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BAKU  作者: 不覚たん
第一章

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27/38

バクの夢を見た

 灰色の街だ。


 俺はまた夢の世界に来ていた。

 手にパワーストーンのブレスレットがついているから、間違いない。俺は現実世界では絶対にこんなものをつけない。


 どこかの駅前だろうか。

 バスのロータリーがあり、店も並んでいるのだが、歩行者の姿がない。すべての看板の文字がぼやけている。よく見ると標識もおかしい。あらゆる記号が歪んでいる。


 現場にいるのは、俺含めて四人。

 例のクローズドサークルの少年と、田中、そして見知らぬツーブロックのデカブツ。


 いや、もう一人……というか一体。コンビニの上に、毛むくじゃらの巨大なバケモノがうずくまっていた。アリクイみたいな外見。

 自己主張が激しすぎて、自己紹介してもらうまでもない。こいつがバクだろう。


 そいつは苦しそうに呼吸をしながら、大きな眼球でこちらを見下ろして言った。

「お前たち、バカだろ? 自分たちがなにに使われているかも知らないくせに、言われるままヒーローごっこか?」

「……」

 誰も返事をしなかったので、俺も黙っていた。

 きっとなにか用があって呼び出したのだろう。単に俺たちを殺すつもりなら、四人も呼ぶ必要はない。一人ずつ呼び出して喰えば済む話だ。各個撃破というやつだ。


 田中が腰を抜かしてへたり込むと、バクは愉快そうに笑い、長い舌でペロリと鼻を舐めた。

「俺の名はバク。悪夢を喰う存在として知られている。お前たちも知ってるよな? 大物だぞ。ひれふせ、ひれふせ」

「……」

 ひれふしたらどうにかなるのか?


 俺は手にマウザーを召喚し、こう尋ねた。

「本題は?」

 するとバクは不快そうにぐぅとうなった。

「小者めが、偉そうに……。お前は本当に気に食わんな。弱いくせに、あらゆる問題を解決できると思い込んでいる。トキめは、なぜこんな人間に興味を示す? 身の程をわきまえろ。お前ごときにできることはない」

「戦いたいならそう言えよ」

「戦う? ふん。それもいいが、今日はもっと面白い余興を用意しているぞ」

「余興?」


 まさかとは思うがこいつ、いま、戦いを避けたのか?

 コマの話では、バクは悪意の種を撒いてはいるが、まだ本格的に仕掛けていないのだと言っていた。隠れているのだと。派手な動きをすると、人間たちに目をつけられるのを知っているのだ。コマがそうであったように。

 人と戦えるほど回復していないのかもしれない。

 もしそうなら全員で仕掛ければ勝てる。

 やるか?

 だが、連携を取れるかは分からない。田中はすでに戦闘放棄している。デカブツも田中の仲間だろう。少年は……いったいどちらの味方なのやら。


 バクはまた鼻を舐めて笑った。享楽じみたニヤケ面だ。不快と言うほかない。

「お前たち、チームを作って競い合え。先に主を見つけて、悪意を引きずり出したほうの勝ちだ」

「勝つとなにがもらえるんだ?」

「バカ野郎。なんで俺サマがお前たちに施しを与えなきゃなんねぇんだ? これは罰なんだよ。俺のグレートなプランを妨害したことへのな。だから勝ってもなにもねぇ。その代わり、負けた方には罰を与える」

「罰?」

 脇で田中が「ごめんなさい! もうしません! 許してください!」などと騒いでいるが、俺たちは無視した。


「ああ、罰だとも。お前たちの大事な人間に、俺サマの悪意の種を仕込んでやる。とびきり威勢のいいのを、奥までずっぽりとなぁ。もちろんコマが手を出せないよう、俺が保護する。ねっとりじっくり長ぁく味わってやるからなぁ? ん? どうだ? 嬉しいだろ?」

 クソだな。

 いますぐぶち殺したほうがいい。


 だが、俺は少し考えて、こう尋ねた。

「大事な人間って?」

 両親はもう死んでいる。

 祖父母は生きているが……。あいつらは、借金ができた途端、俺たちを見捨てた。連中に悪意を仕込まれたところで、痛くもかゆくもない。むしろ大歓迎だ。

 俺は家庭を持っているわけでもない。付き合っている女もいない。C子は……そもそも書類上の夫婦でしかない。彼女には加護もあるし。


 バクはぐふぐふ笑った。

「んー、そうだなぁ。お前には家族がいないもんなぁ? でも、しらばっくれるこたぁないだろ? なっ? いるよなぁ? とびきりのターゲットが。えぇ? 病院で寝てる女。A子とか言ったか? あいつのハラの中に、俺サマの特別ぶっ濃いのを仕込んでやる」

「お前、ちょっと降りてこい。近くで話をしよう」

「ぐっふぅ。怒ってる、怒ってる。勝てばいいんだよ、勝てば。簡単だろ?」


 俺はただ挑発したわけじゃない。

 先ほどの仮説が事実なのか、確認したかっただけだ。


 なぜ俺たちに直接仕掛けてこない?

 なぜ第三者を巻き込む?

 コマの加護があるから、直接的な攻撃ができないのか?

 つまりいま、俺たちにとって最大のチャンスなのでは?


「よし、じゃあ始めろ。お前たち、勝っても負けても、帰ったらちゃんとコマに聞くんだぞ? なんでこの俺サマにいじめられたのか。そして後悔しろ。手を引け。話は以上だ」

 それだけ告げると、バクはふっと姿を消してしまった。


 クソ……。

 こんなケースは想定していなかったから、すべてが後手に回ってしまった。


 デカブツがこちらへ向き直った。

「田中、前に言ってた男ってこいつか?」

「そ、そうです! そいつです! そいつが俺を殴ってきたんです!」

 はて?

 そんなことがあっただろうか。


 デカブツはずんずん距離を詰めてきた。

「お前さぁ、分かってんのか? いちおう仲間だろ? 自分が活躍したいからって、調子の乗ってんじゃねーぞ? あ?」

 筋肉質という感じではない。

 だが、体重はありそうだ。

 べつにナメているわけじゃない。プロの格闘家が体を絞っているのは、体重制限があるからだ。ないなら絞らなくていい。つまり、適度に脂肪のついているほうが有利なのだ。こいつが適度かどうかはともかく。


 デカブツは勝手な演説を続けた。

「悪ぃんだけどさ、お前には負けてもらうわ」

「はい?」

「こっちも大事な人間守りてぇんだわ」

 大事な人に悪意を植え付けられたくないから、勝ちを譲れということか?

 こいつは、なぜ被害者みたいな立場で話を進めているのか? 田中が言ってくるならともかく。まあ田中と同じチームではあるか。


 俺は呼吸をコントロールして、心臓の跳ねそうになるのを抑えた。さすがにデカブツは緊張する。

「それ以上、近づくな。距離をとって会話しよう」

「あ? なに命令してんだ?」

「お願いかも?」

「あ?」

 お?

 ダメだ。言葉が通じない。

 もう距離に入っている。


 俺は体を大袈裟に傾けながら、ローキックを放った。ローキックというか、いつぞや流行ったカーフキック。外側から刈るように蹴った。

 俺が避けた空間を、男の拳が通り抜けていった。


「いッ……。クソ……。なかなかやるじゃねーか。なんかやってたの?」

 露骨に痛そうにしながら、デカブツは一歩後退した。

 まあ痛いだろう。

 かなりウマく入った。

「なぜお前たちみたいな人間は、取り返しのつかない状態になってから、なにをやっていたのかを聞くんだ? やってたらどうで、やってなかったらどうだって言うんだ?」

「待てって。ちょっと試しただけだろ」

「……」

 俺は身をかがめて踏み込み、ボディにストレートを叩き込んだ。肝臓に一撃。敵が後退していたせいで、深くは入らなかったが。

 デカブツは後退を続けた。

「いや、待てって。なに本気になってんだよ? バカか!」


 俺は自分より強い相手とは戦いたくない。

 戦うとしたら、フェイントを使う。

 まともにやるだけバカみたいだからな。


 後退していたので、距離をつめて足を払った。

 デカブツは尻もちをついた。

 その顔面へ、爪先でケリを叩き込む。

「ぶへっ」


 俺の攻撃はどれも直撃したはずなのに、こいつは足払いをするまで倒れなかった。この転倒にしても、試合ならダウンではなくスリップ判定だろう。つまり俺の攻撃は、どれも致命傷を与えていない。

 ウェイトのある相手というのは、これだからイヤなのだ。逆にこちらは、一撃でも食らったら立てなくなる。

 そしてさらにムカつくことに、この手の輩は、少しでも技をおぼえたら俺より強くなる。

 だから勝てるうちに潰しておかなくてはいけない。

 徹底的に。


 *


 数分後、デカブツは死体になった。

 素手で人の命を奪うのは難しいというが……。まあ殴って殺すのはそうだろう。だが重力を使えば難しいことではない。

 もし現実世界でやったら、確実に逮捕されるし、とんでもない額の損害賠償を請求されると思うが。

 でも、まあ、夢の中だからな……。


 田中はへたり込んでいたが、急に我に返って逃走を始めた。

 いや、主を探すために移動したのかもしれない。

 いくら無益なケンカに勝ったところで、先に主を見つけられてしまったら敗者となる。


 少年が、おそるおそるといった態度で近づいてきた。

「え、死んでるんですか……?」

「おそらく」

「ヤバ……」

 まじまじと見つめている。

 無人島で人を殺しまくってた人間が、いったいなにを驚いているのか。


 さすがに俺の呼吸も、手も、震えていた。

 余計な力を込め過ぎた。


「それより、主を探そう。あいつに先を越されたらマズい」

「あ、こっちです」

 少年はダウジングロッドを手にしていた。

 田中が逃げたのとは別方向。

 あいつが無計画な人間で助かった。


 *


 主はすぐに見つかった。

 寝たきりの老婆が、ゴミだらけの路地裏に放置されていたのだ。

 この状況は、老婆自身の不安の表れなのか。それともバクによるものなのか。いずれにしてもやるせない気持ちになった。


 俺が護符を貼りつけると、老婆は苦しそうにもだえながら、細い体をのけぞらせて悪意を吐いた。ぬめぬめした白い肉塊。顔をしかめた少年がナイフを突き込み、命を絶った。


 夢はそれでも終わらなかった。

 だらだらと、無駄な時間を貪るかのように。


 うつろな目の老婆は、かすれた声で「ひ、人殺し……助けて……」などとつぶやいている。

 すぐにでも夢が終わらなければ、この老婆は命を失うだろう。

 すると年単位で寿命を喰われることになる。


 早く終わって欲しい。

 早く。


(続く)

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