあ、疲れよな。うん)
疲れもあり深く眠れた俺はベッドでまどろむ。
カーテン越しに差し込む光。
既に早朝と言うよりは午前中なのだろう。
魔刻計には『9時47分』が表示されていた。
コンコン――カチャリ。
俺の自室は、いい香りに包まれる。
ネルだ。
「おはようございます。光喜様。よくお休みになられましたか?」
「おはようネル。うん、とてもよく眠れたよ」
ベッドから起き上がりネルを見る。
(今日はリボンで縛り後ろに纏めてるんだ…可愛い)
ちらりと覗く白いうなじ。
あまりの美しさに俺は息をのんでしまう。
カーテンを開け俺がいるベッドに腰かける彼女。
たおやかな手で俺の頭をやさしくなで始めた。
「……寝癖が」
(っ!?近い、近い、近いい!!?)
「あっ、ああ、ありがとう」
きっと俺は今、顔が真っ赤だ。
誤魔化そうと横を向こうとするが。
ネルの美しい手がそれを許さない。
頬にやさしく触れられ、至近距離で見つめあう。
「動かないでくださいませ。寝癖が直せませんから」
俺は何も言えず、されるがまま。
そしてネルの美しい顔をまじまじと見つめた。
ささやくたびにネルの可愛らしい魅力的な唇が動く。
(小さい顔だ…なんて美しいんだ……)
ふと目が合う。
そして。
自然に、まるで子供にするように。
俺達は優しいキスを交わしたんだ。
※※※※※
今日はグースワースの皆を紹介されることになった。
ネルに促され、俺は今2階の南側に位置する執務室で椅子に座っているところだ。
コンコン。
ノックの音とともに40代くらいの紳士が部屋に入り、親愛のまなざしを向ける。
僅かに震える体。
潤む瞳。
執事長を務めるムクだ。
灰色の髪の毛はきっちり整え、堀の深い顔立ちに目立つ青色がかった瞳。
鍛え抜かれたであろう体躯は、黒を基調とした執事服の上からでも日々の訓練をこなしている様がうかがえる。
「…光喜様。――おかえりなさいませ」
一言一句。
噛みしめムクは俺の瞳を見つめる。
「…しばらくは混乱も御有りと存じますが、わたくし共が全力でお力添えさせて頂きますゆえ、何かございましたら、お気軽にお申し付けくださいませ」
そして。
素敵な笑顔を浮かべる。
(はあ…メチャクチャイケオジだな…うん)
軽く談笑をする俺とムク。
心が満たされていく。
そんな執務室に、遠くから足音が近づいてくる。
2メートルは超える巨漢が、陽気な笑顔でやってきた。
そして俺の顔を見るなり跪き、号泣。
「えっ!?」
「ぐおおおおおおーん。ノアーナ様…いや、光喜様ああああああ」
山のような、見た目爬虫類に見える彼。
近衛騎士団団長代理、双剣のナハムザート・レイオン。
「ぐっ、ヒグウ…お、おまぢしておりましたああ、ぐすっ」
大きな体が感動に打ち震える。
俺を想う気持ち――それが伝わる。
ああ、なんか。
すごく歓迎されていることが伝わってきたよ。
いいね。
こういうのも。
(…ちょっと照れくさいけど、な)
しばしの号泣の後。
落ち着いた彼はバツの悪そうな顔をしながら頬をポリポリ掻いた。
今度は俺の瞳を見つめ、しっかり挨拶をする。
「すいやせん。お恥ずかしいところを。…俺は近衛騎士団、団長代理のナハムザート・レイオンです。まあ見た目通りいかつい姿ですが…今後ともお見知りおきを」
握手を交わしながら彼を正面から見る。
奇麗な赤みがかったオレンジ色の瞳、体を覆う鱗。
装飾の施された軽鎧に包まれ、がっしりとした人間のような姿。
「こちらこそよろしく。ナハムザートはドラゴンの血を引いているのかな?…なんか格好いいね。強そうだ」
「ナハムザートは、ドラゴニュートという種族になります。わたくしが不在の折には彼が光喜様の直営に付きます。それなりの実力者です。ご安心ください」
ネルの言葉。
彼は照れくさそうにそっぽを向く。
とても気が合いそうだ。
「お、遅くなってしまい、すみません!」
そんな中。
ふわりと優しい香りが執務室を包む。
優しい雰囲気の奇麗な金髪のお姉さんが飛び込んできた。
「ふふっ。ミナト、大丈夫ですよ」
「うあ、ネル様…すう、はあ…コホン。光喜さま…グスッ…やっと…」
煌めく金髪を後ろでひとまとめにし、涼しげな水色のシュシュが目を引く。
たれ目がちな大きな目に、エメラルドグリーンの瞳に涙が浮かぶ。
ゆったりとした着こなしの彼女。
可愛らしい。
「す、すみません。取り乱して……お、おかえりなさいませ。私はコック長を仰せつかっている、ミナト・イズミです。う、腕によりをかけて、おいしい料理作りますので、ぜひご期待ください」
「うん、よろしくね。昨日の料理もとてもおいしかったよ!」
「はうっ♡…よ、喜んでもらえて…幸せです」
うん。
なんか。
この子目がハートなんだけれど?
何気にネルがジト目だし?
コホン。
※※※※※
何か突然跪かれ。
号泣され。
顔を赤らめられ(笑)
ネルを含めグースワースの皆は。
俺がいなくなる前、およそ200年前からの部下らしい…
えっとどういう事なのでしょう?
皆さん、長生き過ぎませんかね!?
総勢は12名。
ほかの皆は、職務中とのこと。
昼食時に紹介されることになった。
何でも俺のために歓迎の宴を開催してくるのだそうだ。
心が弾む。
マジで感動してしまう。
(…でも…なんだ…)
裏腹に膨れ上がっていく不安。
きっと皆に会えば――何かが分かる。
俺はそんな気持ちで、愛おしい皆を見つめていたんだ。
※※※※※
グースワース執務室。
俺は今ネルとムク、そしてナハムザートとともにこの世界の現状を説明してもらっていた。
「光喜さまの戒律。それがこの世界の基本でございます」
ムクが口を開く。
かつて俺が定めた戒律。
――法律みたいなものだね。
それにより、おおむね世界の皆は幸せに暮らせていたらしい。
(良かった。…俺が居なくても世界はちゃんと動いていたんだな。…少しほっとした)
様々な種族が暮らしている惑星ファルスーノルン。
見た目は人間のように見える種族が多いようだ。
(基本羽や尻尾などは固有スキル。魔素で再現か。合理的だね)
そして大きな問題。
俺が創造した神々のうち、一人の眷属が勝手に神を名乗り。
権能をカサにやりたい放題している事。
(…かつて俺を滅ぼした張本人、か。…違和感?)
一瞬よぎる、あどけない少女の顔――
(…気のせい?)
俺は軽く頭を振り、意識を会話に集中させた。
※※※※※
多くの事実。
詳細はともかくこんな感じだ。
他の神々は静観している事。
国が滅ぶような戦争はなかったが、それなりの衝突はあちらこちらで起こっている事。
(うん。盛りだくさんだ)
余りにも多い情報。
俺は紅茶を飲み、大きく息を吐いた。
「…いずれ光喜さまが力を取り戻した時――全てをお話いたします」
決意を込めたネルの瞳。
俺はそれに頷き、カップをソーサーに戻した。
カチャリと響く音。
何故かそれを、俺はまるで映画のワンシーンのように感じてしまっていたんだ。




