第二十話 二十年越しの抱擁
話を中断し、休憩することにした、ジウォンは、焚き火で暖を取っている。
ジウォンは、衝撃な話ばかりで動揺を隠せないが、どうにか受け入れる事はできている。
自分は、家族皆んなの愛で生きてきたのだと今改めて実感していた。祖母が実の祖母じゃなかったのは少しショックであったが、もう家族で祖母である事にかわりはなかった。次会ったら、夫にはたまには会う様にと苦言を言ってやろう。
母と叔母に会って言いたい。
「お母さん、叔母さん、ありがとう」
ドンフンは、ジウォンの様子が気になっていた。
強がってはいるが大丈夫なのか、この話を聞いて彼女はどう動くつもりか、気になるばかりである。
「ジジイ、その王の証は何故ないとだめなんだ?別に無くても王が死ねば次の候補が王だろ、こだわる意味がわからん」
リンクスは、疑問に思うことを全て聞こうと思っている。
「『暁月の千里馬』がなければ、継承権がある人間全てで投票になります、今まではありませんが。そう言った決まりがあります」
「じゃあそれがあれば俺が国王になれるのか?」
「それは無理です、血筋はもちろん、王に近い力を持つ元老院も認めないでしょう」
「じゃあジウォンならいいのか?」
「もちろん、それが筋ですから」
まだまだ聞きたいことが山積みだ。
「ジジイ、お前らはここで何しているんだ、ジウォンの事も前から知ってた様な言い方だったが」
「私達は、反政府軍です、ユジュンを倒し国を立て直すことを目的として、ここを本拠地としています」
「バックは、KCIAだな」
ドンフンは、明らかに驚いている。
「左様です、流石ですね、KCIAとは、利害が一致しておりますので」
ドンフンは、素直に認めた。
「嫁も反政府軍なのか?」
「テヒは違います、彼女とは、二十年程会っておりません、お互い自分の使命を全うしているだけです、でも今でも愛してますよ」
「ジウォン様の事は、私がミンジュン様を探す旅の途中で、消えたテヒを見つけました、ジウォン様も」
「何故声をかけなかった?」
「最初は、テヒに男が出来たのではと思っていましたが、男の影はなく、赤ちゃんが成長していくたびに、ヨンヒ様の子供のころに似ていくので、もしかと思って調べて知りました、それでテヒとヨンヒ様がジウォン様を隠すためと予想できましたので、ミンジュン様の足取りを探す方に集中しおりました」
「不器用な夫婦だなぁ、でもそんなジジイもおばちゃんも俺は好きだな」
その後もリンクスの質問は続く。
「で、王の証、ジウォンが揃ったらどうするつもりだ?反政府軍の旗印にでもするつもりかい?」
話を遮る様にクーガーが入ってきた。
あの山を、反射神経だけで突破して来たのだ、テヒは、生きた心地はしなかっただろう、頭と腰を押さえながら入って来た。
クーガーの運転でなければ、数時間早く出たリンクス達にこんなに早く合流することはなかっただろう。
コロコロは、よく寝ていたのであろう、目を擦りながら欠伸をしている。
虎之介は、大喜びでコロコロの背中に飛び乗った。
ドンフンは、ある一点を見つめている。
「お探し物は、これでいいか」
クーガーは、リンクスの顔の前に、ルビーをチラつかせて、御満悦な顔している。
「ちょっとそれを貸せ」
リンクスは、ルビーを取りマジマジと見ている。
クーガーは、労いも何も無いので、少々拗ねていた。
「それより、もう囲まれてるぞ、どうすんの?」
この町に入る通りは全て軍と警察に止められている、もうそろそろ町に突入してきてもおかしくないだろう。
「だろうな、まぁ、その内帰るだろ」
何故か気にも止めていない、こういう時は、もう手を打ってあることをクーガーはよく知っている。
「テヒ」
ドンフンは、二十年振りの嫁の顔を見て固まっている。
テヒは、ドンフンの元にゆっくり歩いて行き抱きしめた。
「あなた、お疲れ様です、それにしても年食ったねぇ」
「会いたかったぞ、テヒ…… お前も年食ってるじゃないか」
二人は二十年の月日の思いの分、年甲斐もなく抱き合った。
老夫婦の抱擁、その光景から何故か皆、目が離せなかった。
コロコロと虎之介は、わんわん泣いている。
その二人の前に、ジウォンが来て言う。
「おばあちゃん、良かったね」
テヒは、涙が止まらなかった。
「ずっと嘘をついていて、ごめんね、ジウォン…… まだおばあちゃんなんて呼んでくれるのかい」
「おばあちゃんは、私のおばあちゃんでしょ、だから、ドンフンさんは、私のおじいちゃんですよ」
涙をいっぱい溜めながら、満面の笑顔で、二人同時にハグをした。
***
江原に入る道路の検問では、KCIA長官とソン副長官がいた。
「長官、どうやら突破されたみたいです」
長官は、顔を真っ赤にして怒っている。周りにも当たり散らしてているが、ただのとばっちりだ。
「どうしますか?中に突入しますか?ちなみに山の麓から武装した人間が小隊レベルで入って行ったらしいですが」
長官は、腕を組みながら、右往左往して、悩んでいる。
(だから頭になんかなりたくはない、No.2ぐらいが一番楽だ)
長官が悩むのも無理はない、大統領から、リンクス達をくれぐれも穏やかに国から退去させ、ジウォンを確保せよとの命令だった。
(意外に真面目だからなぁこの人、こんな不可能ミッション、やった振りだけしておけばいいだけなんだが)
「よし、副長官、数人連れて彼らと交渉してこい」
(はぁ、結局、私に振るのね)
「了解しました、ただ、もう少し包囲を狭めて下さい、銃撃戦になったら対抗出来ません、私達が死ねば長官の立場も危ないと思いますが」
(彼らから攻撃してくる事はまずないと思うが、反政府軍はどう出るか分からないからな)
「ば、ばか、そうするつもりだったわ」
「流石です、長官」
「では、行ってきます、期待しないで下さい」
「よ、よし、行ってこい、この国の未来はお前にかかっている」
(疲れるなぁ、上司持ち上げるのも)
ソンは、適当にメンバーを見繕って市内に入る。
(どうせ、もう見られてるよね、こんなに監視カメラがあるのなら)
ソンは、白いハンカチを持ち車窓から手を出して降りながら車を走らせた。
***
「ごめん下さーい」
ソンは、一人で白旗を持ち手を降りながら市場の中に入って来た。
ドンフンの部下達は、皆包丁を持っている。
「すいません、戦う意志は、ゼロです」
コロコロが市場の中を覗き込む。
「おぉ、あん時のおっさんか、おーいリンクス、お前連れて行ったおっさんが来たぞー」
(相変わらずの威圧感だな)
ソンは、コロコロに向かって、ぺこぺこしている。
リンクスが入って来た。
「あら、ソン副長官、まだ中止の連絡来てないのぉ」
「なるほど、その予定何ですね」
「はぁ、まだ来てないんだ、サーバルは何やってんだろ」
「じゃあ連絡が来るまで、私もここで時間を潰しても宜しいですか?」
「ははっ、やっぱソンさん面白いな、裏でバーベキューやってるから食ってけよ、肉売るほどあるから」
(売り物なんだよ…… )
周りに居る人間、皆そう思った。
「ありがたい、お腹ぺこぺこで」
ソンは、ドンフンとは顔見知りで、元々こちらの国でトラブルは起こす気はないことを知っており、どちらにしろ、ここでの会話や、出会った人間については、報告するつもりは無かった。ソンは平穏無事に定年退職したいのだ。
リンクスのスマホに着信がなる。
「うわぁ、出たくないわぁ、虎之介!お前出ろよ」
虎之介に、スマホを渡そうとしている。
「誰?ミア?」
「ジョージ」
「おさるの?大統領の?」
「大統領の」
「えぇー、えぇー、嫌だよ」
クーガーやコロコロは、すぐ離れた。
リンクスは、渋々電話に出た。
「ワッハッハ、リンクス!またトラブルみたいだな、動いてやったんだ、約束は守れよ」
「次の選挙の件?分かってるよ」
「選挙なんてどうでもいい、娘のビアンカの事さ」
「…… ビアンカ?何の約束だよ」
「結婚に決まってるだろ」
「結婚…… 」
(サーバルは何を言ったんだ)
「ワッハッハ、冗談だ、二人で食事に行ってやってくれ、あいつは、お前の大ファンだ」
「食事だけなら…… 」
「まずは、そこからだ、約束だからな、じゃあ」
「あっそうだ、もう一つ、ザイオンのゴタゴタに関わるなよ、じゃあ」
ジョージ大統領は、言う事だけ言って電話を切った。
(アメリカ大統領から直接電話?しかもタメ口?)
周りは皆、そう思っていた。
「何だよ、ビアンカなんてめちゃくちゃ美人じゃねぇか、いつもお前ばっかり、俺にバレない様にこそこそしやがって」
コロコロは、被害妄想が酷い。
「何で、こんな人がいいのぉ、絶対騙されてるよぉ」
虎之介は、不貞腐れている。
(お前ら、俺をどんな目でみてんだよ、それにしてもザイオンに手を出すな、か)
ソン副長官も、電話で話していた。恐らく話がついたのであろう。
「じゃあ、リンクスさん、帰還命令が来たので戻ります、また会える事を信じて」
ソン副長官もリンクスの大ファンであったので、名残惜しんでいた。
ただ、ソン副長官は、一つ気になる事があった、ここに居る人間は誰も武装していない、山の麓で認識された武装集団は何だったのか、最初は、華裔の集団だと思ったがリーダーのウンピョウは見当たらない。
「そういえば、リンクスさん、一つ気になる事が」
『ダッダッダッ、ド、バーン』
その時、市場の表で銃声と爆発音が聞こえた。
「なんだ、なんだ」
皆が、動揺していた。




