【第6話】「ケンタとの再挑戦」
文化祭の記憶修復を終え、メモリーシティに戻ると、夕暮れの街並みがどこかやわらかく見えた。
風に乗って鳴る風鈴の音が、まだ胸に残っている。
「ケンタ……次は向き合えるかな」
自分に問いかけるようにそうつぶやくと、ステージ選択パネルが再び開く。
【記憶修復ステージ:友人との衝突】(難易度★★★)
前回拗らせてしまったからか難易度が上がっている。
(もう逃げない)
光に包まれ、俺は再びあの日の放課後へと足を踏み入れた。
目の前に広がるのは、夕日で染まった中学校の校舎裏。あのときと同じ風景。同じ空気。ケンタが待っていた。
「……なんだよ、来たのかよ」
ケンタの声は硬い。
俺は数歩近づいて、視線をそらさずに言う。
「話したいことがある」
「今さら?おまえ、ユキのこと……全部知っててやったんだろ。あれ、ただの裏切りじゃねえか」
「ごめん」
「は?」
ケンタの眉がピクリと動く。
「謝って済む問題か? おまえ、あのあとどんな顔して俺の前にいたか覚えてるか?」
「……覚えてる」
「ふざけんなよ!」
怒鳴り声とともに、ケンタの拳が壁を叩く。
「俺、おまえのこと本当に親友だと思ってた。だから、信じてたんだよ……!」
その瞬間、世界が歪む。
空が割れ、影が這い出すように現れた。
【嫉妬と裏切りの影 Lv5】
それはケンタ自身の記憶が生んだモンスター。燃えるような目、握りしめた拳。かつて俺に向けた信頼が、今は怒りと痛みになっていた。
めもりんが警告を飛ばす。
「この影は、ケンタくんの心そのもの。未来くんだけの意志ではもう対処できないよ!彼自身が、自分の想いと向き合わないと!」
俺は影に立ち向かおうと構える……しかし、武器は出現しない。
(武器が……出ない!?)
「未来くん、それは“あなたの覚悟”だけでは足りないってこと!」
思わずポケットを探る。指先に触れたのは――【雪の結晶】。
ユキが遺した、想いの記憶。
「……ユキ、今だけ力を貸してくれ」
ピアスを握りしめた瞬間、空間が淡く輝いた。
『……ケンタくん、聞いてあげて。未来くん、本当は――』
微かにユキの声が響く。
ケンタがはっと目を見開く。
「……ユキ?」
俺はまっすぐに言葉をぶつけた。
「ケンタ。俺は……ユキの気持ちも、おまえの気持ちも知ってた。でも、それを無視して、自分の欲に流された。最低なことをした。だからって、言い訳する気はない。ただ……おまえと、ちゃんと向き合いたかった」
ケンタは口をつぐむ。
「……俺、何度もおまえに問い詰めたかった。『なんでそんなことした』って。でも、おまえが何も言わないから……余計に許せなかった」
その瞬間、ケンタの胸元に淡い光が灯る。
「でも今は……少しだけ、聞いてやる」
「……ありがとう。ユキとのこと、もう一度話させてくれ」
俺は深呼吸してから、言葉を続けた。
「告白した時は、ほんとに軽い気持ちだった。みんなが盛り上げて、流されるままに。でも、付き合ってるうちにユキのことがどんどん好きになって……でもその時にはもう、間違えた順番で関係を始めてしまってて、後戻りできなかった」
ケンタは目を伏せていたが、耳を傾けているのがわかった。
「だから、『好きになれなかった』って嘘を言って、全部終わらせた。自分勝手に。ケンタ、おまえのことを思えばこそ……なんて、言い訳にならないのはわかってる」
ケンタは拳を握ったまま、しばらく沈黙した。
「……あいつ、あのあと泣いてたんだ。俺が慰めようとしたら、なんで未来くんじゃないのって……」
その言葉に胸が締めつけられるような痛みが走った。
「ほんとに、最低だった。でも、ちゃんと謝りたいってずっと思ってた」
影が一瞬にしてひび割れ、砕けて霧のように消えていく。
【共鳴の証】が出現し、俺の胸元に新たな武器が現れる。
【ツイン・リンクブレード】
二振りの短剣。片方は自責、もう片方は友情の象徴。二人の和解によって初めて現れる武器だった。
《記憶修復完了》《修復率+50%》《報酬:BP180、RP120を獲得しました》
ケンタは肩を落として、少しだけ笑った。
「もういいよ……あと実はあの後、ユキにずっとアプローチしてさ。俺たち結婚したんだ。一応招待状送ったんだけど……届いてなかったなかったよな……」
「いや、どんな顔して会えば良いかわからなくて……」
ちゃんと招待状は届いていた。
今目の前にいる二人は現実の二人なのか、自分の後悔が生み出した幻想なのかわからないが、すでに二人は俺のことを許していたのかもしれない。
後悔が後悔を呼び、がんじがらめになった俺は前に進むことができなくなった。
もう一度、やり直したい。