表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BAKU  作者: 不覚たん
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/38

相撲の夢を見た(一)

 ふんどしだ。

 ふんどしの男たちが、神社に密集している。

 というか俺までふんどしだ……。ふんどし一丁なのに、腕にパワーストーンだけが装着されている。恥ずかしい。帰りたい。


 なにかの祭りなのか、太鼓がドンドンと鳴らされている。


「今年は勝つどぉ」

「ナメられてらんねぇべしゃ」

「稲葉んとこのせがれもけぇって来たしな」

 酒の入ったおじさんたちが盛り上がっている。


 この地域では祭りの日に相撲をするらしい。

 この地域では、というか、夢の主の脳内では。実在するかどうかは知らない。実在する場合もある。


 突然、背中をパァンと叩かれた。

「痛っ」

「見ねぇ顔だな? 兄ちゃんも出んのか?」

「いえ、俺は出ませんよ。というか、初めて来たばっかりで」

「なんだ、新入りか。ここらじゃ、毎年、盆になると相撲しんだな。ほんで勝てば、来年、豊作になんだ。おもしれぇべ?」

「はぁ……」

 そういう地域の祭りか。

 どいつもこいつも無暗にガタイがいい。

 妙なことをして争うべきじゃないな。


 それはそれとして……。

 Kが、痩せた体を隠して恥ずかしそうにしている。

「え、なにこれ? なにこれ? ボク、どうしたら……」

「参加しなくていい。俺たちは俺たちの仕事をしよう」

「はい……」

 女の子みたいな顔だから、周囲のおじさんたちの視線を集めている。


 俺たちは相撲をする必要はない。

 主を見つけて護符を貼ればいい。

 だが、今回は難しそうだ。

 こんなに人が密集しているところで、護符を貼る余裕があるのか? 貼ったとして、出てきた悪意をどう処理すれば?

 よほど迅速にやったとして……。最近のコマは、すぐに夢を終わらせてくれない。パニックになる前に主を射殺するしかない。


「にぃーしぃー」

 土俵では相撲が始まった。

 大相撲ほどではないが、デカいヤツとデカいヤツ。

 あそこに挟まったら死ぬだろうという予感がある。


 ふんどしの男たちがぶつかり合って、観客のおじさんたちが怒声を浴びせる。

「やれやれぇ! やっちめぇ!」

「ぶっ殺せぇ!」

「アバズレの倅ぇ!」

 マナーもなにもあったもんじゃない……。

 そもそも観客がふんどしである必要はなかろうように思うのだが。おかげで俺たちまでふんどしにさせられてしまった。


 張り出されたリストを見る限り、十番勝負になっているらしい。

 こんなのを十回も見せられるとは。

 実在するのであれば、ぜひ違法行為として取り締まったほうがいい。


 *


 あまり人のいないところへ移動し、ダウジングロッドで主を探査した。

 だが……人が密集しているので、個人を特定できない。

 どうしようもない。


 ガタイのいいおじさんがしかめっつらで近づいてきた。

「おい、お前ら! そんなとこでなにコソコソやってんだ!」

「すいません」

 田舎の出身だから分かる。

 こういう場所に個人の自由はない。

 みんなが集中しているときは、自分も集中しなければならない。

「兄ちゃん、相撲できるか?」

「はい?」

「一人来れなくなっちまったんだ。こっち来い」

「え、いや……」

「来い!」

 強制だ。

 ここに文明の火は届いていない。


 *


「にぃーしぃー、たまだぁくろぉー」

 行司に名前を呼ばれ、俺はやむをえず土俵にあがった。


 相撲の経験は、いちおう、ある。

 あるが、その結果分かったことは、相撲をやってる巨漢はクソ強いということだ。質量はエネルギーだ。正面からタックルを受けるべきではない。ナメていると半殺しにされる。受け身に専念しておかないと、どこかの骨が折れる。


「頼りねぇ体だな!」

「ぶっ殺しちまえ!」

 客がクソなのもイラつく。


「ひがぁーしぃー、たのむぅーさくぅー」

 タノムサク……。タイ人か?

 ムエタイ選手ほどではないが、バキバキに鍛え上げられた角刈りの男が出てきた。巨漢ではない。その代わり、贅肉のないアスリート体型。年齢不詳。まあ何歳でもいい。どう考えても強い。


「行けタノムサク!」

「蹴れぇ! 蹴り殺せぇ!」

 古事記じゃねーんだぞ。

 蹴りは禁止だろ。

 お前が俺の代わりに戦えクソが……。


 タノムサクの表情は真剣だ。

 俺もいちおう真面目な顔で睨んでおく。情報戦はすでに始まっている。


「見合って見合ってぇ。はっけよい!」


 タノムサクが飛び出してきた。

 俺はラジオ体操の屈伸運動のように、足を残したまま横へスライド。するとタノムサクは、その足に引っかかった。

 作戦通り。

 なのだが、タノムサクのスネはアホみたいに硬かった。しかも転びそうな勢いだったのに、転倒せずに身を持ち直し、俺の背後に回り込みやがった。


 行けたと思ったのに。


 そう思った直後、俺は背中に凄まじい衝撃を受けた。

 パァンと大空にまで響くような打撃音。


 こいつ、俺の背中に、ローキックを……。


「ほごおっ」

 俺はなんだか分からない声を出して、土俵に突っ伏した。

 過去にないほどエビ反りになっている。


 飛び交う怒声と紙コップ。

「なにやってんだタノムサク!」

「この恥さらしが!」

「相撲も知らねぇのか!」

「ムエタイじゃねーんだぞ!」

 いや、蹴れって言ったのお前たちじゃ……。


 当のタノムサクも頭を抱えて天を仰いでいる。

 こんなはずじゃなかった、というわけか。


 まあなんだろうが許さねぇがな。

 こっちはしばらく立ち上がれそうにない。折れてはいないと思うが。痛いとしか言えない。


「えー、ただいまの取組、タノムサク選手の反則行為により、西の玉田九郎さんの勝ちとなります」

 観戦していた神職がマイクでそう告げると、観衆はまた好き放題に怒鳴り散らした。


 *


「玉田サン、ゴメンナサイ。キック、出てしまいマシタ。わざと違いマス」

「うん……。もういいから……」

 神社の脇のほうで、俺はひたすら謝罪を受けた。

 タノムサクは悪い人間ではなかった。ただ、スイッチが入ってしまい、闘争心に火がついただけなのだ。まあ許さねぇがな。

 だいたい、ムエタイだって相手の背中からは蹴らないだろう。

 生物としては強いのかもしれないが、スポーツをやっていい人間ではない。


 Kも心配そうに近づいてきた。

「お水、もらってきました」

「ありがとう」

 本当にありがたいんだが、ちょっと吐きそうだ。

 これが現実世界での出来事じゃなくてよかった。


「ゴメンナサイ、玉田サン。ワタシ、手伝いしないとイケマセンですから。あっち行きタイ」

「ええ。どうぞ。お気になさらず」

「ゴメンナサイ。ゴメンナサイ」

 キックさえしなければいいヤツなんだろう。

 たぶん。


 試合は盛り上がる一方だ。

 もう俺の犠牲などなかったかのように「殺せ」の声が飛び交っている。


「背中も痛いけど、足も痛い……」

「すごい音しましたよ」

 スネに小さなコブができている。

 ああいう鍛えてるヤツとは二度と戦いたくない。


「痛いですか? ボク、湿布もらってきましょうか?」

「いや、大丈夫。それより、主の目星は?」

 もうコソコソ喋っていても大丈夫だ。

 試合を終えた俺を、白い目で見るものはいない。参加しないものは異物だが、参加すればまあまあ許容される。それが田舎の雰囲気だ。反則行為による負傷者でもあるわけだしな。

「西側に反応があるのは分かりました。けど、それ以上は」

「できれば、もう少し絞り込みたいな」


 真剣な話をしていると、突如、どこかに雷が落ちた。

 ピシャーンと大地へムチ打つような、凄まじい衝撃。


 俺たちはただ茫然と、感覚が戻るのを待った。

 天気はよかったのに、急に雷が落ちてきたなんて。


「おい! 稲葉の倅が打たれたぞぉ!」

「なんだとぉ!?」

 おじさんたちがどよめき始めた。


 神職がマイクを手に取った。

「これは……これは天罰に違いありません……。神がお怒りになっておられるのです」

 どよどよ。


 はい。


 さすがにこの展開は読めなかった。

 というか、ありえないだろ。最初からホラーならともかく。相撲の途中に天罰などと……。主の頭がどうかしているのか? それともコマの術が不安定になっているのか?


 ズーンと音がして、人とは思えぬ大男が土俵にあがりこんだ。

「人間どもめ、腑抜けた相撲をしおって……。この相撲の神が本当の相撲というものを教えてやる。我こそはと思うものは土俵へあがれぇい」

 背は3メートルほどあるだろうか。

 いや、凄いのは背丈のみではない。全身の筋肉もゴリゴリと盛り上がっている。ねぷた祭りの山車に乗ってるヤツが、そのまま現れたみたいだ。


 その前に、相撲の神ってなんだよ、という問いはあるが……。

 まあ、ああいう意味不明なのは無視していい。

 あきらかに主ではない。

 俺たちの仕事とは関係がないのだ。


「ワタシが行きマス」

 タノムサクが土俵にあがった。

 こいつ、正気なのか……。


 神はギロリと目を動かした。

「ほう。気骨のある人間だな。名を聞こう」

「タノムサク」

「どっせぇい」

 名乗った次の瞬間、神の手が振り下ろされて、タノムサクは土俵の染みとなった。

 肉片が飛び散って阿鼻叫喚の地獄絵図だ。


「次の人間はどいつだ?」


 普通の相撲だけやっておけばよかったものを。

 こんなクソ展開だって分かってたら、俺だって痛い思いをしなくて済んだのに。


 問題は、誰も逃げ出そうとしなかったということだ。

 一致団結して、なんとかしてこの「神」に相撲で勝とうとしている。

 もはや相撲ですらないと思うが……。


 まあいい。

 夢に正気を求めるほうが間違っているのだ。

 俺たちは、俺たちの仕事に専念したほうがいい。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ