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5 カフェオレとカツサンド (第5話 沈黙の図書館)

✦第5日目

☆現実パート


比奈はスマホから目を上げて、隣に座る少年の手を見た。

カフェオレのカップを、ぎゅっと強く握りしめている。


その指先が、少しだけ白くなっていた。


「ねえ、君……お腹、空いてない? パンもつけようか?」


自然に出た言葉だった。

考えるより前に、口が動いた。

少年は、しばらく何も言わずにうつむいていた。


比奈は立ち上がって、店の奥へ向かった。

戻ってきた彼女の手には、温かいカツサンドが二つ。


「温めたけど、そのままの方がよかったかな?」


ひとつを少年の前にそっと置く。

彼は、それをしばらくじっと見つめていた。


「食べて? 私もお腹すいちゃった」


そう言って、比奈が自分の分をかじり始めるのを見て、

少年の目が、わずかに緩んだ。


そして次の瞬間、溜め込んでいたものを吐き出すように、

勢いよく食べ始めた。


その姿を、比奈は黙って見守った。


(……やっぱり、空腹だったんだ)


そう思いながら、心の奥で何かが静かに揺れた。


「じゃあ、食べながら聞いてね」


イートインの空間に、比奈の声だけが柔らかく響いた。




★『心の迷宮を抜けて』★第5話 沈黙の図書館


赤い川を渡った先に、マール君はそれを見つけた。


重たそうな扉。

色褪せた外壁。

音ひとつしない空気。


そこは、古びた図書館だった。


扉の前には、小さな鍵穴がぽっかりと口を開けている。


マール君はポケットから、小さな鍵を取り出した。


震える手で鍵を差し込むと――


カチャリ。


鈍い音とともに、扉は静かに開いた。


中からは冷たい空気が流れ出し、マール君の頬を撫でた。


無数の本が整然と並ぶその空間は、時間が止まったかのように、

完全な沈黙に包まれていた。


マール君は、ゆっくりと一歩を踏み出す。


本棚の間を歩きながら、ふと、一冊の古びた日記に目がとまった。


手に取ると、表紙は擦り切れ、ページは黄ばんでいた。

文字はかすれ、ほとんど読めない。


でも、そこにあったのは確かだった。


「伝えたくても、伝えられなかった言葉たち」


ページのひとつひとつに、誰かの小さな叫びが、そっと綴られていた。


マール君は、その日記を胸に抱きながら、つぶやく。


「……僕も、ここに書きたい」


この場所で、自分の声を見つけたい。


沈黙は、怖いものじゃない。

逃げるものでも、埋めるものでもない。


自分自身と向き合うための、大切な時間だ。


マール君はゆっくりと床に座り、

空白のページに、自分の物語を書き始めた。


それは、まだ誰にも届かない小さな声。


けれど、確かにそこにある“はじまり”だった。





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