【第4話】「ケンタとの喧嘩」
「よーし、それじゃあ次のステージはこれに決定っ☆」
めもりんが表示したステージ一覧の中に、ひときわ目を引く名前があった。
【記憶修復ステージ:親友ケンタとの喧嘩】(難易度★★)
表示された映像には、教室の隅で向かい合う二人の少年。
一人は俺、そしてもう一人は、ケンタ――子供の頃、ずっと一緒だった親友だった。
(ケンタ……)
ある日、喧嘩を境に話せなくなった。
謝るタイミングを逃し、結局そのまま卒業。
《記憶修復開始》
画面が白く染まり、気づけば俺はあの頃の教室に立っていた。
夕焼けの差し込む窓、机の落書き、教科書の匂い――すべてが鮮明すぎるほどリアルだった。
そして、目の前にはケンタ。
不機嫌そうに腕を組み、睨みつけてくる。
「なんだよ、おまえ。今さら何の用だよ」
その一言に、胸の奥がズキリと痛んだ。
(……ここで、ちゃんと謝れていれば)
「ケンタ、あの時は……ごめん」
素直に頭を下げる。
けれど、ケンタの表情は変わらなかった。
「は?今さら謝って意味あんの?おまえ、俺のこと裏切ったんだぞ」
空気が急に冷たくなる。
そしてその瞬間、背後の黒板が割れ、そこから暗黒の霧が噴き出す。
出てきたのは、巨大な影のモンスター。
【固執の残滓 Lv3】
無数の腕を持ち、怒りと悲しみを絡めたような呻き声をあげている。
「うわっ……!」
めもりんの声が響く。
「未来くん、気をつけて!これは“ケンタの後悔”が実体化した記憶のバグだよ!」
(ケンタの……?)
俺の謝罪だけじゃ、意味がない。
この記憶は、俺だけじゃなく、ケンタ自身が後悔してる記憶。
モンスターの咆哮が響き渡り、戦闘が始まる。
だが、インサイドブレードは反応しない。
「くそ……武器が……!」
俺は、もう一度ケンタの目をまっすぐ見た。
「ケンタ……昔はあんなに一緒に遊んでたじゃないか……」
「ふざけんなッ!!」
ケンタの叫びとともに、モンスターが咆哮を上げ、俺を吹き飛ばす。
視界が赤く染まり、システムの音が響いた。
《修復失敗》 《現在の修復率:5%(変動なし)》
俺は、地面に膝をついた。
めもりんが叫ぶ。
「この記憶を修復するには、これよりも先に解決しないといけない後悔があるのかも」
(これよりも先の後悔……)
めもりんの声が、優しく響く。
「大丈夫、未来くん。それだけ人間関係は複雑なんだ。 でも、また挑めばいいんだよ。……一緒にね」