表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

樹の国の術士

掲載日:2026/01/18


 蝋の灯りが悶えるように揺れている。その微かな光で薄暗い部屋が照らされる。

 質のいい調度品が必要なだけ置かれた質素な部屋。書架に整理されて並べられた書物が主の生真面目さをうかがわせる。

 オルカ・ラウルスは茫洋と踊る火を眺めていた。微睡みと冷気による身震いに耐えるためだ。

 静寂のなか、何かが擦れ削られる音が不規則に響く。

 オルカは火から目を離し、音の発生源に目を移した。

 そこには白髪まじりの男がオルカに背を向け、ひたすらに作業に集中していた。

 乾いた空気で唇が割れ、心なしか飲み込む唾は重い。緊張しているわけではないが、気分は些か沈んでいた。

 オルカをここに立ち尽くしている理由は、眼前で木を彫るこの男だった。呼び出しておきながら、作業が終わるまで待機を命じられていた。

 手元の小さな木片を削り、滓を呼気で吹き飛ばす。そして椅子を軋ませながら背もたれに身をあずける。ようやく作業に一区切りがついたのか、道具を机に置いた。

 

 「オルカ。お前、何故呼ばれたか理解しているか?」


 閑寂な空気に沁みいるように、低い声音がゆっくりと発された。

 一瞬、オルカは自分に対する言葉だと気づけなかった。音に硬さや感情が含まれていなかったから。


「……いいえ」


 短く、乾いて貼りついた喉から絞り出す。

 昔からこの男、父であるルイン・ラウルスは、ことあるごとにオルカを部屋に呼びつけ説教を垂れてきた。洗脳に近い域でオルカの言動に口を出し、英才教育という名の作品作りに勤しむような人間だ。だからこうして対面した時、オルカはいつも身体が強張った。


「枯れ人の誅殺を拒んだそうだな。奴ら《枯れ人》は我が《樹の国》の怨敵である。心の臓を貫く以外の選択肢など存在せぬ。ましてや同情で逃がすことなど国を護る術士の所業とは思えぬ」


 父は矢継ぎ早に説教を捲し立てる間、一切オルカに視線を合わせることはなかった。厳格な背中に失望と静かな憤怒をまとい、顔を見せずとも雄弁にその感情をオルカに伝えていた。

 

「ラウルス家の名に泥を塗ってくれるな。お前の言動ひとつで私まで嘲笑の的にされるのだ。これでは代々家を守り抜いてきた先祖に顔向けもできん」


 父はいつもこうだった。家のため、国のため、伝統だから、代々そうしてきたから。彼はオルカを支配しようとしてきた。過剰な期待という名の抑圧で、息子を思うがままに成形しようとしてきた。そしてオルカもそれに必死に応えようとする子供だった。

 しかしいつからか、そんな父の在り方に違和感を抱くようになった。自分の存在が、空虚に思えてならなくなったのだ。 

 果たして自分の肉体を動かしているのは父なのか、はたまた自分なのか。

 そうなってからは自己否定の繰り返しだ。

 父と己を重ね合わせ、一致した部分を拭い去ろうと躍起になる。その過程でオルカは一種反抗的とも言える言動をしてきた。


「いいか? 枯れ人は殺せ。躊躇なく殺せ。それが民を護ることに繋がり、家格を維持することにもなるのだ。お前は私の教えたとおりにしておけばいいのだ」


 その間、オルカは一度も口を開かなかった。父からしてみれば、オルカの意思など無いに等しい。端から認識してなどいないのかもしれない。

 一通り言いたいことは言ったのか、「分かったなら出ていけ」と冷淡に告げる。再び作業にとりかかった父を見て、オルカは踵を返した。

 部屋を出て、目一杯に冷たい空気を吸い込む。虚ろな青眼で天を仰ぎ、古びた木目を何ともなしに眺める。鼻から吸った空気をゆっくりと、深く吐きだす。

 しばらくそうしていた。何も考えなかった。いや何も考えられなかった。

 ただ古臭い空気で肺を満たし、淀んだ呼気を吐きだす。それを繰り返した。


―――――――――――


 悍ましい断末魔の叫びと、生臭い血飛沫を撒き散らして化け物が頽れる。

《瘴獣》。大銀樹を中心に据えた樹の国の、絶対的な脅威だ。

 肉体を蝕み、精神を堕落させる瘴気。それを身に纏う怪物。絶えず国を襲う、厄災そのものだ。


「――ッ!」


 オルカは鋭く息を吐いた。

 筋肉、骨、皮膚、血液に巡る霊気を活発化させる。肉体に熱い水のような、曖昧だが確かな力の波動を感じ取る。それを右手に収束させた。

 そのまま霊気を術として物質に変換する。

 すると軋む音をたてて、急速に無から灰褐色の枝が生み出された。次第にそれは腕より長くなり、先端に薄く鋭利な白い葉をつけた。

 歪だが硬く手に馴染む柄に、血管のような淡い緑の葉脈を走らせた白い刀身としての葉。

 それをオルカは強く握る。

 霊気を元に樹を生みだし、操る者。それを樹の国では《術士》といった。《樹操術》という偉大なる自然をその身に宿し、具現化させる術。オルカもまたその使い手の一人だった。

 白葉の剣を流し、地面を強く踏みつけて駆けだす。


「僕が今から止めを刺す。誰か援護を!」

「俺が援護する。他は失敗した時に備えてくれ!」

「了解」


 突出するオルカに、黒い髪を逆立てた赤目の少年ジークが続く。

 残りの二人、長い髪を一つに結わえた少女ユリスと、隊長のルイグが展開しながら対象を囲んでいく。

 オルカはそれを関節視野でとらえ、未だに悶える瘴獣へと飛びかかった。

 途端、腐った水を嗅いだような臭気がオルカの鼻腔をつく。顔を顰め、呻きを漏らしながら、それでも強引に接近する。

 黒い体皮に、羽衣を纏ったような縁が青く光る襞。頭部には目鼻がなく、その代わりにぼんやりと怪しく金に輝く器官と大きな口がついている。手足のない蜥蜴に似た、奇妙で薄気味悪い形状の化け物。それが瘴獣だ。

 オルカが肉薄していることに気づいたのか、瘴獣は動きをぴたりと止め、頭部を向けてくる。すると垂れた襞の下から触手が幾筋にも枝分かれしながらオルカに向けて放たれた。

 オルカの横を通り過ぎる影。ジークが「任せろ」と小さく呟きながら、オルカの前に躍り出る。


「樹縛ッ!!」


 着地後、すぐさま地面に両手をつくと、術を展開した。

 ジークの前の土が盛り上がる。そして震動とともに無数の太い根が顔を出し、伸長しながら、これまた瘴獣と同じように枝分かれしながら触手にぶつかった。

《樹縛》と呼ばれる基礎的な術だ。しかしジークのそれは基本を越えて、上位の術に匹敵するほどの規模にまでなっていた。

 流石だ、と胸の内で賛辞を送り、オルカはジークの脇を抜けて瘴獣を攻撃圏内に捉えた。

 怯えているのか、瘴獣が頭部を仰け反らせる。逃すものかと、オルカはさらに肉体を強化するために霊気の出力を上げた。

 瞬間、身体の節々が樹が啼くように軋む。

 《樹体化》というこれまた基本的な、大木も斯くやの強靭で硬い性質をその身に宿す術である。端的に言えば、身体強化だ。

 一瞬の肉体の硬直の後、噴き出す膨大な力をそのままに、踏み込む。

 加速したオルカは刹那に頭部正面に回りこみ、不気味な金の眼窩に葉刃を薙ぐ。

 絶叫。

 青黒い飛沫と異臭が散る。


「ジィークッ!!」

「分かってる!」


 足裏に硬い感触が返ってくる。ジークが根を伸長させ、足場を作ったのだ。

 それを強く蹴って、オルカは追撃にでる。

 瘴獣の弱点は頭部や心臓部とは限らない。人の常識が当て嵌まらぬゆえに怪物たる所以なのだ。だが痛覚は存在していて、現に瘴獣は痛みにのたうっている。多量の出血により、動きに勢いがない。


「シィッッ!!」


 切っ先を突き出して、暴れまわる頭部を正確に貫く。

 刀身の半ばまで埋まった葉剣をさらに押し込み、霊気を流し込む。

 通常、生物は他者の霊気への抵抗力を有している。そのため、体内での術の展開は困難であり、またそもそもとして発動しない。

 だが個体が弱っているときに限り、干渉は可能となる。

 僅かな抵抗を、オルカは歯を食いしばって強引に振り切り術を構築していく。

 鬱憤を解放するように、腹から咆哮を吐きだし、術を発動。

 瞬間、葉刃の付け根から枝が急速に成長していく。灰褐色の枝は無慈悲に体内へ侵入し、無遠慮に肉を搔き分けていく。そして途中で分岐し、それぞれが肥大化しながら、一本一本が葉のない成木へと巨大化していく。

 悍ましい肉と鳴き声が同時に弾ける。

 外皮を突き破って出てくる分岐した枝先。付着した血肉が零れ落ち、空気と陽光を得ると成長を止めた。

 原型の留めていない瘴獣は横たわることもできず、不格好に絶命した。


「終わった……」


 膝を折り曲げ、華麗に着地したオルカは安堵の息を漏らす。

 そこに駆け寄ってくる影。


「たくっ、いつも全力でやれってんだ」


 ジークがオルカの肩を叩く。刺々しい言葉のわりには表情は晴れやかだった。


「そうよ。枯れ人にもそのくらいやりなさいよ」

「安心したよオルカ君。これなら安心して君の父君に報告ができる」

「…………」


 次いで駆け寄ってきたのはユリスと隊長のルイグだった。

 それぞれが好き勝手に声をかけてくるのを、オルカは特に反応を示さず瘴獣に視線を移す。

 術は時間を経ると解除され、霊気と化して大気へ還る。

 青黒い血だまりの池の中で、静かに眠る巨体。


 ――()()()、殺せた。


 人の形を成していない化け物なら、何の感情も起こらずに殺せることを再確認した。

 だがそれは、オルカの心中にかかった霧を晴らすには全く関係のない事実だった。寧ろ霧は濃くなり、より暗さを増した。


――――――――――


 後日、任務報告と休養のため国境部から中心に戻ったオルカ達は、次の任務が言い渡されるまで、しばらくの暇が与えられていた。

 オルカは一人、賑やかな通りを歩く。

 樹の国の街並みは自然と一体化している。そこかしこに木々が生え、また家屋に蔦や幹が絡みついている。小路は枝葉や絡みつく蔦で薄暗く、警戒の目が通らなため薄気味悪い雰囲気が漂っている。

 今オルカが立つ大通りは自然が作り出す澄んだ空気とは無縁で、焼いた肉や人の体臭が混沌となって好き勝手飛び回っている。

 目的もない逍遥。

 家に居ればまた憂鬱な気分を味わうと思い、足がひとりでに向かったのだ。

 行き交う人を尻目に、オルカは遠くの、しかし大きすぎてすぐそこに見える巨大な樹を眺める。

 国の中心で堂々と聳える大銀樹。銀の枝葉は今日も悠々と腕を広げ、我ら銀樹の民を静かに見守っている。何処に居ても目に映る偉容は、民の精神的支柱でもある。

 そんな大銀樹を見ていると、オルカは何故か心が安らいでくる気がした。

 そしてその何にも阻まれず、己を貫く様に憧憬のようなもの抱いた。

 自由で高く、何にも阻まれない崇高な存在。

 ただ立っているだけなのに、強烈な意思を感じざるを得ない。

 オルカはそれと対照的に、根を張れず、太くもなれない弱りきった男だった。

 大銀樹から逃げるように視線を切った。

 散歩しても一向に気分は晴れやしない。

 そう独り言ちた時、俄かに通りの雰囲気が緊張した。


「――何だ?」


 喧騒の中、異質な空気を感じ取る。

 周囲を見渡せば変わらぬ日常が続いており、一瞬気のせいだと断ずるが、どうにも違和感が拭えない。

 だがその直感は当たっていた。

 直後、通りの向こうで霊気の高まりを感ずる。


「樹操術!?」


 この人通りの多い場所での術の発動は尋常の事態ではない。


 ――襲撃か?


 瘴獣ではない。いきなり街中で出没することはあり得ない。何故なら樹の国には結界が張られ、瘴獣を感知すると直ぐに本部に通達されるからだ。あれ程の巨体を見逃すことなど通常考えられない。


「――なんか騒がしくねぇか?」

「――あ? あ、ほんとだ」

「――喧嘩か? にしては必死な顔で逃げてくる奴がいるが……」


 段々と悲鳴のような甲高い声がそこかしこで上がってくる。必死な形相で人の流れに逆らって駆けてくる者もちらほら。

 オルカは霊気を全身に巡らせる。石畳を砕きながら跳躍。屋根を伝い擾乱の元に急行する。

 進んだ先で眼下に倒れた幾人もの民が見えた。

 血を流し、力なく打ち捨てられていた。


「これは――ッ!?」


 悲惨。

 遺された者の慟哭と子供の悲痛な泣き声。

 倒壊した家々の瓦礫の下から、哀れな呻きが生者を呼んでいる。


「オルカ!! 何をしている、現場へ急げ!」


 突如後方からオルカへ怒声が飛んだ。ハッと振り向けば、父ルインが自身の部隊を引き連れて迫ってきていた。

 術士であれば即座に異変を感じ取るほどの霊気の高まりだったのだ。当然父も任務を下されずとも駆けつけるだろう。

 凄惨な光景に呆然としていたオルカは我に返り、足を父が消えた方に向けた。

 響く轟音。

 擦れ合う金属。

 怒号と霊気が吹き付ける。


「こ、れは……」


 数人の術士が黒い襤褸の外套を羽織った何者かと応戦していた。そこには父の姿もあった。

 数は敵方が勝り、術士は一対多の戦闘を強いられている。

 国境警備や侵略者たる瘴獣への対応で術士は常に人手不足だ。街に滞在する術士はどれくらいか。休暇中のオルカ達に、近場で異変に感づいた者をいれて十数人程度だろうか。


 ――あいつらか。


 黒い襲撃者。それは一様にある特徴を有していた。

 金の瞳。妖しく輝く月の如き眼光。

 瘴獣と酷似する不気味な瞳だった。それがそれぞれ酷薄な笑みを浮かべて、嬉々として民を殺し術士を襲う。

 《枯れ人》と呼ばれていた。

 瘴獣と同じ金の瞳に、瘴気を操る人の形をした化け物。大銀樹から見捨てられし枯れ葉。故に枯れ人だ。

 先天的に瘴気を宿すか、または罪を犯し堕落した者が瘴気に身を委ねるかして変異した元人間の怪物。

 一様に国外へ、つまり瘴獣の跋扈する外界へ逃亡し身を潜める彼らは、こうして時折国へ侵入し、銀樹の民を襲う。結界はあくまで瘴獣を感知するためのもので、枯れ人は対象外だ。


 ――クソッ、外界で大人しくしていればいいものを!


 内心で悪態をつく。

 右手に霊気を収束させ、樹刀を構築する。

 術士は基本、霊刀と呼ばれる霊気との相性がいい特殊な金属を加工して造られた刀を使う。樹操術は樹体化が主で、基本は剣術を中心に戦闘を組み立てる。その方が結局戦いやすく、また隙が無い。

 しかし危険な外界に住む枯れ人には、霊刀を造る技術どころか素材すら手に入れることが困難だった。それ故に枯れ人は樹操術に依拠して戦うことを強いられる。そこで彼らが編み出したのが、術による武装化だ。

 つまり、今オルカが展開する樹刀。これは彼らの技術だ。枯れ人が銀樹の民や瘴獣に抗するために編み出した術。それをオルカは自らのものとした。


「屋根上に一人いるぞ!!」


 術士を襲う枯れ人の集団の後方。一人の統率者らしき男がオルカを指す。

 隣に控える副官の若い男が呼応して術を展開。足元から湾曲しながら一本の木が生える。高さは男の身長より僅かに大きい。それを手に取り根元から分離させる。瞬く間に先端から捻れた蔦が張られ、右手に新たに生成した矢形の枝をつがえる。

 長弓だ。滑らかで光沢のある弓。

 樹体化により強化された身体能力を活かし、太い弓弦を引いていく。同時に鏃に向けて黒く禍々しい気が纏わりついていく。瘴気。生を反転させる負の霊気。

 オルカの双眸が青く煌めく。

 轟音とともに放たれた黒い矢を、その軌道を読み取り葉身を沿わせて流す。

 衝撃で白い外套がはためく。通り過ぎていった矢は空気を震わせながら遥かに消えていった。


「手練だな」


 オルカは思わず呟いた。

 術の展開速度、技術、緻密さ、加えて射の精度。どれをとっても樹の国の術士に匹敵する。下手すれば最上位階級の特級術士に並ぶ腕前だ。


 ――距離を置いて牽制するには相手の弓の精度が良すぎるな。

 

 一瞬の逡巡の後、オルカは踏み出した。

 先程の矢もかくやな速度で射手に急接近する。

 驚愕を浮かべて後退りしようとする射手は、しかし間に合わないと判断したのか嵩張る弓を手放す。


「――ハッ!!」


 接近したオルカは丸腰の相手へ刀を振るった。煌めく白刃が男の首を斬る――、


「ぐぅあッ!?」


 ――その寸前で、仰け反り紙一重でかわす。

 オルカは間髪入れずに返す刀で胴を薙ぐ。しかしそれも足元から生えた黒褐色の即席の盾が防ぎ、男は更に下がろうとする。


 ――樹槍。


 何もないオルカの頭上に、先端を尖らせた槍状の灰褐色の枝が具現化する。

 それを丸腰の男へ射出した。


「おゴォッ、はや、い――ッ」


 突き刺さる樹槍。勢いそのままに後方へ吹き飛ばされる男。鮮血が散り、吐血する。憎悪に歪む金の双眸は充血し、水気混じりのうめきが漏れる。


「――ッ!?」


 オルカは致命傷を与えたことを確認するや、即座に霊気を足裏から地中へと放出。向かって左、三メートル前に灰褐色の壁を展開する。幾本の幹が並立し壁と化し、統率者とオルカを阻む。

 直後、壁が重低音を響かせ振動する。樹皮が飛散し、二本が半ばから折れていた。

 オルカは壁を右回りに迂回し、倒れ伏す弓の男を通り越して統率者を青眼で捉える。

 次の攻撃に備え警戒していたオルカであるが、しかし彼はオルカに背を向け、既に逃亡を図っていた。


「逃がすか――」

「待て、オルカ!!」


 静止したのは、ルインだった。

 白髪まじりの髪に血を滴らせ、右頬、左腕、胴に切傷を負っていた。

 父もオルカと同様特級術士であるが、流石に複数の枯れ人相手では手を焼いたらしい。


「何故ですか、父上」

「奴はお前が側近を撃破したと判断するや、撤退命令を出した。現状、我々の戦力では追撃は厳しい」


 父は痛みを露とも見せずに淡々と現状を分析する。


「奴らも相当な数を減じた。これ以上民間に被害を与えるよりも逃亡を優先すると推測し、我々は他の隊員と民の救護を優先する」


 言うや否や、ルインは白い素地に青の刺繍が入った術士装を翻し、重傷の術士の治療にあたる。

 オルカもまた切り替えて、先程応戦した男へ向き直る。そこには既に事切れた男が、自らの血に身を沈めていた。

 腹を貫いていた樹槍は霊気へ還り、生々しく内部を露出させている。


 ――仕方がなかった。


 狭窄していく視界。胃液が暴れ、喉を灼く。額からいやに冷たい汗が滲み、心臓の鼓動が煩い。

 オルカは瞑目し、男の死を悼んだ。

 例え彼が多くの民を矢で射殺していたとしても、彼らが感情を持つ()であることに違いはない。

 堕落し、良心を一欠片も残していないとしても、だ。


 ――どうして君たちは人の姿をしているんだ。

 

 オルカは、銀樹の民にも、枯れ人にも、どちらにも振り切れない自分が嫌だった。

 民の側に立てば、自らを怪物と化して殺戮に手を染めることになる。そして枯れ人の側に立てば、父や友人、そして通りで走る子供達を裏切ることになる。

 オルカは平穏が好きだ。例えそれが仮初だとしても。

 何も起こらず、誰とも敵対しない、そんな平板な日常を愛していた。

 長く、深い息をはく。ゆっくりと、ゆっくりと。

 開いた眼に白い光が突き刺さる。血と悲哀が広がる現実を、白い世界が覆い隠す。

 オルカは天を仰ぐ。眩しくて何も見えない。

 光に慣れたとしても、下は見なかった。ただ暫く、水底から見上げたような青い空を眺めていた。


―――――――――――


 どれくらいそうしていただろうか。

 オルカはそれなりに階級が高いので、突っ立っていたとしても内心はどうあれ何も言われない。

 治療に奔走する術士から、チラチラと視線を感じる。

 傷を負った術士達に、オルカと深い仲の者はいない。そもそもとして、そんな人は一人しかいない。その親友も今、任務により外界にいるため、この場にはいない。

 それでも良心が咎めるので直ぐさま治療に参加したいのだが、どうにも落ち着かない。

 オルカは自分を保つのに精一杯だった。


 ――まったく……、未熟だな、僕も。


 一人で葛藤し、一人で落ち込む。

 自分が手にかけた枯れ人を、直視できない。

 だが逃避することもまた、オルカにはできなかった。

 そうしてまた考え込むオルカの青眼が、端で蠢く影を捉えた。


「誰だ!」


 密かに覗く影は、オルカの視線に気づいて路地へ消えた。

 明らかな怪しい動き。

 淀んだ思考を置き去りに、オルカは駆け出す。小路に飛び込み、枝葉の作り出す木陰を進む。随分と狭隘な道だった。時折折れた枝が服に引っかかる。

 影を追う途中、オルカの鼻腔はツンと刺すような刺激臭を嗅ぎ取った。


「瘴気……」


 瘴気にも臭いの種類がある。枯れ人、瘴獣によって全く異なる臭いや特質を持つのだ。

 となれば、今オルカの追う影は枯れ人の可能性が高い。先程の集団の一味だろうか。

 だがそれにしてはやや消極的というか、あまり敵意や攻撃性を感じられない。現に今も交戦を避け、ひたすらにオルカから遠ざかろうとしている。


 ――国生まれの枯れ人か?


 先天的に瘴気を宿して生まれてくる子供がいる。それは銀樹の民が親だとしてもだ。そういった経緯で生まれた枯れ人は、隠されて育てられるのが常だ。術士に見つかれば処刑、いや処分される。精々が牢獄に繋がれ、持ち得る情報を吐くまで拷問される宿命にある。

 オルカは下唇を噛む。今からそれをせねばならない現実に、術士としての責任に、生まれへの憎しみが際限なく湧き出てくる。

 幼少の頃より仕組まれ、刷り込まれることで、もはや逆らいようもなく身体が動いてしまう。

 オルカの肉体が軋む。大地の、自然の恩恵が宿り、強靭さでもって撓んだ大樹の如く、地面から弾け飛んだ。

 一瞬間に空中へ。そして影を越え、屋根上から顔を出す大木に右手から伸ばした蔦を巻き付け制動をかける。先回りして着地したオルカに影は動揺したのか、躓きながら止まる。


「なっ――――!?」


 僅かにずれた外套に付属した覆いから口元がのぞき、驚きに歪んでいた。

 小ぶりな唇に細い顎。よくよく観察すれば華奢な体つきが外套の上からでも見て取れる。


「女、か……?」


 疑問が口から自然に出た。

 それに対し影はスッと表情を正し、甘い掠れた声で答えた。


「だとしたら、なに?」


 掠れているのは息が上がっているからか。声音の若々しい高さに、およその年齢も推測できる。

 女は続けて口を開く。


「どうして私を追うの?」


 囁くように問いかけられたオルカは、一瞬の自失から回帰する。

 そして女の疑問を咀嚼し、真っ直ぐ隠された相手の瞳を覗く。


「それは、君が逃げたからだ」

「あんな悲惨な光景を目にして、怖くなって逃げるのはおかしいことではないと思うのだけど」

「いいや、君は明らかに見られることを警戒していた。それに随分冷静に逃げるじゃないか。追いつくのに苦労したよ」


 そうオルカが言うと女は諦めたのか沈黙した。そして頑なに臨戦態勢を崩さないオルカに、女は右掌を虚空に開く。

 術の展開準備だろうか。


「君は、枯れ人だね?」


 風が凪いだ。木々のざわめきも鳴りを潜め、小鳥すら唄うのを止めた。

 軋んだのは空気か、それとも彼女の肉体か。

 木々が慟哭するような音が小さな広間に響く。


「私は、ここで終わるわけにはいかないの」


 震える声を押し殺し、彼女は術を行使する。右手から黒褐色の枝が急速に育ち、先端から細く刀状の葉が生える。

 黒い柄に銀色の刀身。

 オルカは目を奪われた。何て美しい術なんだろう、と。


「行くわよ」


 律儀に声をかけ、女は身体を傾けた。

 オルカも同様に白葉の樹刀を生成し、彼女を上回る速度でもって踏み込んだ。


「ぐっう――ッ、早い!?」


 後手に回る彼女は霊気の出力を上げたのか、身体から青い煌めきが噴出する。

 刃が交差する。

 火花が散り、葉から鳴ったとは思えない甲高い金属音が炸裂する。

 オルカは女が引いた隙をつき、刀身を伸ばして薙いだ。


「う――ッ」


 咄嗟に刀を翳した彼女は勢いに押され転がる。

 オルカは葉刀を地面に刺すと、霊気を刀身づてに放出。

 女の周囲から根が現れ大蛇が獲物を襲うように彼女を拘束しようとする。

 体勢を立て直した女は自ら襲い来る根の一本に踏み込むと、両断。穴の空いた包囲網から転がり出ると、順次根を撃墜していく。

 オルカは槍を十数本創造した。

 矛先は全て彼女に向けられている。


「なっあ…………」


 驚愕、呆然。

 尋常でない術の構築速度。加えて剣術の合間に樹操術を組み込むセンスと応用力。

 また生成した樹槍にも粗はなく、精緻で洗練された形態は卓越した霊気操作の証だ。


「その若さで……、なんなのよ、あなた」

「特級にもなれば誰だってできるよ」


 事もなげに言うオルカの表情は、微塵も傲慢さがなかった。才気の上に積み上げた努力が、絶対の自信となってオルカを支えていた。


「本当はこんな力、使いたくなったけど――」


 俄に焼け焦げた、咳き込みそうな臭いが広間に漂う。枯れ人の女の身内から瘴気が漏れ出てくる。


「――ここで死ぬわけにはいかないから!」


 圧迫感がオルカを襲った。明らか格の上昇。正気と理性を引き換えに、肉体を強化しようとしているのだろう。

 瘴気は俗に負の霊気と呼ばれ、悲しみや怒り、絶望などの負の感情から生まれ変質した霊気のことだ。

 負に転じた霊気は、通常の霊気に比べて術への変換効率に優れている。つまり肉体強化に用いれば、使い手次第ではあるが、下級術士では手に負えない力を得ることができるのだ。

 だからこそ、それを平然と生成し使用する枯れ人は危険視される。


「じゃあ、さよなら」

 

 オルカは右手を軽く上げ、そして倒した。

 一斉に射出される樹槍。

 掠れた雄叫びが槍と刀の接触音に紛れて微かに聞こえる。

 背後に逸らされた槍は後方の建物を破壊し、外れた槍は地面を砕き土煙が舞う。

 時間にして一瞬だった。

 避ける間もなく放たれた槍に、女は葉刀で対処するしかなかった。そして、反撃は来ない。

 土煙が薄れていく。

 頭上にかかる葉の傘からこぼれる陽の光が、徐々に惨劇を明かそうとする。

 肉片か、それとも穴だらけの遺骸か。どちらにしろ生きてはいない。生けていられるはずがない。

 そのはずなのだが――、


「――なん、でよ」


 声がした。震える声だ。


「わざと、外したわね……」


 黄金の双眸が静かに閃いていた。 

 女の顔が露わになっている。

 肩にかかる黒髪はふわりと軽く、前髪は切り揃えられている。僅かにつり上がった目は気の強さを窺わせると同時に、意志の強さも感じさせる。

 慈しみの上に、無理やり厳しさを張り付けたような顔だった。


「どう、して?」


 女は息を乱しながら睨むようにオルカを見据える。

 外衣が破れ、露出した上衣に血が滲んでいる。

 オルカは目を伏せる。それは自分にも分からなかった。直前まで殺すつもりでいた。だが、術の制御が土壇場になって甘くなった。


 ――弓使いの枯れ人は殺せたじゃないか。


 眼前の女も、槍で貫いた男も同じ枯れ人だ。容姿、性別の違いはあれど、民に仇なす害虫に他ならない。しかし、しかしだ。


「僕は君を……、殺せない」


 曇りなき眼。憎悪も悲哀も、汚濁した感情の一切が感じられない。果たして我々にも同様の眼差しをする人が他にいるだろうか。いったいどうしたら、過酷な外界で育ちながらそんな真っ直ぐにいられるのだろうか。

 知りたい、と思った。


「なにを言って――」


 動揺で見開いた彼女の目が、瞬時に剣呑としたものへ切り替わる。


「――危ない!!」


 瘴気を纏い、離さずにいた樹刀をオルカに向かって投げた。

 いや、軌道からするに左肩よりやや上か。

 唐突の投擲。しかし、オルカにはその行動の意味が理解できた。

 だからこそ、困惑した。

 背後で衝突する刀と何か。甲高い音は金属か。

 小さな呻きが耳朶を打つ。

 振り向けば、ギョロリと目が飛び出た陰険な男がそこにいた。

 傍らには霊気へと還元されゆく女の樹刀が転がっている。短剣型の樹刀を二つ両手に握り、片膝をつく男はオルカではなく女の方を睨んでいる。


「き、さま……、やはり裏切ったか」

「裏切ってはいないわ。そもそも仲間ではないもの」


 それに、と続ける。


「私の前で汚らしいことはやめて」


 疲弊した身体を無理に持ち上げて、女は毅然と見返す。

 守られた。

 枯れ人に助けられた。

 確かにオルカは背後の存在に気づいていたし、躱そうと思えば躱せた。しかし彼女がオルカを助けようとした事実は変わらない。

 それはオルカの心底にある何かを激しく揺らした。


「リグ様の助けになればと思い貴様を招いたが、やはり失敗だったか」


 淡々と、だが内奥に憤激を秘めた口調で呟いた襲撃者。


 ――なるほど、奴らと目的は別か。


 オルカは妙な安堵をおぼえた。女が残忍な集団に馴染んだ狂人でないことに。


「もしそこの術士から逃れたとて、貴様には外にも内にも安住の地はないと思え」


 そう言って男は立ち上がる。

 そして黒い靄が彼を覆っていく。

 オルカは鼻を鳴らし、既視感に気づく。


「この臭い、さっきの……」


 女を追い路地に入ってすぐに嗅いだ臭い。鼻腔を刺す尿のような刺激臭が、広間に広がっていく。


 ――どうやらずっと見られていたようだ。


 瘴気の臭いだけで気配は掴めなかった。先程接近されてやっとその存在を把握できるぐらいの隠密術。

 既に気配は遠ざかり、鋭敏化した感覚でも追えない距離にいる。

 枯れ人に認知されたところで何もなりはしないが、オルカはともかく彼女はどうなることやら。


「君はいいのかい? 逃げなくて」


 一連の流れの中で、特に考えもしないで出た発言だった。

 女をそれを聞いて、戸惑いながら聞き返す。


「いいの?」


 もはや戦う気持ちは薄れていた。

 圧倒的な実力差。展開を如何様にも転がせる立場でありながら、その権利を放棄する態度に、信じられないと言わんばかりに女は瞠目する。


「何故君を逃してもいいと思ったのかは僕にも分からない。けど、そうするべきだと僕の直感が言っている」

「本当に言ってるの……?」


 オルカは妙に高揚していた。じっと金の瞳を覗いて、場違いに微笑む。

 こんな気持ちは初めてだった。

 父の意向に背く。術士の在り方に反する。

 大きな決断のはずなのに、容易に実行できてしまう自分に吃驚する。


「術士を助けようとする枯れ人がいるなんてね。それには流石に驚かされたよ」

「そっちこそ。枯れ人を逃がす術士がいる、なんて話。誰に言っても信じてもらえないわ」


 同時に噴き出す二人。この時ばかり、お互いの立場、種族は無いもののように思えた。純粋に相手の精神に、肉体の垣根を越えて直接に会話をしている気になった。

 沈黙が訪れた。

 さわりと柔らかい風が頬を撫ぜ、しばし心地よさに身を委ねる。

 胸内の蟠りが澄んだ空気で吹き飛ばされ、いつぶりかの清々しい気持ちに浸る。


「じゃあ、行くわ。いいのよね?」

「うん……、また」


 女の瞳は、黒色に変化していた。

 姿形が全く普通の人間と変わらないように見える。これでは見つけ出そうにも、一筋縄ではいかないだろう。

 もう一つの姿。生存において術士には知られてはいけない姿。

 それをオルカに見せたことに、彼女の誠意と実直さを感じ取った。


「私はティリア。忘れても構わないわ」

「僕はオルカ。なんだかまた会いそうな気がするね」


 こうして衝撃的な邂逅を終えたオルカは消えゆく小さな背を眺めつつ、これからのことに考えを巡らす。

 今回の枯れ人の襲撃は報復か、それとも目的があっての事か。

 オルカは嫌な予感を覚えた。

 日常が崩壊してく、不吉な足音を聞いた。


「頼むから大人しくしててくれよ」


 オルカは空を仰ぎ、ちょうど陽を遮った厚い雲を見上げた。


―――――――

 

 倒壊した家屋や店の復興には数か月の月日を要した。

 高まる枯れ人への憎悪に街を行き交う人の表情は一様に険しく、張り詰めた空気が漂っている。

 一部の暴走した民衆が枯れ人の捜索を自主的に行い、暴力事件を起こしていた。

 加えて人に化ける枯れ人の存在が他者への疑心暗鬼を促し、日々どこかしらで喧嘩が勃発している。仲介するのは術士の役目ではなく一般兵であるのだが、鬱陶しいぐらいに件数が多いので特級であるオルカですら出動することも多々あった。


 ――全く勘弁してほしいな。


 ただでさえ枯れ人の侵入路の捜索に忙しいのに、そんな些末なことで手を煩わせないでほしい。

 枯れ人の組織だった動きも見られるのに、これでは警戒が散漫になって彼らを助けることになりかねない。


「あ、……」

「うん? …………、なにやってるの?」


 ふと視線に気づいてオルカは足を止めた。休暇というの名の見廻りを申し付けられて、大通りを監視しているときのことだった。

 相対するは若い気の強そうな女。容姿の良さが台無しになるほど鋭い眼差しは、オルカを気まずそうに見上げている。

 右手には串を持ち、口の周りに液体が付着している。


「君、自分が危険な状態にあること、理解している?」

「当り前じゃない。だからこうして堂々と食べ歩きしているんじゃない」


 ティリアはそう宣ってみせた。

 呆れから頭を掻いたオルカは彼女を上から下へと見て、服装を確認した。


「何よ、じろじろ見ちゃって。変態な臭いがするわ」

「変態な臭いって何だよ。いや、ただ小綺麗な服装しているなぁって思って……」


 ティリアは「ああ」と頷いて、上衣の裾を伸ばして見せた。


「盗んだわけじゃないわ。内に知り合いがいてね。その人から借りているの」


 内、というのは樹の国の中、てことだろう。

 つまり彼女は元々外界にいたことになる。前回はそこまで聞けなかったのだが、今の会話で察しがついた。


 ――ということは、あの集団に属してはいなかったが内への侵入に利用した形か。


 腑に落ちたオルカは、次いで湧いた疑問が口に出るのを、はっとなって堪えた。

 が、顔に出ていたのかティリアは一つため息をつくと、「気になるなら聞けば? 別に気にしないわ」と、存外に気にした風もなく言った。


「いや、ねえ? 流石にそれは踏み込みすぎかなって思って」

「どうせ服貸してくれた人は枯れ人かどうか、てことでしょ?」

「う、うん、まあ、そうだね」


 彼女は、ふっと口角を緩めて「律儀ね」と呟いて背を向けた。そしてゆっくりと歩を進める。

 ついてこい、ということだろうか。当惑しながらオルカは足早に追いかける。遠慮がちに隣に並ぶと、ちらっと横目に窺う。


「あなたは、私を見逃した。それはありえないこと、そうね?」

「ま、まあ僕以外にそんなことする人は聞いたことないね」


 改まってそう言うティリアの声は、喧騒の中でも不思議と通る。

 

 「でしょうね。あなたは特殊よ。生き辛いでしょ?」


 どきり、と心臓が跳ねた。思ってもみなかった言葉を、思ってもみなかった人に言われてオルカの足が止まる。

 瞬きを忘れて、呆然と彼女の後姿を見る。頭が真っ白になった。


「どうした?」


 立ち止まったオルカに気づいてティリアも足を止めた。心配げに首を傾げるのを見て、オルカは我に返った。


「いや……、まさか君にそんなことを言われるなんて」

「そんなことって……。誰だってそう思うでしょ普通。あなたの頭がおかしくないのなら。……いや、でもやっぱり変人、なのかな?」

「失礼な。どう見ても真っ当だよ、僕は」


 慌てて弁明したオルカに、何が面白いのかクスクス笑うティリア。

 彼女のあどけない笑みを目撃して、オルカはまたしても心臓が止まる思いをした。

 綺麗な笑顔だった。細く弧を描いた目に、緩んだ白い頬が、刻まれた彼女の厳しい印象を拭い去る。

 黒い髪が楽し気に揺れる。

 気を取り直したティリアは、真面目くさった顔で再開した。

 

「あなただから言うわ。知っているかどうか分からないけど、国内にも枯れ人の派閥がいくつかあるの」

「それは聞いたことがある。治安の悪い外縁部はただでさえ広いからね。潜む枯れ人をまとめる統率者が複数人いても、特段おかしくはない」

「ええ。私に手を貸してくれる人も、その内の一人よ。私たちはそうやって厳しい状況を派閥や集団を形成して耐え抜いているの」


 国内に潜伏する枯れ人はオルカが想定していた以上に多いようだ。一部まとまりがあることは薄々勘づいている術士もいるだろうが、それでも確信にまで到った人はいないはずだ。それだけ枯れ人の動きは静かだった。


「だが君は外から来たのだろう?」

「生まれは内よ。幼い頃に外界へ逃げたの」

「それはどうして? 匿ってもらえばいいんじゃないか。集団で隠されちゃ僕らもそうそう見つけられない」


 オルカがそう言うと、ティリアは俯いた。

 次の言葉まで、しばらく間が空いた。


「……私の両親は、銀樹の民よ――」


 オルカは唇を噛んだ。まずいことを聞いてしまった。

 沈んだ声音に、どんな感情が含まれているのかは想像できなかった。

 ただただオルカは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「それは……、ごめん」

「あなたが謝る必要はないわ」


 ティリアは力なく首を振った。


「枯れ人の世界を知らない両親は、必死になって私と双子の弟を護ろうとしたわ。部屋の奥に私達を閉じ込めて、できるだけ誰の目にも触れないように」


 それでも、と続ける。


「限界がきた。金の瞳を隠すには感情のコントロールが必要で、だけど子供の私たちにはそれができなかった。それで、ある時近所の人に見つかった」

「通報されたか……」

「ええ、術士が飛んできたわ」


 いつの間にか人通りの少ない裏通りを進んでいた。

 職人手製の木製食器が陳列された店や、食欲を誘う香ばしい匂いが漂う。

 声を潜めてティリアは続ける。


「でもちょうどお父さんが、ある枯れ人との接触に成功していたの。それが――」


 そういって袖を振って見せる。

 その枯れ人が今の派閥の頭領なんだろう。


「だけど、間に合わなかった。顔の割れた、しかも双子の子どもを匿うには流石にリスクがあった。だから一度外界に逃がしてもらったの」

「なるほど。そして成長した今、こうして戻ってきたわけか」


 オルカには外界での生活の過酷さが分からない。任務で赴くことはあれど、食料を持参しての数日の野宿しか体験したことがない。瘴獣の脅威、悪辣な環境、想像は出来るがそれまでだ。

 だからこそ術士の警戒が厳しく、発見即討伐対象とされる国内に再び舞い戻る意味が、必要性が理解できなかった。


「理由は、聞いていいのかい?」


 これは彼女の行動の、ここにいる目的の核心をつく質問だ。だから答えたくなければそれでいいと思った。

 だがティリアは躊躇いなく首肯した。


「一つは両親の、その後が知りたかった。処刑されたのか、それとも生き延びているのか。これに関しては、正直確立の低い話ね」


 あっけからんとそう言ってのけたティリアは、肩を竦める。覚悟はしていたのだろう。だからオルカは何も言わなかった。


「そしてもう一つは――ッ!?」


 そこで言葉が途切れた。

 チリ、とうなじに走る悪寒。オルカとティリアは同時に横目で見合わせた。

 そして足を止めず、囁くような声で、


「どっちかな? 僕? それとも君?」

「私でしょうね。鳥肌が立つほど気色悪い目つきで見られている」


 背後で距離を開けてついてくる気配。数は二人。前に背後から襲撃してきた枯れ人ではないだろう。彼ほどの手練れであればこの距離で気づくことはない。


「あからさまね」

「ああ、僕が術士だって分かっていないのかな?」


 今日のオルカの装いは私服だ。休暇兼警備のため戦闘服は着ていない。霊刀も佩いていないので、傍目から見れば一般人と変わらない。

 となるとオルカも枯れ人と誤解されている可能性が高い。一緒に襲われるのは確定だろう。


 ――よくこんな真昼間から問題を起こそうと思えるな。


 それも警戒レベルの上がった今の街中で。ここは治安の悪い外縁部ですらないのに。

 二人は足を揃えて右へ曲がった。

 そこは薄暗く、細い路地だった。ごみや店舗の備品が放置されていて歩きづらい。

 しかし一般人のいる通りで暴れられれば、無駄に被害を出してしまうことを考慮してあえての選択だ。

 こういう時、ティリアは術士であるオルカと同じ思考でいるのが、不思議に思えた。民間への配慮なんて、枯れ人からすればする必要のないことだ。彼女の過去を知った今、猶更それが意外に思えてならない。ティリアもまた枯れ人からすると異端なのか、はたまたオルカがそういった枯れ人がいるのを知らないだけなのか。

 しばらく奥へ進んでいると、明らかに距離を詰めてくる追跡者。

 もはや正体を隠すことすらしなくなった。そう思い立ち止まる。


「よおぉ、ねえちゃん。ちっと待ってくれや」

「お仲間がいるとは予想外でしたが、まあいいでしょう」


 振り向けば体格のいい野卑た男と、瘦身で陰湿そうな男がいた。どちらも外套の下から金の双眸が見え隠れしている。


「知り合い?」

「まさか。関わりたくないタイプね」


 冷めた目で眺めるティリアにオルカは苦笑する。


「ならどうする? 追い払う?」

「痛めつけただけじゃまた来るわ。同情に値する相手でもないし、ヤルわ」


 オルカは「ハハッ」と乾いた笑いをあげた。見てくれからは想像できない物騒な発言に圧されてしまった。

 彼女らの社会ではそれが一般的なんだろう。同胞だろうが対立したなら徹底的に。それが常識であるし、身を守る術でもある。


「あなたは逃げて。巻き込むわけにはいかないわ」


 ティリアは一歩前にでてそう言う。

 一瞬かち合った視線から、彼女の真摯で誠実な思いが伝わった。

 それを受け取り、オルカは覚悟を決めた。


「そうもいかないでしょ。逃げて君が死んでしまえば寝覚めが悪い」


 人を斬るのは好きではない。むしろ苦痛だ。

 だが隣にいる人を護るために刀を振るうというのは、今までとは違う心情をオルカにもたらした。

 これまでは同じ術士と肩を並べ、よく知りもしない民のために戦ってきた。だが今は、術士でもなく、ましてや銀樹の民でもない枯れ人を助けようとしている。

 それが新鮮だった。

 もちろん殺人への忌避感は変わらない。だがそれを振り切る強力な建前を手に入れた。そんな感じがした。


「随分仲がいいじゃねえか。残念だなぁねえちゃん。お前が裏切らなければお友達もまだ生きられたのに」

「リグ様も失望してらっしゃいます」


 粗暴な大男の後ろへ下がる痩身の男。そしてどちらも術を構築していく。

 瘴気の濃密な臭気が場を満たし、男たちの身体へ纏わりついていく。大男は右手に歪な大剣を生成し、もう一人は等身大の棒を創り杖のように地面に打ち付けた。

 

「見てわかる通り彼らは堕ちた枯れ人よ」

「だろうね」

「だから私の時のように躊躇っては駄目よ。きっと多くの人を殺している」


 欲望に塗れ瘴気に身を堕した愚者。ぎらつく濁った金の眼光には嗜虐による愉悦が浮かんでいる。

 ティリアとは異なり理性を捨てた狂人の色が濃く見える。そういった類は平然と周囲を巻き込みかねない。ならば術士として冷徹にならねばならない。

 虚空から灰褐色の小さな木片が創出される。次第にそれは軋みをあげ枝に成長し、柄となった。先端からは、折りたたまれた蟲羽が広がるように白葉が生え、細く薄い刀身を形成していく。

 

「前も気になったけど、あんたのそれって――」

「うん、君たちの術だよ」


 自重で落ちていく樹刀の柄を握る。

 ティリアもまた黒と銀の刀を手に正面を睨んでいる。


「やっぱり変態ね、あなた」

「失敬な。良い術はどんどん取り入れていかなきゃ」

「それができないから私たちは対立しているんでしょ」


 違いない。

 この当たりの強さが何故か心地よく、オルカは殺気渦巻く状況で場違いに顔を綻ばせた。

 それが癪に障ったのか、細身の男が杖で強く地面を叩いた。


 ――来る! 


 すると男を起点に地面が隆起していく。亀裂はオルカ達の方へ伸びていき、目の前まで来たとき腐敗臭と同時に黒い根が飛び出してきた。

 術士の行使する術と相違して、瘴気を元に構築された術は異質だ。

 肉感を思わせる生物的な根が瘴獣の触手を想起させる。

 避けようのない隘路に、オルカ達は後退を余儀なくされる。

 二人は壁に張り付く蔦や木々に足を引っかけて、跳躍することで執拗に追いかけてくる根を躱した。

 壁を蹴って屋根上に登ると、相手も一息に跳躍して登ってきた。


「じゃあ僕がデカい方もらう」

「なら私はガリガリの相手ね」

 

 駆けだす二人。強化された身体能力により瞬時に距離を詰める。


「ハッハア!! 来いやゴラァッ」

 

 大男は隘路から解放されたように大きく叫ぶと、幅広で大きな樹刀を薙ぐ。

 オルカは急停止してそれをやり過ごした。

 轟音が耳元で鳴り、風圧で髪が靡く。

 喰らえば両断では済まない。肉体が破裂して飛散するのは容易に想像できる。

 続いてオルカが刀を薙ぐ。男は外見に見合わない素早い動きで距離を開け、大剣の間合いへ持ち込む。そうはさせまいと相手の懐に踏み込もうとするオルカに、牽制の攻撃が繰り出される。

 一進一退の攻防が繰り返され、決め手に欠ける時間が流れる――。


「ハッ――」


 オルカは左足を起点に術を行使する。即座に伸長した樹が左足の延長として鞭のように撓る。


「ぐぉ!?」


 胴体に直撃し、横に吹き飛ばされる大男。術を解除して間髪入れず再度踏み込む。

 態勢を崩した男にオルカは突貫する。

 突き出す切っ先。曲がった樹が反発したような爆発的な加速だった。

 右手に生々しい感触。

 男の呻きと臭気が吹いた突風に攫われる。


「外したか」


 淡々と呟いたオルカは無慈悲に刀を引き抜き、後退。大男は片膝をつき、右肩を抑えていた。


「てめぇ、枯れ人じゃねぇな!! 術の扱いに慣れてやがる!」

「だとしたらどうする? もしかしたらすごい枯れ人かもよ?」

「なわけねぇだろ!! 術に瘴気が微塵も混じってねぇ……」


 ようやく気付いた間抜けな男に、しかしオルカの青眼に気の緩みはなかった。ただ冷徹に男を観察し、一挙手一投足を見逃すまいとしていた。


「なんで術士があの女に協力してやがる」


 当然の疑問だった。だがオルカは惚けたように、調子はずれの声音で答える。


「僕もさっき彼女が枯れ人だって気づいたんだ。でも逃げようにももう遅くてね。それで今こんな感じ」


 適当な返しに青筋を立てる大男。ここで問答を繰り返しても埒が明かないと察したのか、樹刀を左手に持ち替えて構える。


「ぶっ殺してやる!」


 板葺きの屋根を砕き猛進してくる。振りかぶった大剣は黒く、陽光を反射しない。

 一方、待ち受けるオルカは更に樹体化の出力を上げた。揺らぐ空間。靄のように噴き出す青い煌めきは天へ昇る。

 オルカの右肩から指先へかけて変化が訪れる。灰色の樹が腕を外骨格のような形状で纏わりついていく。鱗に似た鋭い樹皮が右腕全体を覆い、肩と肘から先の尖った枝が生える。

 歪で異質な右腕は白く色の抜けた枯木のようで、さもすれば化け物の腕のようでもあった。


「なッ!? 嘘、だろ…………!?」


 耳を劈く衝突音が響いた後で、男は驚愕して目を見開いた。

 平然と細い刀に受け止められた大剣。

 自慢の剛腕だった。加えて斬るよりも叩き潰すことを目的にした重量特化の大剣である。

 何者も立ち塞がることができないはずだった。

 しかし、重量の差などまるで無いかのように微動だにしない自分より背の低い男。目の前で起きている現象ははたして現実だろうか。

 それだけ男にとってあり得ない光景だった。


「瘴気が霊気に勝るのは、上級の術士までだよ」


 オルカはこれまた軽々と大男を弾き返し、優しく諭す。

 常と変わらぬ笑みを浮かべ、悠々と近づいていく。だらりと下げた樹刀は、ゆらゆらと不気味に揺れる。


 ――自信喪失って感じかな。


 表情の抜け落ちた男は中々自失状態から帰ってこない。武器の接触を通じて直で感じたのだろう。実力の差を。

 オルカはかける言葉を持たなかった。そのため無言で見下ろし、大剣を握る腕を斬り落とした。


「う、ぐぁッアアアアァ――ッ!?」


 ようやく我に返った男は無様に泣き喚く。

 それを冷酷に眺めるオルカは樹刀を解除して、空いた異様な右手で男の首を鷲掴んだ。

 背後では今も尚ティリアと痩身の男の戦闘音が断続的に聞こえてくる。暫く決着つかないだろうと予想し、オルカは感情の抜け落ちた青眼で男の涙に塗れた瞳を覗き込む。


「ねぇ、一つ聞いていいかい?」


 生温いほど優しげな声音で尋ねる。男はオルカの右腕を引き剥がそうと藻掻いている。


「どうして彼女を襲ったの?」

「――し、らねぇ、よッ。そう上から、命令されたから、つけていた、だけだ!」

「なるほど、殺す気はなかったわけだ」


 一つ首肯する。徐々に男の抵抗が激しくなり、直接蹴りなり拳なりがオルガの顔や脚に飛んでくる。それが鬱陶しくなり、更に霊気を右手に注ぎ込んだ。

 すると肘から先が肥大化していき、幾本もの木々が重なり絡み合っていく。数秒を経て巨大に変化した手が大男をすっぽりそのまま包み込んだ。


「じゃあ次ね。リグって、誰?」


 それは交戦する前に痩身の男が呟いていた名前だった。数ヶ月前にオルカを襲った刺客もその名を口にした。ここ最近拘束、あるいは処分された枯れ人の口からも度々聞かされた名だ。

 最初は大通りを襲撃した集団の統率者がそれだと思っていたのだが、奴にはそこまでの力を感じなかった。肌で感じる霊気の量、統率力ともに特質するとこもなく、なんなら眼前の男の方が強そうだ。


「ハッ、――なんだよ、知らねぇ、のかよ。あの女と、一緒にいてよぉ」


 男は嘲笑を浮かべて、唾を吐きかけてきた。


「なら、俺からは、言えねぇなぁ。ククッ、こんなんでも組織に属してるもんでな。言うぐらいなら潔く死んでやらぁッ」


 そして大口を開けて、壊れたように笑う。


「ダハハッ!! 忠誠に命を捧げるのも悪くはねぇなぁッ!!」

「なッ、待て、何しようとしてる!」


 男の顔が黒く変色していく。樹体化による肉体の許容限界を越えたのだ。

 拘束が自力では解けぬことを悟り、自ら肉体を崩壊させようとしている。

 限界を逸した肉体は自然に還っていく。肌は樹皮のように硬質化して剥離し、肉と骨は一体化して幹と化す。人の形をした枯木となるのだ。


 ――狂ってやがる。


 悍ましい変貌を遂げていく男。金の瞳は既に白濁し、乾いてきている。

 狂気だ。恐怖を凌ぎ、簡単に死を選択できるその思考に、オルカは慄いた。

 落下し破片となって崩れた男の残骸を、苦々しげな顔で睨む。

 後味の悪さに、唾が苦い。

 頭を振って無理矢理切り替えようする。

 後方では未だにティリアと痩身の男の激闘が続いていた。これ以上戦闘が長引けば他の術士が応援に来てしまう。そうなるとティリアが討伐対象として認識され、オルカでも庇いきれない危険な状態へと移行してまうだろう。

 霊気はまだ残存している。全体からすれば消耗は少なく済んだ。それを確認したオルカは樹刀を生成し、躊躇なく戦場へ突入し、痩身の男へ斬りかかる。


「ぐうッ――。これ、は、厳しいですね!!」


 男の顔から余裕が消える。

 敵の展開した術をくぐり、直接首を狙いに行く。杖で防ごうとするが、オルカの前進する勢いに押され痩身の男は徐々に後退していく。

 都度足元から気色の悪い根の大群が襲いかかってくるが、状況を察したティリアが撃墜していく。

 そして特に苦労することなく、ついには首を跳ね飛ばした。


「はぁッはぁッ――、流石ね、助かったわ」

 

 肩で息をするティリアが感謝を述べる。オルカは特に気にしたふうもなく右手を上げて答えた。


「すぐにここから離れよう。術士が来る」

「ええ、分かってる」


 屋根上から薄暗い路地へ降りて、できるだけ先ほどまでいた場所から離れようとする。

 息を整えつつ、人通りの多い道へ入り、姿を眩ます。

 後をつける影がないことを確認し、二人で安堵の息を吐いた。


―――――――――


 隣を歩くティリアの歩調はゆったりだ。

 二人の間には沈黙が流れている。

 横目で彼女を観察すれば、いつの間にか瞳は元の綺麗な黒色に戻っていた。


「ねぇ、聞いていいかな?」


 頃合いと思い、満を持して聞いてみることにした。


「――? ええ、いいわよ」

「リグって、誰だい」


 大男がその名を、その正体をティリアが知っているということを示唆した。

 オルカがそれを知らされてないことに、あの男は嘲笑すらしていた。その意味を知りたくなった。


「そうよね、気になるわよね……」


 一人納得したティリアは、決心したよう表情を引き締め「本当はさっき説明しようとしたのよ」と前置きして語り出した。


「私がここに戻ってきた理由のもう一つが、その子なのよ」

「その子……?」


 違和感のある呼び名に、オルカは首を傾げる。

 反射でティリアを見遣れば、何とも言えない笑みを浮かべていた。悲しそうな、でもどこか暖かな。


「リグは、弟よ。私の唯一の家族」


 え、と声が漏れそうになった。驚きに喉が緊張し息が詰まる。


「そ、れは……、何とも、意外な……」


 オルカは何を言えばいいのか分からなかった。頭が混乱した。リグが彼女の弟で、弟が襲撃者と関りがあって、その襲撃者はティリアを狙っていて――。


「ふふっ、びっくりしてる」

「そりゃ驚くよ。何が何だかさっぱりだ。君はいったいどんな状況に巻き込まれているんだい?」

「簡単よ。リグは枯れ人を統率して樹の国へ侵入し、そしてそれを邪魔する私を捕えようとしている」


 オルカの反応を楽しんでいるのか、上目遣いで微笑んでくる。

 むっとしたオルカは、語気を強める。


「枯れ人を統率って……、リグは君と同い年だろう? そんなことが可能なのか?」

「ええ、リグは天才よ。――いいえ、天才という言葉すら生温い。我が弟ながら恐ろしい力を秘めていると思うわ」


 私と違って、そう小さく付け足したティリアは、屋台から串を二本買ってくると一本をオルカに渡した。「あ、ありがとう……」と取り敢えずの感謝。内容の深刻さとティリアの態度の明るさにオルカは戸惑う。


「リグはね、本当は素直で良い子なの。でも変わってしまったわ。いつしか柄の悪い男達を力で屈服させ、連れまわすようになった」

「力に酔いしれた感じ、なのかな?」

「最初は私もそう思った。でもいつからかそれは変わった。引き連れた男達のリグを見る目は、どうにも恐怖だけではないように思えたの」


 強烈な力が他者を魅了するのはよくある話だ。

 しかし、それをオルカと同じ歳の少年が、加えて外界で生きる猛者を相手に行っているという異常さに、オルカは戦慄した。

 実際オルカと交戦した男たちはどれも実力者であった。


「君の弟は枯れ人を引き連れて、この国で何をしようとしている」


 オルカは核心に斬り込んだ。

 当然その質問が来ることは予期していたのか、ティリアは軽く頷いて小さな口を開いた。


「あの子の心にあるのは、この国への憎悪よ」


 それは排斥される枯れ人の、至極単純な、極々ありふれた動機だった。

 しかし力とカリスマ性を備えた人間が心に黒い焔を飼っている事実は、術士として重い懸念事項としてオルカに伸し掛かる。

 不穏。その言葉に尽きた。


「今のところそれしか分からないわ。でも間違った方向に突っ走ってるというのは姉として分かる。だから説得するために追いかけ、邪魔をしている」


 ――それで不興を買って追われているのか。


 腑に落ちた。オルカは思考を整理するために、一度深く息を吸った。そして通りの端に寄り、壁に背を預ける。ティリアも倣って隣に立った。


「君は、憎くはないのか? 僕達が」


 答えを聞くのを拒絶している自分がいることに、オルカは気づいていない。触れたくもないものを触れようとしているような、好奇心ともいえない感情だった。

 

「ない、と言ったら嘘になるわ」

「――そうか……」


 納得と同時に失望が胸に去来する。

 オルカの視線が落ち、足下を映す。

 ティリアは被せるように「でも」、と続けた。


「今はもういない人を想うより、残った肉親を救うほうが大事だと思うの」


 ティリアの黒い瞳はどこまでも真っ直ぐに輝いていた。泥濘のような憎しみを胸に仕舞う、あるいは決別して、現実を直視する。それは中々できることではなかった。


「選ぶって、難しい。どっちか一方を選べば、一方を捨てることになる。だけどどちらも選べなければ、結局何も守れない」

「だから、君は復讐よりも弟を選択したんだね」

「うん。……もちろん、そんなこと考えることもないくらい愛してるだけってのもあるんだけどね!」


 綻ぶ笑顔にオルカもつられて微笑んだ。

 オルカの周りでは、そもそも術士の家系では滅多に見られない、純粋な愛の形を目の当たりにして暖かい気持ちに包まれた。


―――――――――――


「今日はありがとう。お蔭で命拾いしたわ」


 橙に染まる空に漆黒の気配が見え始めた頃。喧騒が和らいだ通りで二人は向かい合っていた。

 彼女がどこに住んでいるかを知らないオルカは、恐らく外縁部であると当たりはつけているが、危険だろうから家まで送っていこうとして、はたと思いとどまった。

 彼女の周りには国の陰で隠れ潜む枯れ人が多くいるのではないか。ティリアのように善良な枯れ人が。もしいるのなら術士であるオルカは彼らの脅威として認識され、警戒させてしまうのではないか。

 オルカはここで見送ることを選択した。


「気にしないでくれ。やっぱり君といると得るものが多いね」

「それを言うなら私もよ。この国にもあなたみたいな変人もいるんだって、見直したもの」

「だから変人じゃないって」

「ふふっ、そうかしら」


 そんなちょっとした冗談を言い合うことすら、オルカを満ち足りた気分にさせた。

 ティリアは軽快に背を向けた。

 彼女の茜を照り返す黒い髪を見て、出会ったころの別れ際を思い出した。同じ景色を見ている気がするのに、だからこそ互いの関係が変わったのを明確に感じられた。

 また、会いたいと思った。

 ティリアは少しだけ振り返って、「じゃ」と短く告げる。そして帰路につく人の流れに溶け込んでいった。


「濃い一日だったなぁ……」


 既にない人影を眺めて、言葉をこぼした時だった――。


「女といるとは、珍しいじゃないか。……オルカ」


 親しみの中に硬質な響きを含ませた声が、突如真後ろから聞こえた。

 油断していた。

 瞬時に距離をとったオルカは、声の主を目にして、驚愕と同時に安堵した。

 そこに佇立していたのは、一般的な術士装の上に豪奢な羽織を被った男だった。珍しい銀髪に端正な容姿。鋭い碧眼は鷹のようで、年若いにも関わらずどこか威厳を感じる。


「ジン……」


 ジン・アラヒル。オルカの親友にして、五人で構成される樹王直轄の精鋭術士《使徒》の一角である。

 最年少にして使徒に昇格し、国を背負う術士の一席についた神童。実力は然ることながら、人柄もよく、民衆、術士問わず憧れの的である。


「いつ帰ってきたんだい?」

「つい先ほど帰還した。長い任務であったが無事やり終えたよ」

「お疲れ様。……流石、傷一つ無いんだね」

「当たり前だ。俺に傷をつけられるのは同じ使徒と、お前だけだ」

「買いかぶりすぎだよ。僕のような木っ端術士じゃいつになっても不可能だ」

「謙遜しやがって」

 

 和気藹々と談笑し、樹王自らより課された任務の完遂を労う。

 外界の調査か危険人物の処理か、はたまた瘴獣の討伐か。何れにしろ碌な任務でないのは察しが付く。


「ところで――」


 ジンの声色が変わった。

 和やかだった雰囲気は霧散し、鋭い眼差しに険を混じらせてオルカを睨む。


「先程一緒にいた女は……、誰だ?」


 嘘は許さないとばかりに見開かれた碧眼。

 巨人を相手にしているような圧力は使徒たる所以か。


「通りすがりに声をかけただけの人だよ」

「誤魔化すな」


 平然と軟派な演技で流そうとしたオルカ。それに対してジンは視線を外さない。


「お前の型に囚われぬ戦い方を、俺は好ましく思っている。柔軟な思考も、生き方も。だがなオルカ――」


 怒気、だろうか。彼の全身から霊気ではない迫力が滲み出ている。


「――付き合う人間でだけは、もう少し考えた方がいい」


 ――やはりバレていたか!


 一瞥しただけでは見分けのつかない枯れ人の変装も、使徒であるジンからすれば透明に等しい。常軌を逸した感性と索敵能力は、一瞬目にしただけでその正体を看破する。

 ティリアが油断していたのもあるだろうが、それにしても異常な眼力だ。

 もしかしたらジンが特別なだけかもしれないが、迂闊だったとオルカは自省した。


「それはどういう意味だい?」

「惚けるな。お前ほどの術士が気が付かないとは言わせないぞ。それとも口にしなければ駄目か?」


 困ったことになった。

 ジンの実力をもってすれば今からでもティリアに追いつき、首を跳ね飛ばすことなど造作もない。

 親友か、ティリアか。

 

『選ぶって、難しい。どっちか一方を選べば、一方を捨てることになる。だけどどちらも選べなければ、結局何も守れない』

 

 奇遇にもティリアとの帰り際の会話でした『選択』の重要性が、ここにきてオルカに突きつけられた。

 選択するということは、対立するということ。もしくは切り捨てるということか。

 

 ――どうする。どうすればいい。


 ここにきて自分の優柔不断さが憎らしくなった。


「まあいい。このことは俺の中だけで留めておく。あの程度の小虫一匹逃したところでどうともならん」

 

 それに、と挟んで責めるようにオルカを見ながら続ける。


「こんなことが公になればお前だけでなく、ラウルス家そのものが潰されかれない」


 それは望むところではない、そう言いジンは険悪な空気を解いた。

 重い沈黙が二人の間に落ちる。合わない視線。気まずい空気。


「ごめん」


 親友に大きな借りを作ってしまった。それも大きな。


「今のうちに関係を絶っておけ。無駄に悲しむことになるぞ」

「それは……、どういう意味?」

「? 知らないのか、お前……。そうか、まだ通達されていないのか」


 何だかよく分からないことを呟くジンに、オルカは首を傾げる。


「どうせ明日には聞き及ぶことになるだろうが――。近日、枯れ人への大規模掃討作戦が決行される」

「な、それは本当か?」

「事実だ。帰還してすぐに報告に参った時、樹王様より直々にそう申し付けられた。最近、問題を起こしている枯れ人に対する粛清なんだそうだ」

「正気か? 民に大きな被害がでるぞ。それにどう見分けをつけるつもりだ」

「勿論、全ての枯れ人を対象とするのは不可能だ。だがどうやら件の組織が潜伏する区域の大凡の見当はついているみたいだ」


 それを聞いて直ぐに思い浮かんだのは、ティリアの弟だった。

 組織の首魁、リグ。

 要は彼を筆頭に暴れ回る集団を対象とした掃討作戦だ。オルカも交戦した、あのレベルの枯れ人が多数存在していることから、激しい戦いが予想される。


 ――だとしたらティリアが危ない。


 きっと弟の安否が気になって、必ず戦場に顔を出すことだろう。

 伝えねば。逃げるよう説得せねば。

 そう焦燥感に駆られるが、しかしそれは情報の漏洩に該当する背信行為だ。

 術士と、平穏に生活する民をも巻き込む壮大な裏切りだ。

 

「あまり情を移しすぎるなよ。刃が鈍る」


 一方的にそう告げて、ジンは去っていった。

 オルカは冷や汗と動悸が止まらなかった。

 吐き気がした。ティリアの浮かべた笑顔が脳裡に張り付いて離れなかった。


―――――――――


 作戦は一月後と通達された。国境に最低限の戦力を残し、それ以外の殆どの術士が戦力に組み込まれるとのこと。

 オルカは思考に沈潜する。自分の取る行動によって起こる、あらゆる可能性について想定し、最適解を探していた。

 落胆と絶望の繰り返しだった。

 どの選択肢においても、オルカは何も捨てることが出来ず、身動きが取れない状態でいた。

 体調不良を理由に任務から外れてまで出した結論が、現状維持、というのだから救いようがない。

 そんな中で重ねたティリアとの逢瀬は、苦痛以外の何にでもなかった。

 表面上は取り繕ってはいたが、それでも彼女への罪悪感は日増しに増していった。

 ティリアはどこまで普通の少女だった。

 対等に接し、誰よりも近くでオルカの心に触れてくれる。それがあまりにも自然で、会うたびに胸が締め付けられた。


「最近冴えないわね、あなた」


 木陰に隣り合って座り、物思いに耽っているときだった。ティリアは顔を向けずに、揺れる梢を眺めている。


「そうかい? いつも通りだけど」

「そうは見えないから言ってるのよ。悩んでいるなら言いなさいよ」

「悩んではいないさ。ただ――」


 オルカは後頭部を幹に当てて、脱力しながら答えた。


「自分の嫌な部分がどんどんと露わになってきて、自己嫌悪に陥ってる」


 目を逸らしてきた自分の本性。他責で、臆病で、どうしょうもない奴。

 逃げて逃げて、答えをぼかして丸く収めて。

 しがらみを切り離せず、結局鳥籠の中に戻ってくる。

 そんな自分が、ただ嫌いなだけだ。


「君は、とても心が強いように見える」


 遠くの方から喧騒が風に乗ってオルカ達の元へ届いた。


「そんなことないわ。そう見えるなら勘違いよ」

「そうかな? 少なくとも僕よりは強い。君は自分の足で立ち、目的の為に着実に歩む力を持っている」

「そうでもしないと落ち着かないからよ。むしろ色んなことに目を向けられる、あなたみたいな余裕が欲しいわ」


 余裕。余裕なのだろうか。

 ただの優柔不断だろう。

 オルカは首を傾げた。

 それを見て、ティリアは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「私より多くの事を感じ、目にし、考えられるあなたが、素直に羨ましいって言ってんの」


 可愛らしく威嚇するような表情をしてから、ふっと微笑んだ。

 オルカは戸惑いつつ人差し指で頭をかく。


「無駄に考えちゃうだけだよ。何もいいことない」

「何それ。直情的で考え無しな私への当てつけ?」

「ち、違うよ。僕はその、君の決断力と真っ直ぐさが欲しいだけ」


 ぶんぶん両手を振って弁解する。本心でそう言ってるのだから、決して彼女を誂うつもりはなかった。

 ティリアは勢いよく立ち上がり、お尻についた土汚れを払う。

 そしてオルカの前で仁王立ちする。


「いい? 短絡的な人間なんて何も上手くいかないの。誰が何を思っているか、何を考えているか、まぁったく分からないんだから! 見てみなさいよ私を! それで沢山失敗してきたんだから。悩めるだけ周りが見えてるあなたが私は羨ましいわ」


 凄い剣幕で顔を近づけて、一気に捲し立てたティリアにオルカはたじろぐ。

 目の置き場に困り、情けなく「は、はい」とだけ答えた。


「ほんっと弟一人理解できないんだから、嫌になっちゃうわ」


 ため息をつくティリア。オルカもいそいそと身を起こし、彼女の横顔を窺う。

 端麗な顔には疲弊が滲んでいた。

 度重なる後悔と責任を一身に背負った者の顔だ。

 だがその奥に全てを糧に、前進する者の逞しさをオルカは見た。

 彼女はオルカとは対象的な人間だ。

 自責と他責。この相違は明確で、隔絶した精神の在り方をしている。

 他責はどこまでいっても決められない。踏み出せない。無駄にしぶとく、醜い。


 ――僕はいつも逃げる口実だけを探している。


 対して彼女はどうだ。全てが私の責任だと言わんばかりに、歯を食いしばって生きている。その生き方は決して正しいとは言い難いが、それでもオルカには美しく映った。


「そろそろ行くよ」

「あら、そう? 今日は早いわね。ごめんなさいね、私だけ熱くなっちゃって」

「うん、お陰でまた悩みが増えたよ」

「え!? ご、ごめんなさい。そんなつもりは……」


 少し湿った風が首を撫でる。仄かな暑さで額に滲んだ汗を軽く拭い、ティリアに手を振る。


「冗談冗談。……しばらく会えなくなる」

「任務、かな?」

「うん、そんな感じ」


 秘匿事項に触らぬよう躊躇いがちに理由を問うティリアに、言葉を濁して答えた。

 任務と言えば任務である。が、理由の大半はオルカの迷いにあった。

 これ以上彼女と言葉を重ねれば、取り返しがつかないことをしてしまいそうだったから。


「――じゃ、また」

「うん、またね」


――――――――――――

 

 掃討作戦当日。

 滾る戦意を身に秘めて、下級から特級までの術士が揃う。

 大銀樹の煌びやかな葉が揺らいで月光を反射する。幹の隆々たる偉容に尊崇の念を抱き、各々が信仰を口にする。

 場所は本部と隣接する宮殿前広場。小高い根の張る丘の下に宮殿は建てられ、大銀樹の洞の闇が大きな口のように開いて見える。

 総勢二百人ほどの術士が大銀樹に向けて階級順に整列している。

 最前列に位置するオルカ達特級術士の前方には、使徒であるジンが一人集団に向き合う形で直立していた。

 宮殿の奥から数人の影がぞろぞろと向かってくる。

 中心には豪奢な銀の羽織と、黄金の光を内包した宝玉をあしらった杖を携えた、老年の男がいた。

 樹王その人だ。

 腰の曲がった貧弱そうな外見に対して、淡緑の眼光は鋭い。老体にも関わらず他者に圧迫感を与える覇気を纏い、かつての実力を想起させる何かを内包していた。

 樹王とは大銀樹の契約者であり代弁者。その身を介して我ら民へ大銀樹の力、《豊穣》を齎す樹の国で最も不可欠なお方だ。


「これより、国内に潜伏する枯れ人の掃討作戦を開始する。各隊通達された配置につくように」 


 傍らの長身の男がよく響く声で作戦の開始を告げる。樹王はただ黙し、集った術士を睥睨していた。


「枯れ人を、殲滅せよ!!」


 号令とともに迅速に包囲網形成のための配置場所へ向かっていく術士達。

 オルカもまた事前に指示された区へと足を向けた。


 ――結局、何もできなかった。


 ティリアに伝えることも、覚悟を決めることも。

 焼けつくような焦燥と罪悪感。張りぼての正義感に責務。葛藤し懊悩し、その末に決断を先延ばした。

 足取りが重い。


「また湿気た面してやがんのかお前」


 肩に衝撃を受けてつんのめると、ジークが快活な声で話しかけてきた。

 少し後ろにはユリスと隊長が普段よりも硬い表情で連れられてくる。


「別に、ただこんな大掛かりなことするほどかなって思って」

「何言ってやがる。ここ最近明らかに枯れ人の動きが活発化してるんだ。これ以上民に被害が出る前に手を打つのは当然のことだろ?」

「そうよ! ちんたらチビチビやってたらあいつら増長して余計面倒くさくなるじゃない!」

「害虫は巣を発見次第容赦なく潰すのが常套手段です。それこそ大掛かりになったとしても必ず早い内に取り除かなければいけません」 


 三者三様の攻撃に分が悪くなったオルカは話題を切り替えることにした。


「そう言えば隊長。僕らは外縁部西区で間違いないですよね?」

「ええ、合っていますよ。正確には西区の小さな酒場が包囲対象となっています」

「酒場、ですか?」


 隊長は意地悪い笑みを浮かべて佩いた霊刀の柄頭を撫でる。


「そこが件の組織の拠点、ですか。そんな場所が?」

「違いますよ。奴らの拠点は南区です。そこは私達とは違う部隊が向かいます。使徒様もそっちですね」


 尚更混乱していくオルカにジークが引き継いで説明する。


「だから言ってただろ? ()()()の掃討だって。組織はあくまで対象の内の一つだ」


 オルカは嫌な予感を覚えた。想定していた事態より深刻かもしれない、という。


「我々が向かうのは組織とはまた別。西区を支配するある枯れ人の集団が拠点とする場所です。そこに巣くう害虫どもを駆除するのが我々の任務」


 隊長が目を細め、酷薄に笑う。嗜虐めいた態度にオルカは不快の念を抱いた。


 ――待てよ。いつもティリアが帰っていく方向って……。


 そこまで考えて、オルカの手が震えた。咄嗟に抑え、後ろに隠すことで誤魔化す。

 胸内が荒れ狂い、焦りで血が沸騰しそうなぐらいに熱くなっている。


「ねぇ、あんた本当に大丈夫? 調子悪そうだけど」

「もしかしてまだ克服してねぇのか、あれ。もはや病気だな、お前」


 枯れ人を手にかけることへの忌避感についてか。オルカの枯れ人捜索及び討伐の消極性は周知の事実だ。

 しかし今はそんなことよりもティリアのことで頭がいっぱいだった。

 

「まぁ今回は他の部隊もいることだしそんな気にすることはねぇか?」

「何言ってんのよ! こいつのせいで私に被害が及ぶのなんて許せないんだからね!」


 オルカは拳を強く握り、無理矢理に笑顔を向ける。


「大丈夫だよ。油断しないように気を張っていただけだ」


――――――――


 酒場は外縁部の複雑な路地の、さらに目立たない場所に存在していた。

 半地下の店は陰気さと怪しさを醸し出している。しかしそれは外縁部において見慣れたもので、だからこそ街並みに溶け込んでいる。


「どうするんです? 突入するんですか? それとも誘き出すんですか?」


 ジークが屋根上に待機する他部隊の術士を見回しながら言う。

 それに対し隊長は「取り敢えず待機かな」と事前に取り決めでもあるのか迷うことなく指示をする。

 するとある部隊が店を囲むような形で四方に散開し、術を構築していく。

 オルカはその部隊の一人一人を見ていくと、ある共通点に気づいた。

 霊気を構成する地、水、風の気の配分が似通っているように思えるのだ。これは通常、親族同士でしか起こり得ない現象だ。


「もしかしてあの部隊、一族で構成されてる……?」


 ほぼ独り言に近い声量での呟きだった。

 しかし隊長は耳聡く聞きつけ、彼らを観察しながら返す。


「よく気づいたね。そうだよ、彼らは薔薇の一族、ローゼス家だ」


 薔薇の一族。聞いたことがある。

 茨の樹操術を得意とする一族で、拘束系の術に特化した家であると。


「では彼らが行おうとしているのは結界の構築ですか?」

「そう。茨の結界で逃げ場を塞ぐのさ」


 霊気の高まりを感知。突如、四人の術士を起点に深緑の網が展開されていく。

 交差し隙間を埋めていく茨は、肉を穿つほどの太い棘がずらりと並んでいた。

 月明かりを遮らない円筒型の結界。先端には赤い薔薇が咲き誇り、縁を華麗に彩る。


「こりぁ俺らでも逃げられねぇな」

「流石の私も、虫どもに同情しちゃうわ」


 異変を感知したのか建物が俄に騒がしくなる。

 一人の枯れ人が姿を現す。

 若い枯れ人はまさかこんな場所に術士がいるとは思わなかったのか、金瞳を堂々と晒していた。

 はっとなって気づき慌てて目を隠すがもう遅い。

 飛来する樹槍に心の臓を貫かれ絶命。

 あっけない最後にどこからか嗤笑が木霊する。


「なんだ!? お、おい!! どうし――ッぐえ」


 次々と湧き出てくる枯れ人を順次処理していく。

 あまりに無慈悲な光景に、オルカは目を逸らした。


「ぬお、なんだかやべぇ奴がいそうだな」


 突如、爆発的な霊気の高まりに術士達が一斉に警戒状態へ移行する。先ほどまでの下っ端連中とは異なる明らかな格上のお出ましだった。

 大地が震動している。これだけの霊気、一筋縄ではいかないことは明白だ。オルカも樹体化を展開して攻撃に備えた。


「――来る」


 瞬間、建物を突き破って赤黒い巨大な花が咲いた。

 月光と闇夜の狭間で怪しく揺れる花弁。雄蕊雌蕊はなく、その部分は空洞だった。

 そしてぽっかり空いた闇から、次第に不気味な液体が浮遊し溜まっていく。

 小さな水滴から徐々に膨らみ、一瞬で建物を呑み込むほどの大きさになっていた。


「まずい! 毒が来るぞ!!」


 誰かが叫んだ。

 音は無かった。

 静寂の中、解けていくように無数の水滴となって黒い液体は散っていく。術士達に向かって。


「ぐぅッ」


 オルカは咄嗟に霊気を集約させて、幾重にも重ねた壁を創り上げた。

 ジュっと灼ける音と異臭が周囲に広がる。毒が壁や家屋を溶かしている。

 一転して術士の悲鳴と慟哭が黒い雨の下、無様に鳴り響く。

 止むことのない絶望の雨。埒が明かないと悟ったオルカは修復し続ける壁を解いて、異形の姿に変じる。

 歪な鎧。獣の如き獰猛な形態。灰褐色の怪物と化す。

 樹体化を変質させて編み出した、《樹装化》とも称すべき術。

 肉体と同化した術ならば溶けた端から修復できる。

 毒の雨を切り裂いて、突進。

 強化された視力で他の術士を見遣れば、術で防いでいる者と防御を突破されて肉体が溶けた者が半々であった。

 これ以上続けば残りの術士ももたない。


「術士を叩くのが早いか」


 術の顕現である花を消滅させるより、その行使者を止める方が先決と判断し、倒壊から免れた建物に突入した。

 そこには二十人近い枯れ人が花弁を傘に寄り集まって様子を窺っていた。

 オルカが転がり込んできたことに皆一様に驚愕した表情で出迎えた。


「じゅ、術士だ!!」

「嘘だろ!? あの毒の中でどうやって――」


 動揺し慌てる枯れ人の中で一人、両膝をついて両手を蔦に絡めとられた妙齢の女性がいた。

 蔦の先を辿ると巨大な花に繋がっている。


「いた」


 視界の悪い頭の外装を解く。そして右手を肥大化させ鉤爪を発達させる。巨大な獣の腕に変化させ、薙ぐ。

 術者ごと引き裂く一撃だった。


「待って!!」


 妙齢の女を肉塊と化す寸前、間に割って入るように、見慣れた女が飛び込んできた。

 急制動をかけて咄嗟に軌道を変更。上方へ勢いを逃し、蔦だけを八つ裂きにした。


「ティリア……」


 両手を広げ、目を瞑る美しい黒髪の女。前髪を切り揃えた、目を閉じていても分かる端麗な容姿に、オルカは泣きたい気持ちになった。

 ここに居ないことを希求した。勘違いであると願っていた。


「この人は殺さないで、オルカ……。恩人なの」


 言葉を交わし、交流を重ね、人柄を知り、特別な存在となった。その人が、今オルカと再び敵として対峙する。

 これほど悲しいことはなかった。

 殺戮者と、襲われる者という構図。受け入れがたい現実。

 これはオルカの優柔不断が招いた事態だ。

 決断を先延ばしにしてきた結末だ。


「君が、何故そこにいるんだ。どうして僕の前に立ち塞がっているんだ」

「彼女が私を匿ってくれていたの。彼女のお蔭で今の私があるの。だからここにいる」

「お願いだ、ティリア。君を殺したくない。今なら逃げられる。いや、僕が逃がす。だからどいてくれ」

「出来ない。私がどいたらあなたはこの人を殺すわ。殺さなきゃいけない。だってあなたは術士だもの」


 ティリアの言葉が痛烈にオルカの胸を穿つ。

 突きつけられたお互いの立場。掻き毟りたくなるほど胸が痛い。

 蔦が切れたことで術者と花の繋がりは消失している。外では毒の雨が止み、残った術士が態勢を整えている頃だろう。時間がない。もう少しすれば誰かがこの場に現れ、オルカは完全に術士となる。術士とならざるを得ない。


「退くんだティリア! このままでは僕は君をただの枯れ人として対さなければいけなくなる」

 

 もはや懇願だった。

 しかしティリアの黄金の瞳は揺れることはなかった。


「私は、ただの枯れ人よ! ただの枯れ人なのよ、オルカ」


 もどかしい。苛立たしい。なぜ分かってくれない。

 これは彼女の意思を無視した、ただの我儘なのかもしれない。

 それが分かっていても、どうしようもないくらいオルカは彼女に生きていて欲しかった。


「自分を捨てるぐらいなら、私は死を選ぶ」


 決意と覚悟のための独白か。ティリアの甘く透き通る声が、オルカの胸内で反響していく。

 

「――おや、流石オルカ君ですね」


 そこで、オルカの背後から湿った男の声が聞こえた。

 時間切れだ。


「しかしこの人数、私とあなただけでは少し厳しいですかね」


 静かにオルカの隣に並んだ隊長は、冷淡に目を細め、薄ら寒い笑みを浮かべる。

 言葉とは裏腹に余裕が透けて見える。

 彼もオルカと同様、特級術士だ。最高峰の術士だ。自信があるのは当たり前で、加えてオルカという鬼才も一緒なのだ。こんな状況、どうとでもできると踏んでいるのだろう。


「――選ぶ……。選ぶ、か……」


 オルカがぽつりと呟いた。

 緊迫した空気に、一滴の水ように静かに場に響く。

 

「? どうしましたか? オルカ君。何か言いましたか?」


 選択し、決断する。

 その難しさを、オルカは身に染みて知っている。

 流されるままに生きてきた人生。

 家の為、国の為。

 オルカはいつも、泥濘にいた。腰まで沈む沼だ。

 首輪をつけた人形。命令に従順な殺戮兵器。

 そこに意思はなく、あっても無用の長物と断ぜられる。

 選択することまでは出来た。しかし、決断が下せない。誰とも対立することができず、踏み出すこともできない。

 結局、オルカは与えられた秩序が心地いいのだ。用意された平穏で満足しているのだ。


 ――でもそれじゃ、ティリアは死ぬ。


 覚悟とは、思考の末に下す決断と行動によってできる産物だ。そんなものでは底にへばりつく、植え付けれた親の理想の自分は砕けない。その一歩が踏み出せない。

 だから今必要なのは、自分がどうなりたいのかという明白な理想だけ。曖昧で、輪郭もないものだけど、確かにある成りたかった自分。

 渇望が、足を前に進ませる。


 ――守りたいものを、守れる自分に。


 本心に逆らうことなく、選べる自分に。

 

「隊長、僕はもう怯えるのは止めました」

「何を言って――ッ!?」


 左隣に立っていた隊長が消えた。

 残ったのは後ろに振りぬかれたオルカの巨大化した左腕だけだった。

 どよめく枯れ人達。

 当惑と警戒が渦巻き、誰も動けなかった。


「オルカ、何を……」


 瞠目したティリアは、呆然と立ち尽くす。


「対立しなきゃ、守りたいものは守れない。君から学んだ事さ、ティリア」

「どうして? それじゃあなたが――」

「いいんだ。僕は選んだ。父を、家を、そして国を捨てることを。ずっと違和感があったんだ、今の状況に。自分という存在に」


 オルカは古びた天井を仰ぐ。外装を解いて、ティリアを見つめる。

 金と青の瞳が交差する。


「ずっと決断できなかった。怖かったんだ。父上を否定することが自分の根底を否定しているようで。教えに反することが、僕が生まれた意味を無にするようで」

「そんなことあるわけないじゃない」

「でも事実なんだ。それが僕だったから」


 けど、と続ける。


 「君と出会って、憎しみを捨てた君を見て、僕は思い知ったんだ。選び決断した人間が、こんなにもかっこいいのかって」


 どんな術士よりも、使徒よりも、王よりも。

 生まれや苦境を物ともせず、形ある大事なもののために選び続ける彼女に、オルカは憧れた。

 オルカにとって、父も国も自分を縛る鎖以外の何にでもなかった。大切なものにはなり得なかった。

 

「僕の大事な物。それは君から貰った尊い生き方そのものだ。そのために僕は選択し、決断した。もう、対立は恐れない」


 だって対立しなければ、守りたいものが守れないから。

 自分も、ティリアも。


「私は、あなたに苦しんでほしくない。家族を裏切るような辛い決断をしてほしくない」

「でもそれじゃあ、僕らはどちらかしか生きれない」

「分かってる! 分かってるけど、これは私の本心よ!」


 頬を濡らし、両手を胸に添えて訴えるティリア。両立しえない現実に、藻掻くように首を振る。

 ティリアだって理解しているだろう。対峙したままであれば恩人が死ぬか自分が死ぬか、それともオルカが死ぬか。そのどれかしか有りえないことを。

 オルカが裏切ることだけでしか、もう一つの選択肢が提示されないということを。

 しかしそれは、清廉でどこまでも優しいティリアには受け入れがたいものだった。

 オルカの立場を、底にある根幹を犠牲にすることだから。

 二人はもう、他人ではなかった。

 ここ数か月の時間を経て、想いを交わし、言葉を重ね、相手を知った今。

 どうしようもないくらいに、惹かれ合っていた。

 手を繋ぐことが困難であると認識してても、心が解け合うことは止められなかった。


「それにほら、僕はもう戻れない」


 指差した先に瓦礫に身を埋めた隊長の姿があった。死んではいないだろう。だがきっと目覚めた時、彼はオルカを敵と断ずる。裏切り者の烙印を押すに違いない。

 オルカは朗らかに笑う。どこか吹っ切れた、あどけなさが滲み出ていた。


「正直なところ、嬉しいわ。でも同時に申し訳ない気持ちでいっぱい」

「でもほら――」


 静かに、ゆったりとティリアに近づいていく。

 そして目の前まで来た時、オルカは右手で彼女の手に触れた。


「――やっと手を繋げた」


 細く小さいのに、力強い手だった。暖かくて、優しさに溢れていた。

 ぎゅっと指を握る。微かに握り返してくる感触があった。


「うん。こうして触れ合っただけで、こんなにも心が暖かくなるなんて知らなかったわ。ずっとこうしたかった」


 ティリアがオルカの右手を両手で包む。

 触れ合うことが、後戻りできなくなる一線だって分かっていた。だから避けてきた。


「私の手を握ったからには、もう離すことは許さないわ。知ってた? 私、重いのよ」

「勿論、知っていたさ。命をかけて家族や恩人を守ろうとする君が、重くないわけないだろ?」


 オルカとティリアは同時に吹き出した。

 今までの人生では考えられないぐらいに幸せだった。意思と意思が、心と心とが重ね合わさることが、ここまで嬉しいことだとは思わなかった。


「……ねぇ、ちょっといい? 盛り上がってるとこ悪いけど」


 甘い空気を引き裂くように、冷めた女の声が割って入った。ティリアの後ろで、妙齢の女が呆れた顔で口をもごつかさせていた。


「いやさ、状況が掴めないんだけど……。つまりあたし達を助けてくれるってことでいいかい?」


 姉御肌の女。周囲の枯れ人が彼女を慕っているのが分かる。


「……助けるんじゃない。ティリアを逃がす過程でたまたま助かるだけだ」

「そうかい。なら早くしておくれ。他が来ちまう」

「姐さん! こんなやつ信じるんですか!?」

「そうですよ! 奴は敵ですよ!? 銀樹の民ですよ!?」


 状況に理解が進んできたのか、皆一様に難色を示す。

 しかし、オルカからすればティリア以外は心底どうでもよかった。殺しはしないが、自滅を選ぶならそれまでだ。


「馬鹿野郎!! 今あたし達にできることはねぇ! こいつに助けてもらうしか生き残る方法はねぇんだ! 現実を見ろ!!」


 歯を剥いて吠える女に俯く取り巻き。

 ティリアが手を強く握ってきた。


「お願いオルカ。皆戦うことが得意じゃない人たちなの。ついででいいから彼らも――」

「分かってるよ。そのつもりだ。だけど僕も彼らを信用しているわけではない。だから今回限り、一度だけ助けよう」


 オルカはティリアから離れ、妙齢の女、恐らくこの酒場の主に視線を向ける。そして暫く目を合わせ、視線を切った。

 背後で立ち上がる音がする。

 ちょうど扉から複数の気配が侵入してくるのが感知できた。生き残った術士達だ。

 オルカは右腕を異形に変化させる。灰褐色の怪腕。

 それを振るい、天井、床、壁を無茶苦茶に破壊していく。瓦礫とともに天井に空いた穴から飛び込もうとしていた術士が降ってくる。

 ジークとユリスだった。

 オルカは右足で地面を強く踏んだ。するとそこを起点に灰褐色の大量の樹々が成長していく。のたうち悶えるようにそれぞれが暴れ、術士を捕えていく。


「なッ!? お、おい! オルカ、てめえどういうことだ!!」


 切迫したジークの瞳がオルカを捉える。しかしオルカは表情を微塵も動かすことなく継続して術を行使した。

 多頭の大蛇が如く、丸呑みにせんと食らいついていく樹々が、結界を張る薔薇の一族含め全ての術士を口腔に収めた。

 呼吸する穴だけを残し、身体のほぼ全てを拘束した。


 ――これで、後戻りはできなくなった。


 霊気は、まだ余裕がある。

 振り向き、脅える枯れ人に視線を向けたオルカは一言、

 

「行くぞ」


 とだけ呟いて、そそくさと歩いて行った。

 

―――――――――――

 

「今回の作戦の本命は、君の弟だ」

「でしょうね。私たちは割を食った形ね」

「うん、君の弟は目立ちすぎた」


 術士に枯れ人の区別はつかない。誰が組織に所属しているだとか、どこどこの派閥だとか、そんなこと術士は考慮しない。

 国が危険になれば徹底的に捜査して、潰す。子供だろうが、女だろうが枯れ人ならば関係ない。

 その機会を作ってしまったのだ、ティリアの弟は。


「今頃拠点が包囲されて、総攻撃を仕掛けられているはずだ。殲滅されていなければいいけど……」

「それは大丈夫だと思うわ。リグも含め、幹部連中は異常よ」

「しかし相手は使徒だぞ?」


 それでもティリアは苦々しい表情を浮かべながらも確信していた。


「使徒がどれだけの化け物かは分からない。でも、少なくとも彼らは外界という殺伐とした環境で隠れることなく、身を晒して生きられるような枯れ人達よ」

 

 オルカはそれがどれだけ凄いことなのか分かる。しかし、使徒の名は伊達ではない。また特級術士も複数人いるのだ。彼らの死は逃れようのない未来に思えてならなかった。


「もう少しだ。ビリビリと霊気が伝ってくる」


 ティリアの恩人含め、他の枯れ人は既にオルカ達と別れた。そもそも非戦闘員の多い彼らを連れて行くのは足手まといであるし、信用できない。まだ幾つか拠点があるらしく、そこに移動するらしい。

 オルカはそれを知って、想像以上の彼らの隠蔽、潜伏能力の高さに驚愕した。そして国内全ての枯れ人を総ざらいするには圧倒的に術士の数が足りないことを痛感した。


「リグ――ッ」


 狭隘の路地が開けたその先。二つの力が衝突した。

 二振りの霊刀をそれぞれ両手に、幾枚の銀葉が重なりできた翼を羽搏かせる術士の男と、背から奇妙な樹を生やした枯れ人の男。

 ティリアが枯れ人の方を向いて、リグ、と呟いたことで彼がそうであるとオルカは察した。

 リグの背の樹が悍ましく脈打ち、上半身だけの巨人へと変化する。


「何だ、あれ……」

「あれはリグが自ら生み出した術よ」


 リグが生み出したというより、樹の化け物に寄生されたと言った方がしっくりくる有様だ。

 一方、対峙する術士はジンである。アラヒル家相伝の《銀葉の翼》を背から広げ、二振りの霊刀で戦う姿はまさに《双天のジン》の二つ名に相応しい。


 ――他の術士はどこにいる。


 巨大な霊気がぶつかり合う正面から目を離して、辺りを見まわす。

 倒壊し、一部更地になった場所が見受けられる。


「――!? おいおい、本当に化け物だな、奴ら」


 点々と散在する霊気を凝視すると、そこには枯れ人と術士が相対していた。顔見知りの特級数人と幹部らしき枯れ人の実力者たち。それ以外の術士と枯れ人は確認することができなかった。

 

「私が想像していたより枯れ人が善戦したのね」

「そうみたいだ。……いやどちらかというと我々が彼らを舐めていたんだ」


 作戦決行前、誰もが集中状態の裏に油断を忍ばせていた。積み上げてきた歴史が、洗練された術が彼らを一網打尽にするのだと、信じて疑わなかった。オルカだってそうだった。


「残ったのは今戦っている人だけか。どうする、ティリア」

「止めるわ、リグを」

「この惨状を作り出した奴を、本当に説得できるのか?」

「……もし、あの子を言葉で止められないのなら、私が責任もって殺すわ」


 ずん、と腹に重くひびく、低い声だった。決意と悲愴な覚悟で全身に力が入っている。口は引き結ばれ、顔は青い。

 オルカはそっと彼女の手に自分の手を添えた。

 するとオルカの熱が伝わったのか、強張った筋肉が弛緩していく。


「――ありがとう、オルカ」

「安心して、僕も一緒さ」


 正直、オルカもどうしたらいいか分からなかった。リグを説得し撤退させることが最適なのか、もしくは殺してしまうか。どちらがそれぞれの勢力にとっていい事なのか。

 そもそもオルカはいったいどっちの勢力に属しているのだろうか。術士を攻撃し、枯れ人を逃がしたことでもう樹の国にはいることができないだろう。だからといって枯れ人の側に立ち、術士と対峙したいわけではない。


 ――僕は、ティリアを守りたいだけだ。


 明確なのはそれだけ。

 彼女も決してどちらかの立場に立っているのではない。ただ必死に生きて、弟を救いたいだけ。親しい人に生きてほしいだけ。

 ならば自分は、彼女の生きやすい世界を築けばいいのだろうか。

 それは壮大すぎる話だ。

 しかし小さくとも新しい平穏を創り出し、それを全力で守ることが今は必要なのかもしれない。


「相変わらず、凄いなぁ」


 幼馴染でもあり、親友でもある男。使徒ジンは神速で舞い、木の葉のように不規則にリグを刻んでいく。

 リグは背負う巨人で豪快に戦う。だがジンの速さには到底追い付かず、合間で術を行使してなんとか防御を間に合わせている。

 すると痺れを切らしたリグが巨人に自分を取り込ませる。自らが樹の巨人と化し、右手にこれまた巨大な樹刀を生成してジンに対抗する。


「あの子、あんな規模の術まで使えるようになっていたなんて……」

「だが相当霊気を消耗するぞ。もってあと数分だ」


 霊気が尽きれば術は解ける。当然、リグは無防備になる。

 丸裸となった枯れ人に容赦するほどジンは甘くない。


「僕が、間に入ろう。そして戦いを中断させる」

「駄目よそんなこと! 危険だわ!」


 爪が喰い込むほど手を強く握られた。彼女の甘く凛々しい顔が歪む。金の瞳を濡らし、切実にオルカの無謀を制止しようとする。


「これでも僕、それなりに強いんだけどな」

「でもあなたは使徒ではない。リグも見てわかる通り、それに相当する力を持っているのよ。あの二人を止めることなんて出来るわけない。勝敗が喫したその瞬間に飛び込むことでしか、チャンスはないわ」

「だがそれでは十中八九、君の弟は死ぬぞ。ジンはあれでもまだ余裕がある。敗北すなわち死だ」


 あのジンがそんな隙見逃すはずがない。

 ならばやはり勝敗を有耶無耶にする形で介入するしかない。


「まあ見てなって。なんであの怪物くんと僕が親友なんだか分かる?」


 オルカはティリアの手を離して、一歩踏み出した。


「――僕らは対等だからさ。立場を越えて」


 瞬間、オルカの霊気が噴きあがる。青い煌めきは、前方で暴れる二人に匹敵する、いや優に超えるほど膨大だった。

 ジンとリグが制止した。自分達を遥かに凌ぐ力の出現に、二人の注意はオルカに引き付けられた。


「オルカ、あなたはいったい……」


 左後方で呆然とオルカの背を眺めるティリアが思わずこぼす。


「僕はラウルス家の造り出した刀だ。抜き身の刃。父の言うままに振るい、数多くの枯れ人を殺してきた。だけどいつだったか、自ら鞘でそれを封じた。戦うことが嫌になったんだ」


 オルカの身体を灰の樹が覆っていく。

 白骨のように滑らかで不気味だった。枯死し風化した枝。生命から乖離したような歪な樹の怪物になっていく。


「自分の生の意味を、ずっと考え続けてきた。父に植え付けられたものではなく、真の意味での自分の人生。それが見つかるまで、この力は使わないでおこうって決めた」


 右腕が剣のように鋭く長く伸びていく。

 オルカはそれを軽く振った。

 すると斬撃が大気を切り裂き、ジンに襲いかかった。

 寸前で躱したジンは、空中へ飛翔し、天からオルカを見下ろす。

 これは自らの立場の表明だった。


「オルカ……。やはりお前は優しすぎる。まさか枯れ人なんぞに絆されるとは」

「違うよジン。これは自分で決めたことなんだ」

「ならば猶更理解できん。その決断に何の意味がある」

「それは偏に、自分のためさ」


 オルカは次いで、もう一人の男に青い瞳を向けた。

 リグは突如現れた追加の敵に驚いていた。そして更なる窮地に立たされたことを肌で感じ、冷や汗をかく。

 だがそんなものが吹き飛ぶほどの憤りが後から湧いてきた。

 それはオルカの背に隠れる少女を目にしてだ。


「姉ちゃんッ、そこで何してる!! そいつはあんたの差し金か!? そこまでしてオレの邪魔をしたいのか!?」

「違う!! 私はただリグを止めたいだけ。あなたに死んでほしくないだけ! 態々こんなことする必要なんてないじゃない!!」

「だから何度も言っているだろう!! 母さんも父さんもこいつらに殺されたんだ。無慈悲に殺されていいような人達じゃなかった。オレは許せない!! 二人を殺した銀樹の民が、この国が!!」


 悲痛な絶叫。煮え滾る憎悪と黒い瞋恚。破壊と殺戮。幼児の如き衝動に身を任せ、リグはここまできた。

 若い故の未熟な計画でそれは破綻したが、しかし心に巣くう焔は一向に消えない。

 破滅。たとえ身を滅ぼそうが、せめて目の前の男だけでも道連れにする。

 使徒とは国の防衛の要である。一人でも失えば多大な損失を国に与えられる。両親を追い詰めた馬鹿で非力な民に不安を植え付けらる。小さくとも、当初の想定に満たない損害だろうが、復讐の成就とも言えなかろうが、せめて、せめてそれだけでも……。


「オルカ、私やっぱりリグを止めたい。平穏に生きたい枯れ人も、何も知らない銀樹の民も、絶対に巻き込んではいけない。父さんも母さんもこんなこと望んでいない。ただ私達に生きてほしいだけだったはずよ」


 オルカはそれに眉を上げて、一つ頷いた。

 

「僕には君達枯れ人のことはあまりよく分からないけど、君の気持ちだけは分かる。君が救いたいというのなら、僕はそれを手伝う」


 オルカは一息にリグへ向けて踏み出した。砕ける大地。振りかぶった右腕が軋みながら肥大化し、リグの術に向けて放たれた。

 リグは大剣で対抗しようとするが、無残に打ち砕かれる。そのままオルカは左腕の鉤爪で巨人を引き裂き、肋の大部分を削り取る。

 圧倒的な膂力と神域の霊気。

 崩壊する術。よろめくリグにオルカは異形の左足を尾のように伸ばし、弾き飛ばした。


「もう限界じゃないか。何故そうまでして……」


 リグはジンや他の術士との交戦で消耗しきっていた。肉体も限界だ。

 分からなかった。何故そうまでして、捨て身になってまで戦うのか。

 ティリアとリグの双子の違いは、力を持っていたかどうかだ。力がそうさせるのか、それとも別の何かか。

 考えても仕方のないことではあるが、憐れに思う。復讐に取り憑かれ、それしか考えられなくなった男の末路がこれだなんて。

 オルカは仰向けに倒れ、胸で息をするリグに近づいた。


「――ッ!? 待て、ジン!」


 咄嗟に右腕を壁のように広げ、リグを庇う。強烈な衝撃と音にオルカは歯を食いしばった。


「何故、止める?」


 ジンは両刀をオルカの右腕に振り下ろした形で静止している。

 冷たい碧眼に眩い銀翼。

 もう一度ジンは右の霊刀で間隙からリグを突こうとする。


「だから待てって!」


 腰から枝を伸ばしてリグを掴んで引き寄せた。霊刀が地面に突き刺さる。

 間一髪の救出にオルカは安堵の息を吐いて、そのままティリアの方へとリグを投げ飛ばした。

 ティリアはそのまま自身の役割を全うするだろう。ならばオルカもまた目の前の男と対峙しよう。


「そいつを逃がせばまた同じことを繰り返す。いくら我々を裏切ったお前でも、無辜の民が巻き込まれるのは気が咎めるだろう?」

「当たり前だ。だが今回は僕達に任せてもらう。今まで唯々諾々と従っていたんだ、これぐらいの我儘は通しても構わないはずだ」

「ほう、僕()()ときたか。既にこの場に残すものはないと? ならば微かに繋がった友情の糸すらも俺は断ち切らなければいけないな」


 文言は異なれど、結局ジンの真意は先程から同じだった。

 彼はオルカを引き留めようしているのだ。引き返せるよう執拗に言葉を重ね、考え直させる時間を与えている。


「――ありがとう。本当に君は昔から優しい」


 場違いにも、オルカは感謝を告げた。

 それを聞いて俯いたジンは、目を瞑り口を噤んだ。

 沈黙と埃混じりの風が流れる。

 暫くしてジンは顔を上げると両手の刀を腰の鞘にしまった。そして外衣を翻し背を向ける。

 オルカの意志は変わらぬと悟ったのだ。


「もう二度と顔を見せるな。お前も、そして奴も」


 それだけ言ってジンは去っていった。

 どこまでも優しい男だった。彼は幼い頃からいつもオルカの我儘を聞き入れてくれた。理解を示し、時に支えてくれる。オルカは込み上げてくるものがあった。しかしぐっと堪えてその場を離れた。

 ジンとは真逆の方向へと。


――――――――――――


 ティリアは動けないリグの顔に、遠慮容赦なく拳を叩き込んだ。

 嫌な音が呻きと一緒に響いた。

 オルガが様子を窺うと、そんな暴力的な光景をちょうど目にした。

 そしてティリアはオルカに気づくと手招きした。


「埒が明かないから拘束して連れて行くわ」


 清々しいまでに晴れやかな顔でリグの顔を踏んでそう言った。流石、姉。弟だからと雑な扱いだった。

 きっと説得出来ず、苛立って殴って解決しようとしたのだろう。どうせボロボロで動けないだろうと踏んで。

 オルカは反論することもできず、すごすごとリグを術で拘束していく。

 それを確認したティリアは「ついてきて」とだけ言って、足早に歩きだした。

 何だか怖くて話しかけられず、オルカは大人しく従った。

 そして辿り着いたのは、


「なんで、あたしのとこに来るのよ」


 ティリアの恩人、妙齢の枯れ人だった。

 

「お願い、オルカとリグを匿って」

「嫌だね。いくらあんたの弟だからってそいつが元凶だろぅ? 何しでかすか分からないのを近くに置くのは馬鹿のすることだ。他を当たりな」


 ぞんざいにそう跳ね返した女は、顎で出て行けと扉を指す。

 しかしティリアは負けじと縋り付く。

 イヤイヤと駄々をこね、普段の凛々しい彼女からは想像できない甘えようだ。

 きっとそれだけ信頼している人なのだろう。

 何だかまた彼女の知らない一面を知れて嬉しくなった。自分が決断を下さなければ見れなかった光景だとすると、一段と尊いものに思えた。


―――――――――


 ティリアの強引な交渉の結果、しばらく身を潜める場所を手に入れたオルカ達は、これからのことを話し合った。

 それは彼女の所属する一派を含めて行われた。

 議論は紛糾し、またオルカの存在が場を混沌とさせていた。

 国の状況を踏まえて、行動の決定には慎重を期さなければいけない。リグの起こした事件と、彼らの想定を越えた実力はこれまで以上に術士の警戒を呼び起こした。

 となると枯れ人の生活は圧迫されていく一方だろう。受動的な対応は死を招く。それだけは一致した。


―――――――――――


「ねぇ、本当に良かったの?」


 オルカとティリア。

 静かな空き部屋に二人はいた。

 ティリアは布団に腰掛け、オルカは窓の外を眺める。

 蔦の張った窓は光を遮り、景色をちっとも見せてやくれない。


「くくっ、心配? 僕の心が」


 この問いは二週間の潜伏生活で何度も繰り返された。

 その都度律儀に大丈夫だと、問題ないと、そう答えていたのだが、今回ばかりは趣向を変えてみた。


「だって……、時折そうやって暗い顔するんだもん」


 拗ねたようにティリアは足をぶらぶらとばたつかせる。そっぽ向いた拍子に髪がふわりと舞う。

 少し伸びた柔らかい黒髪は、出会った頃に比べ手入れされて綺麗だった。どうやってかあの女枯れ人は存外に物資を蓄えていて、ティリアはその恩恵を享受しているのだろう。

 オルカは自身の頬に触れ、擦る。


「僕、そんな顔してた?」

「うん、たまに遠くを見るの。心配そうに、何かを置いてきたように」


 心当たりは、あった。

 オルカは深く息を吸って、窓の外に静かに吐き出した。

 そして窓から離れると、ティリアの隣にそっと座った。


「ごめん。後悔はしていないんだけど、……でも思い出してしまうんだ。父上のこと、ジンのこと、部隊の仲間達のこと」


 両手を布団について天井を仰ぐ。

 柔らかい感触に手首が沈む。


「心配、なのかな。それとも寂しい……、のかな? 分からないけど、みんなそれなりに長く付き合ってきた人達だから」

「他人じゃないからね、そう思ってしまうのも仕方ないわ。私はね、あなたが辛い思いをしているんじゃなかって、心配なの」


 オルカの膝に手を置いて、申し訳なさそうに呟く。

 俯き気味に上目でオルカを窺ってくる。


「何も言わずに離れてしまったからね。それだけが心残りかな」


 彼女の左手に自分の右手を添えながら、「まぁ言ったとしても受け入れられなかっただろうけど」と付け加えた。


「私で、よかったの?」


 オルカは体を起こして、両手で膝の上にあるティリアの左手を両手で包み込んだ。

 そして強く熱く握りしめ、彼女の瞳を直視した。


「君だから、だよ。君だから僕は自分の立場も地位も全て投げ捨てられたんだよ」

「でも、そのせいであなたはこれから苦しむわ」

「だとしても、だ。そうでもしなきゃ、君と一緒にいられないんだから」


 薄暗い部屋の中、オルカは陽の光のように笑った。包んだ手を引き寄せ、体勢を崩した彼女の肩を抱き寄せた。


「僕は今、君といられて幸せだ」


 この先、何が起こるか分からない。どうしていいかも分からない。外界へ逃げればいいのか。それとも彼女の生きやすい世界を造るために動くのか。

 それには多くの障害が立ちはだかり、苦痛と困難が待ち受けているだろう。

 だが、それでも――。


「共に行こう、手を取り合って。約束しただろう? もう手は離さないって」


 胸の中のティリアが身動ぎし、顔を上げた。

 彼女の顔は濡れていた。

 精神が不安定になっていたのか、金の瞳が輝いていた。


「うん。今はどうしていいか分からないけど、あなたとならどこへでも行ける気がする。ううん、どこにいても、きっと幸せよ」


 背中にまわされる両手。オルカとティリアが重なる。

 肌寒さを打ち消す彼女の温かさに、オルカは身を委ねる。

 言葉をもう、いらなかった。

 日が落ち、何も見えなくなっても、いつまでもそうしていた。

 今はただ、二人でいられることの幸福を噛み締めて。


 


 最後までお読みいただき、ありがとうございます。初めて書いた小説のため、至らぬ点も多々あるかと思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ