【第7話】「記憶と勇気のマーケット」
修復率は50%まで上がっていた。
でも、それ以上に疲労感があった。
めもりんが言う。
「ねえ未来くん、ちょっと休憩しよ? 今日は『マーケットエリア』が開いてるよ」
「……マーケット?」
「うん、【メモリシティの記憶商店街】。RPとBPを使って、いろんな"記憶の断片"や"感情の種"を交換できるの」
案内されてたどり着いたのは、にぎやかな商店街だった。
空にはゆっくりと回る歯車の雲。
屋台や露店が立ち並び、記憶の形をした商品が並んでいる。
「いらっしゃい! RPでもBPでもいいよ~!」
店主の声に押されて、俺は店先に近づく。
そこには、ガラス瓶に入った記憶の断片が並んでいた。
「RPって……?」
「リグレットポイント。後悔にちゃんと向き合えた時に得られるポイントだよ」
「交換できるのは、閉ざされていた記憶のかけら。
たとえば、今の君なら――これとかどう?」
めもりんが指差したのは、「祖母と小さな公園で過ごした夏の日」という名前の欠片だった。
「これ……見覚えある。たぶん、忘れてた記憶だ」
「RPを100ポイント使えば、取り戻せるよ」
少し迷ったが、俺は購入した。
瓶が光を放ち、頭の中に温かな感覚が流れ込んでくる。
――小さなベンチ。風鈴の音。
祖母がくれたアイスと、ひざの上で眠った自分。
「……なんか……いいな」
「ね、ちゃんと"いい記憶"も残ってるんだよ」
BPを使ってもアイテムを買えるらしい。
BPはブレイブポイント。
行動した勇気、自分を許した時に得られるポイント。
ある棚には、「昔の自分にあった前向きさ」みたいなタイトルの結晶が置かれていた。
「これ、BP150で交換できるよ。使えば――ちょっとだけ、勇気を取り戻せるかも」
「買ってみる」
BP150を差し出すと、結晶が淡く光りながら俺の胸に吸い込まれていった。
不思議と、心が少し軽くなった。
「もう一度やってみようかな」と思えるだけの、あたたかな何かが心の底から湧いてくる。
「RPは"向き合った過去"、BPは"乗り越えようとする現在"」
「どちらも、未来くん自身が生み出した大事な力だよ」
商店街の出口で、ふとめもりんが立ち止まる。
「次のステージ、ちょっと厄介かも。だけど……今の君なら、きっと行けると思う」
「……うん。行ってみよう」
胸には、ほんの少しの勇気と、取り戻した記憶が灯っていた。