【第5話】「文化祭の告白」
メモリーシティに戻ると、ステージ選択パネルが再び表示された。
(……このままケンタと向き合っても、きっとまた失敗する。
何かが、俺にはまだ足りていない。誰かと本気で向き合う覚悟が)
そう感じた俺は、別の記憶を選ぶことにした。
【記憶修復ステージ:文化祭での告白】(難易度★★)
(……これ、やるのか)
淡い光に包まれながら、俺はそのステージを選んだ。
《記憶修復開始》
視界が切り替わる。
そこは、中学時代の文化祭会場。屋外ステージのカラフルな装飾、にぎやかな音楽、模擬店の匂い……すべてが懐かしい。
(この日、俺は――)
「なあ未来、おまえさ……今日、ユキに告白してこいよ」
そう言ったのは、ケンタだった。
「え?なんで俺が」
「だって、ユキが未来のこと好きだって聞いたぜ?」
ケンタが笑って言ったその時、俺は知っていた。
ケンタが、ずっとユキのことを好きだったことも。
だけど、俺は面白半分でその提案に乗った。
(あの頃の俺は、最悪だった)
ユキをステージ裏に呼び出し、俺は軽く笑って言った。
「……好きです。付き合ってください」
その言葉に、自分の感情はまるで込められていなかった。
ユキは目を丸くして、少しの沈黙のあと、恥ずかしそうに頷いた。
その一週間後、俺は――
「……やっぱ、好きになれなかった」
そう言って、一方的に別れを告げた。
ユキがどんな顔をしていたか、今でも忘れられない。
(後悔してる。あんなの、誰かの気持ちをもてあそんだだけだ)
そして今、その場面が目の前に再現されている。
「ユキ……あの時は、ごめん」
俺がそう言いかけた瞬間、空気が震え、ステージの床が裂ける。
そこから現れたのは、影のような存在。
【羞恥と偽りの影 Lv4】
長い黒髪が顔を覆い、涙が黒く垂れている。まるで恥と怒り、悲しみが混ざった影のユキ。
『あれも冗談だったの? 笑ってたよね、裏で』
「……違う、違うんだ」
影が鋭い爪のような腕を振るい、俺を狙ってくる。
めもりんの声が届く。
「未来くん!これは君が“他人の想いを軽く扱った”記憶から生まれた影! 本当の気持ちで向き合わないと、何も変わらないよ!」
俺はぐっと息を呑み、真正面からモンスターを見据える。
「俺は……ユキの気持ちも、ケンタの気持ちも、全部わかってたのに……何も考えてなかった。楽しかったんだ、チヤホヤされるのが」
影が一瞬止まる。
「でも、あれは間違ってた。ユキ、ごめん。君の好意に甘えて、自分の虚栄心を満たしただけだった」
その言葉に、光の粒が宙に舞い、俺の右腕に新たな武器が現れる。
【レゾナンスシールド】
青白く光る半透明の楯。それは自責と誠意から生まれた、心を守る意志の具現。
「ユキ……ごめん。本当に、ごめん……!」
俺はシールドを構え、影の攻撃を正面から受け止める。そして、全身の力を込めて踏み込み、心の叫びを放った。
「好きになれないって言ったけど、それは嘘だった……付き合ってからユキの良いところを知って、どんどん好きになっていって……でも、ケンタがユキのことを好きだと知っていたから、付き合った後に2人になんて悪いことをしてしまったんだと思って、好きになれないと言ってしまったんだ……もう遅かったのにな……」
影がわずかに顔を上げ、涙を流しながら小さくつぶやいた。
『そういうところが好きだった……』
その言葉に、さらに光の粒が舞い、俺の手元にもうひとつのアイテムが現れる。
【雪の結晶】
雪の結晶の形をしたピアスだった。それは、ユキの想いが形になった記憶の残響だった。
「これを身に着けてれば私を呼び寄せることができるの。ケンタとも仲直りしてね」
光の一閃が影を包み、やがて静かに消えていった。
《記憶修復完了》
《修復率+30%》
《報酬:BP130、RP90を獲得しました》
静まり返った文化祭の会場に、夕日が差し込む。
模擬店の軒先に吊るされた風鈴が、微かな風に揺れて鳴った。
めもりんの声がそっと届く。
「よく言えたね、未来くん。自分の間違いを認めるのって、すごく勇気がいることだよ」
俺は拳を握った。
(次は、もう二度と……誰かを軽く扱わない)