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BAKU  作者: 不覚たん
第一章

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幽霊船の夢を見た(二)

 薄暗い船の中を進んでいると、床に骨の散っているのが見えた。

「これがスケルトンだ」

 野人が説明してくれた。


 スケルトン……。

 まあ想像通りの骸骨なんだろう。ゲームなんかだと基本的にザコ扱いだ。適当にどつけば死ぬんだろうと思っていた。

 だが、骨と一緒にサーベルまで転がっているではないか。


「こいつら、武装してるんですか?」

 俺の問いに、野人は振り返った。なんでもない顔で。

「まあな」


 まあな?

 なんでそんな簡単に言うんだ。

 こいつら、刃物を振り回してくるんだぞ?


 野人は肩をすくめた。

「いや、そんなに緊張しなくていい。強いわけじゃないからな。問題は、数が多いってだけだ。やっぱり戦いってのは、数の優位なんだよな。一体一体は弱くても、後ろに回られたらどうしようもない」


 すると少年も補足してくれた。

「じつはボクたち、この夢、二回目なんです。前回もヘルプを頼んだんですけど……。男の人が二人きたけど、全然ダメで」

 四人でやってダメだったのか?

 なら今回も四人では足りないのでは?


 野人は棍棒を肩に担いで溜め息だ。

「あの田中って野郎、口ばっかりでよ。いざ敵に遭遇したら、まっさきに逃げやがって」

 田中、ここでも迷惑をかけたのか。

 まああいつはいないほうがいいだろう。コマもあんなヤツは即座にクビにしたほうがいい。害しかない。


「あいつはダメですね。もう一人は? どんな人物でした?」

 あとは少年の父親しかいない。

 もし二人が鉢合わせたら、おそらく気まずくてコマの仕事どころではなかろう。


 少年は小首をかしげ、斜め上を見た。

「名前は……おぼえてませんけど。がっしりした人で。田中さんが逃げたら、それを追ってどこかに行っちゃいました。たぶん死んだんだと思います」

 なら俺の知らない人物か。

 コマはかなりの人間を使ってこの仕事をさせているようだ。


 ともあれ、前回も四名で挑んだわけではなく、結局のところ二名で挑んだというわけだ。

 今回は、仮にC子が逃亡しても、俺は残るから、前回よりはマシかもしれない。いや、C子だけ悪く言うのはフェアじゃないな。俺も逃げるかもしれない。


「それにしても、なんでスケルトンどもは主を守ってるんです?」

 俺の問いに、野人は肩をすくめた。

「さあな。そういう願望でもあるんだろ」

 よく知りもせずに勝手なことを言うものだ。

 それは思考放棄なのでは?

 いや、この男、見た目こそ野人っぽいが、わざと乱暴に言っているふうにも見える。乱暴というよりは、皮肉屋なのかもしれない。世捨て人というか。


 野人が足を止めた。

「このドアの向こうにいる。大量にな」

 歩き回っているらしく、骨の足がコツコツと木の床を叩く音がしている。それも、かなりの頻度で。あちこちから。

 俺はつい笑みを浮かべた。余裕だったからじゃない。状況が異様すぎて笑うしかなかった。

「作戦はあるんですか?」

「じつはある。まず、この少年が敵陣に突っ込んで場をかき乱す。するとスケルトンは少年に気を取られるから、俺たちはその後頭部を粉砕して回る。以上だ」

 以上?

 異常の間違いじゃないのか。

「その作戦は……成功したんですか?」

「おい、なんだその目は。まあまあうまくいったんだよ。ただ、人手が足りなかった。それはもう説明しただろ」

「ええ、まあ……」

 その通りだ。

 成功していたら、彼らは二回も同じ夢に介入しない。


 野人は気まずそうに咳払いした。

「いいか? 俺たちだって、もっとマシな手段があるならそうしてる。だが、思いつかないんだ。しょうがないだろ。それともなにか? あんたにはあるのか? ならぜひ教えてくれ」

「ないです」

「結構。じゃあ俺のプランで行こう。気を悪くしないでくれよ。俺たちは敵じゃない。仲間だ」

「もちろんです」

「じゃあ、ドアを開けるぞ」


 仕方がない。

 実際にやった人間が、あと一押しだと言っていたのだ。その予想が正しいかはともかく。賭ける価値はある。いやないかも。分からない。やるしかない。


 ドアが開くと、少年が信じられないスピードで駆けた。

 吹き抜ける風のように。

 室内にはサーベルを手にしたスケルトンがいた。数えきれないほど。そいつらが一斉に少年に狙いをつけた。


「よし行くぞ!」

 野人がドタドタと駆けて、棍棒を振った。

 直撃して、木っ端微塵に弾け飛ぶ頭蓋骨。人の形をしていた骨は崩れ落ち、カラーンと渇いた音を立てた。


 俺も出遅れるわけにはいかない。

 金属バットを握りしめて、スケルトンの頭部へフルスイングする。スコーンと抜けるような手ごたえ。勢いあまって振り過ぎるくらいに。

 骨は四散。

 一体目は楽勝。


 だが、スケルトンはすぐに俺たちの存在にも警戒し始めた。

 この突進力のない突撃で、奇襲の意味はあったのだろうか……?


 スケルトンの動作は緩慢だった。刃物を振り回してはくるのだが、あまり本気とは思えないスピード。腕力がないのだろう。そもそも筋肉がない。それを言い出すと、どうやって動いているのか考えたくなるが……。


「ふんっ! ふんっ!」

 ぶっとい棍棒を、野人はぶんぶん振り回している。

 俺の三倍は倒している。


 本来、人骨はカタい。

 なにせ直立する人体を支えるフレームなのだ。頭蓋骨は最強にカタい。脳を守るための砦だ。本来、バットでフルスイングしたくらいで四散しない。

 きっとここのスケルトンは、老朽化しているという設定なのだろう。中身が入っていないから、ショックを吸収できないというのもあるか。


「死ねぇッ!」

 突如、凄まじい騒音が響き渡り、C子が突撃していった。

 手にしているのはチェーンソーだ。木刀では不安になって変えたのか。

 むやみに突撃しているのではない。まずはサーベルを振ろうとしている腕を切断し、それから頭蓋骨を削っていた。

 この女、あまり怒らせちゃいけないタイプだな……。


 *


 この作戦と呼んでいいのか分からない作戦で、俺たちは場のスケルトンに勝利した。

 ひとまずは。


「よし、このフロアは片付いたな」

 野人はそんなことを言った。


「このフロアは? 他のフロアもあるってことですか?」

「その通りだ。察しがいいな。まだまだ戦えるぞ」

「嬉しくないですね。こっちはバーバリアンじゃないんですから」

「奇遇だな。俺もバーバリアンじゃねぇよ。へへへ」

 楽しそうに笑う。

 間違いなくバーバリアンだろ。


 C子も困惑している。

「え、もうヤなんだけど。怖いし」

 チェーンソー持ってるヤツが一番怖いんだが。

 まあ分からなくもない。


「大丈夫だよ。次もスケルトン、その次もスケルトンだから。たぶん全部スケルトンだろ」

 素晴らしい推論だ。

 感動しすぎて涙が出る。


 それにしても、クソみたいなダンジョンだ。

 昔のリソース不足のゲームでも、せめて色違いの敵は出してきただろうに。

 それがずっとスケルトンとは……。

 いやまあ、死んだ船員の骨が動いているという設定なら、確かにスケルトンしかいないだろう。脈絡のないモンスターが出てくるよりは理にかなっている。


 ふと、気配が変わった。

 気配というか、空気感というか……。

 外から聞こえていた波の音が、急に止まったのだ。


「クソがよ……ずいぶん遠いじゃねぇか……」

 現れたのは、椅子に座った柴田だ。ボサボサの髪に青白い顔。もう鼻血を出している。

 また時間を止めて、夢に介入してきたか。

 しかし「遠い」とは?

 夢に近いとか遠いとかあるのか?


 苦しそうに呼吸をする柴田の首筋に、C子がチェーンソーを当てた。

「なに? また来たの? なんの用?」

「ま、待て! 待てよ! 殺すな! 問題だぞ!」

 それを無視して、C子は仲間の二人へ告げた。

「こいつ、政府の犬だよ。なんかあたしらのこと嗅ぎ回ってて」

「だから、誤解だよ……」

「なにが誤解なの? あんたのせいで結婚するハメになったんだけど?」

「俺が趣味でやってると思うのか? えぇ? こっちにも選択肢なんてねぇんだよ。苦情なら間宮に言えやボケが……」

 そうかもしれない。


 俺も金属バットを担ぎ、柴田の近くへ寄った。

「で、ご用は?」

「監視だよ……。またお前らが夢見てるみてぇだからな……。昨日の夢には入れなかったし……。てめぇがちゃんと報告しねぇから、俺が駆り出されるハメになる……」

「知るか。夢の内容なんて、おぼえてるほうが異常なんだよ」

「イキリやがって……。そのウソがいつまでも通用すると思うなよ……。バクの力が弱まってんのは分かってんだ……。なのに昨日のは……」

「分かった分かった。なにかあったらちゃんと報告しますから。ねっ? 見ての通り、こっちも忙しいの。世間話なら後にしてくれませんか?」

「ナメやがって……いつかぶっ殺してやる……」

 その前にこいつが死にそうなのだが。

 ケーブルからも血が滴っている。過重労働なのでは?


「クソ、限界だ……」

 柴田はそんな言葉を残して、ふっと姿を消した。

 夢の中の時間も流れ始めて、船倉にぶつかる波の音も戻ってきた。


 野人はきょとんとしていた。

「誰なんだ? 知り合いか?」

「戻ったら説明しますよ」

 話せば長くなる。

 その上、たいした話じゃない。

 顔を出さないで欲しかった。


 *


 野人の言う通り、どこまで行ってもスケルトンまみれだった。

 作戦は成功を重ねた。

 彼らの作戦は、本当にあと一押しだったというわけだ。


 最後のドアを開くと、手狭な部屋に、男がうずくまっていた。

 痩せこけて、ギラついた目の老人だ。膝を抱えて地面を見つめている。見た目で判断して悪いが、日本人ではなさそうだ。


「ご老人、無事か?」

 野人が話しかけるが、言葉が分からないといった顔で見つめてきた。

 この夢の主は、国外の人物なのか?

 素性がよく分からない。

 いまどきこんな古い船が航行しているわけもないから、きっと現実の話ではなく、映画か物語から着想を得た夢なんだろう。


 野人がなにかを説明してから、護符を貼った。

 老人の口から悪意を吐き出される。

 野人がそれをつかんで引きずり出すと、少年がナイフで絶命させた。


 老人の命までは奪わないようだ。

 まあ、奪う必要もないんだが。


 さて、仕事は終わりだ。

 夢も終わり。


 なのだが、しばらく待っても終わらなかった。

 もうなにもないというのに。

 コマはうまく夢をコントロールできなくなっているのだろうか? 力が弱っているというのは、本当なのかもしれない。


(続く)

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