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BAKU  作者: 不覚たん
第二章

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毛玉の夢を見た(三)

 謎の島、再び。

 ここの主はあきらかに俺たちを警戒している。その上、なにかに怯えていて会話も成立しない。近づけば自爆。

 バクの言う通り、島の謎を解決しなければ進展はないのかもしれない。


 とはいえ……。


 俺はKと砂浜に立ったまま、どうにもできずにいた。

 こないだトキに会ったタイミングで、ここの謎についても聞いておけばよかった。


「さて、どうしたもんかな……」

 青い空を見上げながら、俺はつぶやいた。

 せっかくの見晴らしなのに、視界の端にチラチラそいつが映り込む。

 確実に「いる」のに、それがなんだか分からない。


「うーん。考えたんですけど、ボクたちを見張ってるヤツって、たぶん普通の生き物じゃないですよね?」

「おそらく」

「もし超常的な存在なんだとしたら、この島にヒントがあるんじゃないでしょうか? なんか祠とか」

「なるほど。探してみよう」

 祠、か。

 いい思い出がない。


 この日当たりもよく、風通しもいい島で、ホラーの要素はちょっと考えにくかったが。だが現に、なにかに付きまとわれている。少年の推理は正しいかもしれない。


 錆びたガードレールを追いながら、俺たちは港を目指した。

 まずは人のいるエリアを調べて、手掛かりを探す作戦だ。

 喫茶店には入らない。

 入ったら終わる。


 *


 今回、港にバクの姿はなかった。

 あいつはここの主に死んで欲しくなかっただけで、俺たちを助けたり妨害したりしない。なぜ妨害してこないのかは分からないが。


 まずは小さな駐在所に向かった。

 もちろん無人。

 なぜ人がいないのかは分からない。この夢のモデルとなった島に人がいないというわけではないのだろう。この夢から他者を排除しているのは主だ。意図してか、あるいは意図せずかは分からないが。


 だが、駐在所といっても……。

 地図くらいしか使い道がない。

 小さな島だ。ほとんどの住宅は港の近くにある。だが外周に沿ってぽつぽつあるくらいか。まあ人の住んでいる痕跡はあるのだ。人がいないだけで。


 あとは……島の中央に大鳥神社というものがあるようだ。

 そこへ行ってみるか。

 気が進まないけど。


 少年はじぃっと地図を見つめていた。

「Qさん、このアニマルセンターって気になりませんか?」

「アニマルセンター?」

 どこにでもありそうな名称だが。

 少年はなにが気になったのだろうか。

「だって、こういう島って、たぶん必要のないものは作りませんよね。アニマルセンターがあるってことは、動物がいっぱいいるってことだと思うんです」

「まあ自然に囲まれてるからね」

「でも変じゃないですか? ボクたち、動物見かけてませんよ?」

 その通りだ。

 確かにおかしい。

 動物もいないのに、アニマルセンターだけがある。まあそれを言ったら、人もいないのに家だけはあるわけだが。


 ん?


 人や動物がいないのは、単に主にとって興味がないだけでなく、なにか重要な意味でもあるのだろうか。


 夢というものは、主の想像力によって構築される。

 この夢に関しては、コマの術や、俺たちの意思も関与していたりするから、一般的な夢とは異なるが。それでも主のイメージがデザインの基礎となっている。

 主が他者の存在を重視していない場合、夢の世界にも人は登場しなくなる。

 動物も同じ。

 逆に、存在するものは、主にとって重視されている存在。なんらかの役割を与えられた存在。


「うわあっ」

 少年がびくっと身を震わせた。


 敵か!?


 いや、柴田だ。

 椅子に拘束された柴田が、血走った目で駐在所の外にいたのだ。中に入ってくればいいのに。


 俺はわざわざ外に出てやった。

「どうしたんです? なにかご用ですか?」

「てめぇら……ぶっ殺すぞ……」

「はい?」

 こいつは口が悪い。殺害予告も挨拶のようなものだろう。俺が友人だったら注意しているところだが。まあこいつは他人なのでどうでもいい。


 柴田は苦しそうに呼吸を繰り返している。

 人の夢に入り込むだけでも命がけなのだろう。

 家で休んでいればいいのに。


「てめぇらがいつまでもてこずってやがるから……この俺が出動を命じられたんだろうが……」

 ということは、間宮氏に言われて来てくれたのか。

「俺たちにご協力いただけると?」

「ここは四国にある離島だ。人口は百もねぇ。んで……ぐっ。クソッ。住民の大半は漁師。農家もいる……。特になんてこたねぇ島だ……」

 喋りながら鼻血まで出している。

 そのうち死にそうだ。

「その情報を伝えにわざわざ?」

「あとは、ネコがいる島として……少し有名らしい……。くだらねぇ……。なんでこんなこと言うためにわざわざ俺が……」

「他には?」

「駐在所はここだけ。神社は……継ぐやつがいなくなったから、もう機能してねぇ……」

「喫茶店についての情報は?」

「喫茶店? 知るかボケ……自分で調べろ……」

 島については調べてくれたのに、喫茶店に関しては情報ナシか。

「あそこに主がいるんだが」

「だからよぉ……。そういうことは先に言っておけよクソがよ……。お前が間宮に報告しねぇから、大雑把な情報しか出せねぇんだろうが……」

 鼻血どころか、口からも少しずつ血を流し始めた。

 もう限界だろう。

「分かった。分かりましたよ。貴重な情報をありがとう。次からはちゃんと報告するよ」

「次だぁ? もう呼ぶなボケが……ぶっ殺すぞ……」

 俺が呼んだわけじゃない。

 柴田は力尽きたらしく、すっと姿を消した。

 最初からいなかったかのように。


 少年は誰もいなくなった空間を、いろんな角度から覗き込んだ。

「うわ、消えちゃった。あの人、自分の力でここに入ってきてるんですか?」

「そういう能力者らしいね。まあ自力というよりは、機械を取り付けられて、なかば強制的に、って感じだけど」

「え、こわ……」

 本当に怖い話だ。

 俺にその才能がなくてよかった。

 まあ柴田の場合、そもそも死刑囚らしいから、自業自得という気もしなくもないが。


 しかしネコの島か。

 それならアニマルセンターがあるのもうなずける。

 神社より先に、そっちを覗いてみるか。


 *


 アニマルセンターという名の、小さな事務所。

 受付があり、デスクとパソコンが置かれている。人の姿はないが。自分たちで印刷したと思われるパンフレットには、ネコの保護に関する情報が載っていた。餌をやらないこと。過剰に接触しないこと。ゴミを捨てないこと。勝手に私有地に入らないこと。そういう常識的な内容だけ。


 バックヤードを覗き込むと、いくつかのケージが設置されていた。

 もちろん動物の姿はない。

 小さなケージしかないところを見ると、ネコ専用なのかもしれない。


「あの、Qさん、これ……」

「えっ?」

 バックヤードには、一枚のプリントが貼りつけられていた。

 カラー印刷。

 事務所の監視カメラで撮影されたらしい女の姿が映されており、大きな文字で「要注意!」やら「ねこちゃん連れ去り犯?」と記載されていた。

 間違いない。

 喫茶店に立てこもっていた女だ。


 俺はつい溜め息をついた。

「この女、島でトラブルを起こしてたのか……」


 住民がいなかったのは、女が会いたくなかったから。

 ネコがいなかったのは、会わせてもらえなかったから。

 そう考えると合点がいく。


 だが、そうなると謎の気配は……?

 ネコ、なのか?

 そういえば女は「なんで姿を見せてくれないの」と喚いていた。まるで会いたいのに会えないかのような。そう。彼女はそいつから逃げていたのではない。会いたかったのだ。


 俺は少年に尋ねた。

「なあ、ネコの鳴きまねは得意か?」

「えっ?」

 引いてしまった。

 まあそうだな。今のは俺の言い方がよくなかった。

「いや、あの女を店の外に誘導しようと思って。たぶんあいつ、異常なネコ愛好家だろうから」

「にゃ、にゃあん……」

 照れながら言うな。

 というか俺の前で言わなくていい。

 くりくりした目でこっちを見つめてきやがって……。


「うん、その作戦はやめよう」

「ダ、ダメですか?」

「もっと汚い鳴き声のほうがよかった」

「汚いほうが……?」

「いや、チャレンジしなくていいんだ。いまのは俺が悪い。もっとちゃんと考えてから発言すべきだった」

 なぜちょっとやる気なんだ、この少年は。

 確かに小動物っぽさはあるけども。


 俺は咳払いをし、なるべく汚い声で鳴いた。

「゛ん゛にゃ゛あっ」

「……」

「やっぱダメだな。すまん。どうかしてた」

「いえ……」

 あわれむような目。

 やはり別の作戦でいこう。


 *


 俺は一人で喫茶店に入った。

 もちろん女もいた。

「え、また!? なんで来たの! 止まって! それ以上、近づかないで!」

 今日も体にダイナマイトを巻いているし、床はガソリンまみれ。およそ模範的な喫茶店の姿ではない。


 俺はできるだけ冷静に言った。

「待ってくださいよ。さっき外でネコと遊んできたから、疲れて喉がカラカラなんですよ」

「えっ? ネコちゃん……? いるの?」

 やはり乗ってきたか。

 愛好家というよりは、もはや中毒なのかもしれないな。目がキマりすぎている。

「ええ。最初いないなぁなんて思ってたら、急にどこからか出てきて」

「いるの? 外に?」

「海岸のほうにいましたよ。いっぱい。いやー、かわいかったなぁ」

「本当に? ネコちゃんが? ウソじゃないよね?」

「ウソってなんですか? あんなにいっぱいいたのに。いまだったらまだ会えますよ」

「行かなきゃ!」

 女は店を飛び出した。

 罠とも知らずに。


 店を出た瞬間、女はヘッドスライディングのように地面へ突っ伏した。

 ロープに足をとられたのだ。

 待機していた少年が、手際よくライターを回収する。


「痛いッ! え、なに? なんなのこれ!?」

 苦情を言いたい気持ちは分かる。

 だが前回、対話で紳士的に説得しようとしたのに、彼女は爆発で応じたのだ。もはやかけるべき情はない。


 俺は問答無用で彼女の背に護符を貼った。

「んおっ!? おげぇっ!」

 まるまる太った蛭子が、口からぬるりと飛び出した。

 少年がその白い生物にナイフを突き立てる。


「ひっ!? ひーっ! なにっ!? なにこれぇ!?」

 怯えるのは分かるが、実際の身体に寄生されているわけではない。

 まあ、だからこそ厄介でもあるのだが。


 ともあれ、これで仕事は終わりだ。

 あとはコマが術を解けば済む。


 だが、夢は終わらなかった。

 気配を感じて振り返ると、どこに隠れていたのか、様々な模様のネコがこちらへ向かって歩いてきた。人に慣れているのか、警戒した様子はない。


「ネコ……ちゃん……」

 女は伏したまま、ネコに手を伸ばした。

 こんな状況でもまだネコか。


 だがそのネコたちは、女に近づいてきたのではなかった。

 目的は、女の吐き出したぷりぷりの肉。

 たくさんのネコたちが、蛭子の死骸にわっとが群がり出した。


「いやぁっ! ネコちゃん! やめて! そんなの食べないで!」


 愛らしいネコたちが、野生をむき出しにして、顔面を血まみれにして死肉を貪っている。

 非常に汚い。

 ほとんどの動物は、メシのときにお行儀よくしないものだ。食事のマナーを持っているのは、オランウータンと人間くらいのものだろう。賢いとされる犬でさえ、食事のときはしばしばトラブルを起こす。


 女は喚き続けている。

 ネコは必死で肉を奪い合っている。


 俺はただ、この夢が終わるのを待っている。


(続く)

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